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たー坊に学ぶ人を魅了するための小悪魔的アプローチ

最初のアイコンタクトは、つぶらな瞳でじーっと3−4秒ほど相手を見つめること。かわいい、と相手の大人をこちらに引きずりこんだら、瞬時にムーと文字通りに口をぎゅっと結んで三角にする。これは素早さがみそ。その時、ほっぺの色は真っ赤に。唇とほっぺだけでなく、顔全体を少しプルプルさせるとなお効果的。そして大抵の焦った大人は急いで覗き込んでくる。その人の全力で満面の笑みをもってして、「たー坊ー!」とあやしてくれるその瞬間、あえてのひきつり笑いでニコッ。

「これはいける」、「自分にだけは懐いてくれる!」相手の大人をそう思わせたらしめたもの。ムーの赤ら顔から引き攣り笑いと事態が好転すれば大人は陥落も同然。あとはニコニコとムーを適度に繰り返せばいい。大抵の大人はこれでイチコロ。生後約半年間、たー坊と過ごしてきて、たー坊から学んだ人を魅了するためのアプローチの真髄だ。

たー坊は人を魅了する方法を熟知している。生まれてからずっとこの小悪魔的アプローチで何人もの人を魅了してきた。たー坊はそもそも「たらし力」が高いんじゃなかろうか。生まれたその日から総合病院のNICUにいたたー坊は、看護師さんからもすこぶる可愛がってもらい、「今日はよく笑ったよー」とか、「沐浴中も寝てましたよ」、「笑顔で鼻の管を抜こうとするんですよー」、「おならもゲップもご立派ですよー」、「哺乳瓶からミルクをあげると手を掴んできてじっとみるんですよ。たまりません」とか本当に様々な小悪魔的テクニックをご披露してきたようだ。

生後4ヶ月ごろの事。卵円孔開存という症状の可能性が出たため、新生児科の先生からの紹介で小児科の心臓専門の先生に見てもらった。

病院にしかいたことがないたー坊にとって病院は嫌なところだという認識がない。むしろ毎日規則正しく面倒を見てもらい、手厚いサポートで心地よく過ごしていたのだと思う。

それでも本能なのか、先生に診察される時は、基本まずは寝たふりをして嵐が過ぎ去るのをじっと待つ(ちなみにこの癖は退院してからもよくみられ、初めておじいちゃんのヤス(私の父)に抱っこしてもらった時も、寝たフリをしながら、薄く片目を開けては「やばい、まだ抱っこされている。嵐が過ぎ去るのを待とう」と目を閉じて寝たふりをするということを繰り返していた)。

それで診察が終わればしめたもの。その心臓チェックの際は、それで嵐は過ぎ去らなかった。おそらくたー坊の期待とは裏腹に診察が進んだのだろう、こりゃ黙ってても事態は好転しないと思ったのか、急に目をぱちっと開けて、エコー画面をみるためにたー坊に背を向けた先生の白衣の裾をチョコンとひとつまみ。クンとひっぱった。

そこで、「あらら〜。先生の裾を掴んでる」と母親の私のナイスパス。先生が「あれー」と言いながら嬉しそうにたー坊を見つめたその瞬間。じーっと先生を見つめたあと満面の笑みで「ニコッ」として、「あ、いま起きたんですよ。つい掴んでしまいまして、てへぺろ。」みたいなちょっと照れたような顔をして見せた我が子にはただただ感心するばかりだった。危うく親の私までキュンキュンするところだった。

21番目の染色体を通常より一本多く持ち、他の人と違う身体の設計図を持つたー坊。たー坊にとっては少数派で必ずしもいつも生きやすいわけではないこの世の中で、人に好かれそして可愛がられながら生き抜いていく小悪魔的アプローチは神様から授けてもらった大切なものなのかもしれない。

21トリソミーの子供だちはニコニコする子が多いと先輩ママから聞いた。確かにたー坊も生後まもない頃から何もないはずの天井を見上げてはニコニコ楽しそうにしているのをみると、「この子大丈夫だろうか」、「うちに何かいるんじゃないか」と思わず同じ方向を見上げて、そして心なしか不安にならずにはいられなかった。

【生後5ヶ月。カメラ目線はお手のもの】

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