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浜村温泉で映画をつくる記録〈6〉キーワードその③ホームレス

広島にすごいホームレスがいる。共通のニックネームがある。多分、広島の人は「あ~」ってなる。なんかでもそのニックネームを書くと完全に個人を特定できてしまうレベルなのであえて書かないけど。カープの選手より認知度あるんじゃないかというくらい。私は鈴木誠也よりも栗林良吏よりも先に、このおっちゃんのニックネームを覚えた。

はじめてこのおっちゃんを見たときに、本当に本当に失礼なんだけど、私は、桃井かおりさんがパッと出てきてしまった。なんでかわからない。桃井さんなら、このおっちゃん、演じられるんじゃないかと思ってしまった。

このおっちゃんは、あくまで私目線なのだけど、かなりセンスある。体中にぬいぐるみを縫い付けたり、時計をぶらさげたり、カラフルなクリアファイルをつなげて烏帽子にしたり。もうとにかくオシャレなのです。そしてオーラがすごい。ホームレスと言えば、公園の片隅とか、高架下にひっそり暮らしているイメージがあったのに、このおっちゃんにイメージをぶち抜かれた。おっちゃんは、広島で一番、家賃の高そうな、中心地の、百貨店のある交差点の花壇前のベンチにいつも大量の荷物(これまたセンスある袋に入れて)を携えて座ってる。ニコニコしながら何かをつぶやきながら。なんか、本当に幸せそうなのです。

そんな場所にいるもんだから私はほぼ毎日会う。仕事中、帰宅中、遊びに出る時も、なんなら1日3回会う日もあって、そのたびに烏帽子の造形が変わっていたりするものだからもうほんと、かっこいいなと思ってしまう。

でもやはり、他の通行人は、冷たい視線をやる。それでも、おっちゃんはニコニコしてる。断然、おっちゃんの方がでかい人間に私は見える。たまに警察に追い払われたりしていて、素直にさっと立ち退く姿を見て、なんか無性に切ない気持ちになったりもする。私はもう一目見たときからファンなのです。

なんでこんなに、あのおっちゃんに魅了されるのか、考えてみた。私はいつも自分の居場所を探してる。家族には居場所はなく、自分の家庭を作ろうとしたけど失敗し、友達には遠慮しちゃうし、職場は職場として一線引きたいし、恋人にもハマりすぎないようにと自制してる。で、私の居場所って一体どこなんだろうっていつもいつも考えて苦しんでる。それが、おっちゃんは、どうだろう。いつも、ひとりぼっち。だけど、ニコニコしてる。何かを探すそぶりもなく、他人からどんなに冷たい視線をあびても、今座っている場所が当然自分の居場所だというように堂々としてる。なんか、本当に尊敬してしまう。どんな気持ちでいるんだろう。私の持つような悩みを乗り越えた人なのか、もしくは、元からそんな悩みを持たない人なのか。こんなに毎日会うのに、またこのおっちゃんも雲の上のような存在に感じているのです。

前の記事で書いたとおり、この映画では私の「桃井かおりさんと仕事をする」という夢を叶える目的がある。

だから少なくとも出演者は、桃井かおりさん、そして、私も出る。だけど、私は、どんな役をしたいかなっていうイメージはまだない。私は自由に動けるようにしておくべきだとも思っていて。もちろん女優として出演はするし、桃井さんと芝居するシーンは必ず作るけど、私は自由に使えるコマとして取っておくことにして。

なにより、私は、桃井さんがこのおっちゃんのようなホームレスをやるところを見たいのです。






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