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みどりさんへのプレゼント

みどりさん

わたしは母の姉(つまり叔母)を「ママ」と呼んで慕っていた。ママは会員制クラブのママをやっていた。ママは母より10歳以上年上だったので、力関係は明らかだった。「みどりぃ~。おぉ~い、みどり~。」と始終呼びつけていた。それで、我が家で母は「みどりさん」であった。
母は随分若く見えたので、知らない人が見たら、ママが母親で、みどりさんとわたしは姉弟に勘違いされるのも無理なかった。呼び名から考えても、勘違いされない方がおかしいくらいだった。

みどりさんと軍曹

父もみどりさんより11歳年上でママと同世代だった。戦前生まれの九州男児で亭主関白だった。家庭で威張り散らし、外面はいい。ママとも折り合いが悪かった。教育方針は厳格そのもので、5分前行動、飯は早く食え、行動がゆっくりなわたしには地獄の毎日だった。
「今が戦時中なら、お前の様な愚図グズは真っ先に死ぬんじゃ。」と我が家だけは、終戦を迎えていない戦時下の生活を余儀なくされた。そこで、我が家では父を「軍曹」と(陰で)呼んでいた。
わたしは何故みどりさんが軍曹と結婚したのか不思議で、何度も尋ねた。その度にみどりさんは「騙された。」答えた。

初給料

アルバイトに勤しんで、月末に初給料を頂いた。今を思えば、少ない額だったが、単純に嬉しかった。何枚かの一万円札を眺めながら、いつも優しかったみどりさんを想った。お金が入ったら、時計を送ろうと心に決めていた。それは、実はわたしは小さな頃、母が大切にしていた時計を壊したからだ。詳しい話は、また別の話。
お金を握りしめて、安売りのブランドショップに行った。予算が予算なので、大した時計は買えなかったが、なるべく上品でみどりさんに似合うものを選んだ。
わたしは、みどりさんが大好きだ。明日へ続く。

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