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ショートショート029『毒吐き南瓜かみつき事件』

午前4時、急患が運ばれてきた。
顔は真っ青で、ガタガタ震えている。
なかなか……なかなかにヤバい。
運んできた救急隊員が言った。
「山中を歩いていたところ、何かに噛まれたそうです」
「こんな時間に!?  何かって何に!?」
私は情報の少なさに、思わず複数の疑問をぶつけてしまった。
「いや、すまない。現場で、何か動物や虫などを見ませんでしたか?」
私は素に戻って、救急隊員に聞いた。
「いえ、特にはいなかったんです。山と言っても、畑に開拓されていて、害獣・害虫対策もされていました。作物はカボチャです」
私はひとつ唸ってから、救急隊員に言った。
「少し待っていてください」

患者が作っていた作物がカボチャだと聞いて、私はピンと来るものがあった。
すぐに患者の傷口を見る。
やっぱり!
これは動物でも、爬虫類でも、虫でもない。カボチャだ!

処置室から出ると、救急隊員に急いで伝えた。
「この患者さんのご家族に、作ってるカボチャを丸ごと持ってくるように言ってください。早めにお願いします」
救急隊員の頭にはハテナが浮かんでいそうだったが、敬礼をして足早に去っていった。

私は患者に点滴を打ちながら、1時間が経った頃、患者の妻がカボチャを抱えて持ってきた。
訳が分からないという顔をしていたが、奪うように受け取ると、そのカボチャをすりおろして患者に飲ませた。

すると……
「こ、ここは?  カボチャは!?」
そう言いながら、患者がむくりと起きた。
私は患者に今までのことを話した。
そして、このカボチャについても教える。
「これは毒吐き南瓜と言って、様々な病気や毒素の解毒剤になる薬カボチャなんです。育つとジャックオランタンみたいな顔がついたカボチャになるので、ハロウィン用に育てる方がいらっしゃるんですが、取るときに噛みつかれることがあるんです」
私は、その時に毒が回ることがあり、あなたはその状態だったと伝えた。
解毒剤になるカボチャなので、自分の毒を自分の毒で征することができる、不思議なカボチャなのだ。

患者は感心したように頷きながら、はてと聞いた。
「毒吐き南瓜なんて初めて知りました。ありがとうございました。……ところで先生は、なんでそんなこと知ってるんですか?」
おっと、それは聞いちゃいけませんよ、患者さん。
私は曖昧にニコッと笑って、治って良かったですね、と言った。

<了>

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