見出し画像

コロナ時代・新たなる始まり 第13話「神様の言う通り」

昔、演歌歌手の三波春夫さんが「お客様は神様です」という言葉をよく使われていた。ワタシはずっと、三波春夫さんが、お客様を持ち上げ気持ちよくさせる為、リップサービス的に使っていた言葉だと思っていた。が、そうではなかった。

「自分にとって歌うことは、あたかも神前で祈るようなもの。雑念を祓い、澄み切った心にならなければ完璧なものは届けられない。だから、お客様を神様と捉えて歌を唄い、常に歓ばせたいと思っている。お金を支払ってくださる方々(お客様)に期待外れのものを届けては、失礼にあたる。天と地の間にある『絶対』は神様であり、目の前にいるお客様は神様そのものなのだから」


三波春夫さんは「お客様は神様」という言葉の真意を問われると、そのような内容のことを常々話されていたという。

この考え方、心持ちは全ての職業にあてはまるのではないだろうか。

さしずめ、ワタシの場合は企画・プロデュースすること、と置き換えても良い。仕事をしている時間そのものが、全て神前で祈っている様な感覚であり、受け取ってくださる方々に最善を尽くしたい、と常に思っている。

これまでワタシが20年以上続けてきたTENの仕事は「自然の叡智と命の尊厳をテーマ」に様々な企画を行ってきたものだ。だからある意味で、一般的というよりは、趣旨に賛同頂き私達と同じような感覚の方々がお客様の中心層だった。

コロナ禍で状況が激変し、これまでの仕事とは異なる一昨年開いた2つのお店は、近所に新しいお店が出来たからとか、そぞろ歩きの途中に見つけたから、とふらりと立ち寄ってくださる方々が圧倒的大多数のお客様である。

有り難いことに、新たなお店にやって来られるようになったお客様も皆さんとても素敵な方々ばかりだ。本当にお客様に恵まれていると感謝するばかりなのだが、同時に屈託ないご意見も多々頂くようになった。

先に書いた通り、お客様は神様。だからそんなご意見は神様からのお言葉のようにも感じる。

『ハミングバード』はオープン直後から、「テイクアウトの提供」と「イートインコーナーが欲しい」ということをお客様から言われ続けてきた。

もちろん、私もそれが出来たら良いなと、最初から思ってはいた。が、実現するには様々な壁があった。

まずは、大家さんの許可。チョコレートと珈琲豆の店にしたいと伝えた時、大家さんから「販売は構いませんが、なし崩し的に飲食提供とかしないでくださいね」と言われていた。多分、ゴミのポイ捨てや騒がしくなることを懸念してのことから、そのように言われたのだろう。

そして、飲食許可を得る保健所の問題。実はオープンする前からこのお店は食品を扱うということで、保健所に相談していた。食品販売だけなら保健所の届出は不要だが、仮に珈琲一杯でも店で提供することがあれば届出が必要であり、飲食許可を出せるよう改革しなければならない、と伝えられていた。更に食品衛生法第51条に基づいて「食品衛生責任者」を定める必要もある為、まずはこの資格を先に取るよう言われた。

そして、最後の壁が費用面のこと。飲食業に変更するなら、それなりに設備工事費用が必要となる。

まずは出来そうなところこら、と思い「食品衛生責任者」の資格を取ることにした。ただ、資格といっても、とても簡単で、講習会に一日行くだけで取れると前々から聞いていた。申し込めばすぐに講習会に参加できて、直ぐに取れるだろう、くらいに安易に思っていたが、コロナ禍で講習会そのものの延期がかなり重なっていたらしい。
結局、ワタシが「東京都 食品衛生責任者」の資格を習得できたのは、

申し込みから半年後の、12月上旬になってからだった。

この資格を取得したことが心の弾みとなり、ハミングバードの大家さんに思い切って「お客様からのリクエストの声が多いので、もしも可能なら来年、珈琲などのテイクアウトなどさせてもらえないですか?」と恐る恐る聞いてみた。

すると意外なほどあっさりと「ずっと頑張っているしね。今のこの時代、本当に店舗経営は大変だと思う。どうにか乗り切ってもらいたいから、こちらは、テイクアウトでも何でもしてもらって構わないよ。是非チャレンジしてみてよ」という嬉しい返答をもらった。
どうやら、オープンしてから半年間、私達の様子をずっと見てくださっていたらしい。

2020年暮れ間近、ワタシは現在の図面を持って、保健所へ行った。新型コロナ騒動で保健所は大混乱という話を聞いていたが、衛生管理の部署はコロナ騒動とは別の部署だったこともあり、スムーズに対応してもらえた。

そして、現在の店舗の状態から飲食の許可を取るにはどの様なものが必要なのか。何をどの様に変革しなければならないのかも詳しく教えてもらった。

2021年に入って直ぐに、私は佳世子さんに連絡を取り、保健所で言われたことをもとに、チョコレートと珈琲豆の店•ハミングバードを、飲食可能な店舗に変更する為の図面を書いてもらった。

2月にはバレンタイン商戦。更にその直後から勃発した谷中のお店の大騒動で、ハミングバード飲食仕様計画はしばらくストップしていた。僅かばかりに入った、中小企業支援金も『TEN’s select』の扉を含めたエントランス部分に全て消えた。飲食店用に工事するお金など無い。

…と思っていたら、またしても奇跡的と言えばよいのか。谷中のお店が『TEN’s select』としてリスタートした途端、爆発的にお客様がやって来られ、洋服が売れに売れて、信じられないほどの売り上げがあった。

これは「ハミングバード・飲食店計画」を実行に移すべき時だと神様が言っているのだろう。
ワタシは直感的にそう思った。

…続く。

この記事が参加している募集

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?