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ありのままでいい。だから前に進め!▶︎『深夜0時の司書見習い』読書感想エッセイ

ありのままでいい。だから、前に進め!
を強く意識した物語。

『深夜0時の司書見習い』近江泉美/メディアワークス文庫
読書期間:2023.02.06〜03.12

本好きなら1度は抱いたことがあるであろう、「図書館に住みたい
という野望。
図書館が迷宮の入口だったら……?
という妄想。
それを1冊で叶えてくれたのが、この物語。

【  あらすじ  】

美原アンは、都内に住む高校1年生。両親の都合で、夏休みの2週間だけ北海道札幌市の知人の家に預けられることになった。
子供じゃないから1人でも留守番できるのに、父親はどうしても、札幌へ行って欲しい様子。
渋々従って知人宅に着くと、そこは私設図書館を併設したお屋敷だった。
しかし、連絡の行き違いで、図書屋敷の住人・ノト夫妻と図書館管理人のセージは、アンがホームステイしに来たことを知らず、セージにも追い返される始末。

行くあてのないアンを心配したノト夫妻の温情で2週間いられることになったが、セージからは不思議な条件を突きつけられた。
① ネットに繋がるものを図書館に持ち込まない。
② 部屋の鍵は常にかけて、夜は部屋から出てはいけない。
③ 猫の言うことに耳を貸してはいけない。

本に対してトラウマがあるアンだが、この屋敷の猫・ワガハイにそそのかされて、真夜中の図書館へ入ってしまう。
そこでアンが見た世界は、本の登場人物や著者たちが具現化して彷徨う、図書迷宮だった。
しかし、本を読む人たちが減った今、図書屋敷も迷宮も瀕死の状態で……。
良いことも悪いことも、想像すると実現してしまう迷宮は、ネガティブ思考のアンに襲いかかる。

ルールを破ったがために、図書迷宮の運命を託されてしまったアン。
たった2週間のステイ中に図書屋敷と迷宮を救うことができるのか?
そして、父親やセージたちの秘密、アンのトラウマとは……?


久しぶりにタイトル買いした本です。
はじめましての著者さんなのですが、他にもエンタメ系ミステリーを書かれているようなので、そちらも気になります。(大好き、ミステリー!)

本好きで北海道好きなので、「図書館」「北海道」「札幌」なんて言葉が作品紹介に並んでいて、ついつい手に取ってしまったこちらの本。
私、がっつり勘違いしてました。
北海道の図書館を舞台にしたお仕事小説だと思ってました……!!

で、高校生じゃ司書資格取れないから、「見習い」だよね、なるほどね、とか勝手に思ってたー!笑

違いますよ。
北海道札幌市にある私設図書館を舞台にしたビブリオファンタジーです。
(タイトルに「深夜」って書いてある時点で気づきなさいよ……)

さて、その物語ですが、私は昔読んだ児童文学の名作『トムは真夜中の庭で』を思い出しました。
こちらは夜に現れる庭が舞台ですが、やはり子供が夜中にファンタジーな世界に誘われる物語です。
(ファンタジーというよりタイムリープかもしれん)

どちらも来たくてここへ来たわけではなく、親の都合です。
どうしたもんかと思っているうちにここで暮らすことになり、そして不思議の扉を開け、その先で出会った人たちと関わりながら成長していく……という物語の構図がちょっと似ているな、と。

でもこの物語はファンタジーだけど現代なので、スマホやSNSが出てきます。
面白い設定だな、と思ったのは、インターネットに繋がるものを図書館に持ち込んでしまうと情報があふれすぎて図書館自体が大暴走してしまうから禁止、というもの。
ここでの図書館や本は生き物なんですね。
もちろん、アンがうっかり持ち込んでしまって大変なことになるんですが(笑)

アンがこの生きる図書館の司書見習いとして働きながら、人と関わり、何度も自分のトラウマとも戦いながら、命をかけてこの世界を守ろうとしていきます。
(なにせ図書迷宮で死んだら現実でも死んでしまうし、迷宮はアンの弱い部分を攻撃してくるし)
そんなときに若き図書館長・セージからかけられる言葉が、私には刺さりました。

もう自分を責めないでいい。世界にはいろんな人がいて、いろんなことを考えてる。少し噛み合わなくて、うまくいなかい日があるだけだ。

ちょうど、職場でどうしても受け入れられない言動をする人たちがいて、残念ながら離れるわけにもいかない立場なので、どうしたもんかと悩んでいたときでした。
人間は十人十色なので、自分と噛み合わない人も絶対いて、そういう人と関わらないで過ごせることも絶対なくて、たまたま今その状態なんだなと思えたのです。
私の場合は、結局やり過ごすことしかできないのですが、それを許してもらえたような気がしました。

彼の言葉や選書で、アンは自分で自分を大事にすることに気づきます。

ありのままでいていいと教えてくれた。明日は今日とは違う自分でいようと思える勇気をくれた。

ありのままでいいけど、そのままじゃない。
なりたい自分をイメージできて、そこへ向かって変化することを恐れなくなった
のです。
それができれば、本当の意味で強くて優しい人になれるんだと思います。
私の中にもすうっと染み入った言葉でした。


って、最後まで読み切ったので抱ける感想なのですが、実は……私、最後まで読み切る自信がなかったです。ごめんなさい。
というのも、難しい漢字とか熟語が多いんです。
いや、私がアホなんじゃなくて。
そりゃ、小学校で「あなたは作文能力は高いけど漢字を知らない」と言われて、「わーい、文章力あるんだー」と両手を上げて喜んだ子供がこんな大人になっているので、そりゃ読めないかとも思いますが。
「峻烈」とか「怨嗟」とか、あまり最近の小説では使わないかなぁと。
あと、地の文や比喩が凝った文章になっているので、想像がしづらいところも。

私が優しい文章の本を読んでいるだけかもしれませんが、今の小説はこういう言葉はもっと解りやすい言葉に変換する傾向があると思います。
しかもレーベルがメディアワークス文庫なので、メインターゲットは10〜広くて30代のはず。
作中で主人公が『莊子』を読んで、「専門用語が多くて目が滑る」という部分があるのですが、「まさにそれ!」と思ってしまいました。
登場人物や世界観はファンタジーで、ドラマよりアニメ系の映像が浮かぶけど、地の文は純文学寄り、というちょっとちぐはぐな感じの小説です。
そこが新しい、のかな。

読み始めて「ありゃ、どうしよう」と悩んだんですが、この小説に出てくる物語(セージがアンのために選書した本)が『莊子』『クローディアの秘密』『シャーロック・ホームズの冒険』『おおきなかぶ』と多岐にわたるのが気になって、最後まで読み進められました。
(『莊子』を扱うとか、こういうレーベルであまりない気がする)

読書メーターを見ると、どうやら10代の高校生とかに人気みたいですね。
やっぱり、トラウマを抱えた主人公が自分に打ち勝つ物語は強いです。

本日も相棒のミッドナイトなMacBookAirからお送りしました。
また次の本でお逢いしましょう。

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