「open your eyes」


 車を運転していたらイヌが飛び出してきた。気を取られていた。後方でイルカがマンホールくぐりをしているのに気がつかなかった。でも大事なのはイヌ。イヌが無事なことが第一、僕には。

 犬種はわからない。ミックスだろうか?パピヨンみたいな耳、ダックスフントみたいな脚、キョンみたいな鳴き声。

 対向車も後続車もない、一通かというぐらい狭い細道。家屋が立ち並ぶ、郊外のしずかな昼下がり。急だった。ブレーキとアクセルを踏み間違えなかったことを褒めてほしい。

 僕はどこからどこへ向かっていたのか。

 民家の入り口には沖縄でもないのにシーサーが鎮座している。窓を下げる。生温い風が吹き込む。ウッとなるが堪える。

 異臭。

 頼むから僕をどこへも連れて行かないでくれ。霧が立ち込める。空調をマックスにして、曇り止めもつけるが追いつかない。

 視界の隅にシーサーの口を開けているのが見える。メスだっけオスだっけと考えている内に意識が遠退く。

 メメントモリだろって木々の囁き声。あいつらメタセコイアだ、妙な説得力がある。

怖い。

 暗闇に包まれた後、しばらくして白い壁が浮かび上がる。ぬるっと闇から溶け出すように。壁には窓があり、女の人と年若い子供が中にいる。ただ、像が歪むので現実じゃあない。スクリーンだ。壁だと思っていたものが時折しなう。

 僕はどこにいるのか。死後の世界だろうか。どうしてそう思ったのか。今まで起きたいろいろの事が意味不明だ。理解していた筈の事象がバラけていく。何もない事は分かっているのに後ろを振り向く。



(21/8)雑誌投稿用

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