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ピー カアーカー

線路沿いの床屋の店主はだいたいいつも肘をついてテレビか何かを観ている。なんなら寝てそう。すらっとしてキムタクと同じくらいの歳に見える。
駅に行くたびに通るので、なるべく見ないようにして通る。

なぜか線路逆側にももう一軒同じテンションの床屋がある。
鳥が見たら「線路に対してほぼシンメトリーだピー」と言いそう。
店の名前も『バーバー ナカムラ』『カット キヨシ』のような絶対に店主の名前だろうというネーミング。親子でやっているのかな。
いつも前を通るのは息子『キヨシ』の方です。

一昨日は自粛解除HIだった。晴れていたし、金曜日だし、ちびっこと散歩した帰りなぜか『ナカムラ』に飛び込んでしまった。鳥が見たら首を傾げそう。

「子どもカットはいくらですか?」
ナカムラの店内は清潔感が漂っていた。
父と同じくらいの歳で、自信がありそうな雰囲気。
「子どもは2500円」
ちびっこカットに2500円はなあ、1000円くらいかと思っていた、という気持ちが伝わったのか、ナカムラさんは
「他に行った方が良いかもね」
と奥に消えて行った。

橋を渡り、キヨシにも初入店。
キヨシはいつも座っているカウンターから急の来客に左右に揺れ立ち上がった。自分でもこの空間に入ったことが信じられなかった。外からの予想通り、何となく埃っぽい店内。黒の皮張りの椅子やレバーは年代を感じ、すごく良いものだ。

「子どもカットはいくらですか?」
「子どもカットは、、2500円です。」高。値段おんなじ。協定組んでるのだろうか。ああそうですかあ、、と言って会釈し、一度出て2歩くらい行ったところで、なんとなくちょっと体験してみたい気持ちが湧く。息子に聞くと「切りたい」というのでせっかくだから切ってもらおうともう一度入った。

キヨシは大急ぎで手を洗い、その流れで手を伸ばし、棚上から天面が真っ白の子ども座面シートをわたしに背を向けてサーと拭いた。その動作の流れの不自然な速さが逆にわたしの視線を釘付けにする。

「あっちのお店はご家族ですか?」
「いや違います。真逆に同じ店って珍しいですよね、ははは」
マイペース!

いつぶりのカットなのかなー。
子ども座面シートが茶色から白に変わるということは、写真でいうと1段半くらいの露出オーバー?
ハサミの入れ方が床屋と美容室とはこんなに違うんだなあと観察。
電車が通る度息子は外を向き、切りづらそう。

「本当は性格上もうちょっときっちり切りたいんだけど、押さえつけてもかわいそうだし」
クリエイティブに言い訳はだめですよと思いつつ
カウンター前の漫画を手に取ると、そこにもホコリが溜まっていた。
僕たちはどう生きる 面白そうで借りたかった。近所なので貸して欲しいと言いそうになる自分。

なぜかキヨシさんにとても親近感を感じる。

全てが終わるとキヨシさんは安堵感と達成感を感じている風に見えた。
子どもカットって大人より大変なんだなあ。
なのになぜか値引きも。そして笑顔。
頑張った息子に労いの言葉をかけてくれる。ちょっとペタッとして見える気がするけど、気にしない。さっぱりって気持ちが良い!

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たったひとつのことで変わることがある。

今日はテレビを見ずに水拭きしてて欲しい。
そう思って、店の前を通ると定休日だった。

明日から再スタートだ、と思ってリサイクルショップで高いアクセサリーを衝動買い。
たったひとつを探しすぎ。
鳥が見たら何て言う?



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