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ショートショート020『秘仏・棒アイドル』

「はい、皆様、こちらが『仏棒』でございます。
わたくしの5代前の住職が、なんとも言いようのない神々しい木材を発見し、取り憑かれたように彫り上げた、小さな棒状の仏像でございます。その姿は、知人の仏師をも黙らすほどだったとか……。
そう言いますと、秘仏だとお思いかもしれませんが、仏像とは本来、今世を生きる人々へのほのかな光になるような、そんな存在でございます。
仏像を英語でなんと言うか、ご存知ですか?
なんと、アイドル、と言うのです。あの歌ったり踊ったりするアイドルと同じです。偶像、という意味なのです。
幻のようで触れられない、けれど温かくて手をかざしてそばにいたいような、おすがりする術(すべ)なのです。
歌ったり踊ったりするアイドルに執心されている方も、きっと日々をアイドルに癒してもらおうとおすがりしているのかと思います。
このお話をすると、こちらの仏棒を棒アイドルなんて言う方もいらっしゃいますが、この仏棒だけが皆様の心の拠り所、アイドルなのではございません。
人々にとって仏像、偶像、つまりアイドルは誰の心の中にもあるものなのです。決して、この仏棒だけが、皆様の心を癒し、諭すものではないのです。
そういった自分だけの仏様、アイドルが皆様の心にもございますように。
また、先に仏の世界に旅立たれたお身内様が、皆様のアイドルとなりますように。
最後に。
こちらの仏棒ですが、ご開帳はいつですかなどと聞かれますけれども、わたくしどもの寺ではいつでも門扉を開いておりますので、おすがりしたい時にお声がけくださいませ」

この住職、温厚で、檀家の言葉ひとつひとつに耳を傾けてくれると人望が高い。
難点があるとすれば……
この仏棒、5代前の住職が塔婆を書こうとしたところ、その木材に飲みかけのコーヒーをこぼしてダメにして、廃棄のために細かく刻んだところ、仏の顔が浮かんだように見えるコーヒー跡を使って、幼馴染の仏師の見よう見まねで仏像的なものを彫っただけのもの、ということに気づいていないことだ。

<了>
(また410文字程度を守れなかった……倍の長さがあってすみません)

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