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花小金井からの扉を閉めます

 時々、思い出すことがある。

 ある日の夕刻、花小金井駅で電車を待っていた。休日で、駅のホームは閑散としていた。西陽が鋭く射し込んでいた。
 アナウンスの後、拝島行きの各駅停車がホームに滑り込んできた。多数の降客と代わるようにして僕を含め幾人かが車内に乗り込んだ。
 乗ってから数秒後、コンコースに続く階段の上から
「待ってくれええええ!!!」
 という野太い叫び声が聞こえた。
 声のする方に目を向けたが、まだ声の主の姿を車内から確認することができなかった。
 ドアを閉める合図の短い音響が鳴ったタイミングで、50代くらいの恰幅のあるスーツ着た男性がドタドタと階段を駆け降りる姿が見えた。
「乗るうううう!!!」
 男性がもう一度叫ぶと同時にドアが閉まった。乗る宣言がホームに虚しく轟いた。
「くそおおおお!!!」
 ホームに取り残された男性は、手に膝をついてがっくりうなだれていた。傾いた上半身が上下に大きく揺れていた。その姿は、オリンピック出場を逃したアスリートの姿のようにも思えた。
 電車に間に合わなかったことをこれ程までに悔やむということは、きっと男性の人生を左右する大事な何かがあったのだと思う。この電車に乗れなかったことで、この男性は何を失うことになるのだろうか。
 車内で僕は、少しザワザワした気持ちと、とはいえ怖い雰囲気の男性だったから一緒の電車じゃなくて少しホッとしたような、安寧の感触を抱いていた。

 花小金井駅を通るたび、あの時の男性が元気に暮らしているのだろうかと、ぼんやり思う。

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