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コロナ時代・新たなる始まり 第8話「天から預かる」


コロナ禍の中、紆余曲折ある中で2020年お店がほぼ同時に2つ誕生。そして2022年。大きな流れの中で新たなカフェをクラウドファンディングでつくろとしている。ここまで主に千駄木に誕生したチョコレートと珈琲の店『ハミングバード』の流れについて主に書いてきたので、ここからはもう一つの店について書いていこうと思う。

その店は、誕生当初と今では名前も経営内容も変わっている。なぜ変わっているのかは、後に詳しく書くが、2020年中は、期間限定ギャラリースペースとして運営していた。

実は、随分と前から、ホピショップとは別に、日本各地で伝承されてきた技を今に生かしているような洋服や小物などを提供する店を、谷根千の何処かで運営したいと思っていた。

数年前には実際に店舗探しもしてみたのだが、その時にはコレ!という物件は見つからなかった。

2020年5月。私たちの居住&仕事エリアである谷根千(谷中・根津・千駄木)の中でも最も賑わっている場所にまたと無い好物件を見つけた。
もしも新型コロナなど存在しなくて、世の中の流れや世間の感覚、何よりワタシ自身の状況が、以前と変わらない状態でこの物件と出合っていたなら、ワタシは間違いなくそこで、日本の伝承されてきた技を今に伝えるお洒落なブティックを開いていたに違いない。

でも今は不安定な状態が続いている。そんな中において、日本各地の伝承技術が残る地を訪ね歩き、そこで出会った人々と新たな人間関係を一から築きあげることは、不可能に近い。だから今はタイミングではないのだ。ただ、二度と出合えないような場所か好条件で借りられるのなら、借りるのがベストだ。

ワタシは、ここをギャラリースペースとして使うことにした。ただし…2020年末までの期間限定で。なぜなら、ここは谷中の商店街のど真ん中。人通りが普段なら多く、ゆっくりギャラリーに展示しているものを見る、ということに適した場ではない。

2021年の春からは、この場に適したものにした方が良い。どのような形態に変えたら良いか、いくつか案はあった。それも追々決めていけば良い。今はとにかくコロナ禍の中で、発表の場を失ったアーティストたちに、何かしらこの場を使ってもらおう。

何より、弊社のスタッフとして20年勤務し、絵と文字のアーティストでもある、あさい享子の絵画展だけは、ここがギャラリースペースである間に、必ず開催しよう。

ワタシはそう思い、この場の床や壁などの内装工事を『ハミングバード』と同時進行で進めていた。

そして期間限定であっても名前を付けなければならない。本当はワタシたちの事務所の名前オフィスTENにちなみ「TEN'sギャラリー」としたいところだった。私たちの事務所は、何かにつけてTEN'sという名称を付けている。更にそれだけではなく、会社のホームページの中で、アート作品を紹介するページもしばらくは「TEN’sギャラリー」としていた。
でも10年くらい前、何故かとてもよく似た名前のギャラリーが事務所の近くに出来てしまった。当初、近隣の人々から、私たちがそのギャラリーを運営していると誤解されることも多かったが、そこはそこで年月を経ていくうちに、すっかり地元に定着している。

だから、何か違う名前を付けなければならない。私は、
TENを天の文字に変え、更にギャラリーをスペースにして『天’ SPACE』とした。
ここは、コロナ禍の中で神様から預かった場のように感じていたので、ちょうどピッタリだと思った。

『天's SPACE』は、『ハミングバード』より数日早く2020年7月26日に完成した。

何かここで意味ある企画を、と思っても頭の中は間もなく誕生する『ハミングバード』のことで一杯。
とは言え、5月から家賃や光熱費などは既に発生していたこともあり、無理の無い範囲で何かしらこの場を使い少しでも利益を出さなければならない。

そこで、直ぐにできることとして『ネイティブ・アメリカン雑貨店』という企画をすることにした。これならホピショップでこれまで販売していた洋服や小物を並べるだけで良く、特に労力を要するわけでもない。立地は良いので、コロナ禍でもそこそこ人通りはある。ホピショップでも、そこそこネイティブ雑貨も売れていた。この場所なら、それなりに売り上げはあるだろう、と思っていた。

しかし、考えは甘かった。想像以上に全く売れないのだ。

まず1番の問題は、ベランダのようなアルミのサッシ扉にあると思った。半分しか開かず、一人しか通ることが出来ない狭い入り口。更にガラスは少し色が入っていたので、中が薄暗くてよく見えない。昼間の明るい時間には、更に光が反射してガラスが黒くなり、陰気な雰囲気なのだ。更に通常商店街のほとんどの店についている、日除け雨除けになるテントも無かった。これでは雨の日になると、必ずお客様が入店前に傘をたたむ時に濡れてしまうだけでなく、商品を外に置くことも出来ない。

ワタシは思い切って、雨避けは日差し避けのオーニングテントを取り付けてもらうことにした。このテントだけで取付費用も含めると50万円必要とのことだったが、早かれ遅かれ取り付けた方がよい。ワタシはこの建物とマッチするようにミルクティー色の柔らかな色味のものを選んだ。

テントが取り付けられたられた日に、ちょうど看板も完成した。

その頃には『ハミングバード』のオープニングの慌ただしさも一段落してきたこともあり、以前からここでやってみたかった「谷根千にゃんこ」のグッズの販売をしてみた。

これは、私たちTENのエリアである谷根千は、猫の街としても知られていることもあり、前々から「谷根千にゃんこ」というネーミングでグッズを作ってみてはどうだろうか、と準備だけはしていたものだ。
あさい享子は、国際美術大賞展で受賞したような、ダイナミックな絵画を描くだけではなく、

このような、ほのぼのとした絵も描く愉快なアーティストなのだ。「谷根千にゃんこ」の商品は、猫好きの人々からはある程度人気はあった。ただ、世の中猫好きだけではない。「猫はあまり…。犬のはないの?」という声や「あ、猫屋さんね」と通り過ぎる人々も多く、私たちの意とするところと、ズレてしまう感覚もあった。

テントが着いてからは、外で販売などをすることも多かったが、やはり入り口が狭すぎて、中に人がほとんど入って来ない。更に入り口が傾斜しているだけではなく、商店街の中央で道が若干曲がっていることもあり、ちょうどその地に建物の入り口が重なっていた。その為、用水路の上にかかった鉄板が上手く乗らなくて、浮き上がってしまっていて、上に乗るたびガタン、ガタンと常に音が鳴る。

翌年の春から、ここを店舗にする…という案は大工事をしなければならず、状況的にはかなり厳しいな、というのがワタシの本音だった。

ただ、店舗ではなくギャラリースペースとして使うのなら何ら問題もないこともわかった。

『ハミングバード』もオープン2ヶ月を過ぎ順調に動き始めた頃、ワタシは当初の思い通りコロナで動きがストップしている様々な表現者たちに声をかけた。
この『天’s SPACE』で、10月上旬から12月下旬までのおよそ3ヶ月間に、合計7つの企画をノンストップで行うことにしたのだ。

続く…。


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