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「藝泊〜泊まれるアートを考えよう〜」オープニングトークセッション:レポート(前編)

2020年8月4日(火)に行われた、「藝泊〜泊まれるアートを考えよう〜」オープニングトークセッションのレポート。前編では、トークセッション内「AXの肝」についてのプレゼンテーションをご紹介します。
(Presenter:AX ULTRA LABプランナー 魚住)

世界をあと1ミリだけ素敵にする

トークセッションとワークショップに先立って、「AXとは何か」について皆さんに紹介したいと思います。

AXとは、Art Experienceの訳ですね、直訳するとアート体験ということになります。AXのゴールとは、世界をあと1ミリだけ素敵にするということです。世界では良いことも悪いことも起こっています。今って明るいニュースって少ないですよね。その中で少しだけ未来を素敵にすることで、1つでも明るい選択肢を増やすことを目指しています。

こう言うと、なんか理想主義なのではないかという印象を持つ人もいるかもしれません。でも全くそうではなく、究極に合理的な話なんですね。
それはどういうことか説明します。

普通に生活していくとワクワクは減衰していく

皆さんに質問なのですが最後に心からワクワクしたのっていつですか?
人によっては昨日めちゃくちゃワクワクしたって人もいるかもしれないし、1ヶ月前とか半年とか、もう思い出せないぐらい前だという人もいるかもしれません。普通に生活していくとワクワクは減衰していくはずなんですね。AXが解決すべき課題はまさにそこで、「ワクワクが消えていく世界をどうにかしよう」。

ワクワクが消えていくってどういうこと、なんで勝手に決め付けるのと思う人もいるかもしれません。

ワクワクが消えていくのには原因があります。それはデジャブ化する世界ということです。

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この数字が何かわかりますか?
3のあとに0がいっぱい並んでます。これ30億なんですけど、Googleの一日の検索数です。1時間あたりでは1億2500万。今僕が話している間にも数十万、数百万という数で検索が行われている。

世の中は情報で溢れかえっているということです。
例えば物とかサービスを考えてみると分かりやすいのですが、大体、物って買う前から内容を知っていることが多いですよね。例えばYouTubeの箱を開ける動画、Amazonのレビュー、SNSの口コミがあって、買う前から大体それが何なのか知ってる。

つまり何かを「体験する」ということが、かなり今デジャブ化している。何かを買ったり何かをやる体験というのは、どんどん追体験化しているっていうのが現状なんですね。

新奇性追求という欲求にとって「未知そのもの」が価値

でもここから皆さんに問いたいのは、そんな未来って面白いですかということです。僕やAXのチームは全然面白くないと思っている。

人間には何か新しいものを求めるとか、刺激が欲しいと感じる、新奇性追求という遺伝子レベルで組み込まれてる本能的な欲求があります。
たとえば今あまり外出してはいけないという流れがありますが、それに対してウズウズしている人は、別に間違いではなくて生理的な欲求なわけです。

新奇性が減ると欲求が満たされないためストレスが溜まってくるわけですけど、未知がどんどん減少していくことがその原因なのであれば、デジャブ化する世界の解決方法は未知そのものを作ることだと考えています。つまり、未知そのものが「価値」になるだろうということです。

デザインの本質は「問題の解決だ」とよく言われます。あるいは最近だとスペキュラティブデザインという「問い自体を作る」という提案型のデザインもあります。
AXはそうではなくて、未知自体を作っていくということがポイントになります。

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僕はAXというのは「知のヴァカンス」だとも思っています。
旅行する時の動機と新奇性欲求の関連は最近の研究でも指摘されています。「知のヴァカンス」とは、つまり”アートを感じる時の新鮮な体験”と”旅がもたらす非日常の体験”は脳の体験質としては似ているものだ、という仮説です。

五感の刺激になる体験=AXの事例

具体的なAXの例をいくつかご紹介します。

行ったことのある人もいるかもしれませんが、「三鷹天命反転住宅」

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写真を見ていただくと分かるのですが、かなりユニークな建物で、中も内装も全部面白い形になっています。全部が微妙に歪んでいるんです。
普通の建物は、例えば何か四角形だったら右と左の辺は同じ長さになっていたり、綺麗に整っているものなんです。ここはそれが微妙にどっちかの辺が長かったり、どちらかだけちょっと傾いたり、全部ちょっとした歪みが作られている。

これで何が起こるかというと本当は空間が歪んでいるのに、自分の体が歪んでいるような感覚が起こるんですね。
つまり体のマッピングがちょっとおかしい、これは幼児とか0歳児、4歳までと同じ感覚が起こっているのです。
幼児は生まれて間もないから、まだ実際の長さと脳の中の手足の長さがずれているので転んでしまったりするのですが、我々大人がこの建物に入るとそれと同じことが体験的には起こる。

体験として若返りが起こってそれが五感の刺激になるという、まさにAXを体現したような建物です。

あともう一つ、「コンスタレーション」という音響システムをご紹介します。

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よく見ると上の方にマイクとかスピーカーが100個ぐらい並んでいるのですが、建物の中にいる人の人数や時間帯、その時々に応じて、最適な環境を作る音響システムです。
中にいる人は意識はしないのですが、音響の反響が心地よくてその場所に長くいてしまったりとか、その場所に集うことの価値が無意識に高まるシステムです。

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あと僕が最高のAXだと思っているのが、流しそうめんですね。ご存知の通り、水が流れてきたそうめんを上からワッと来て箸で食べるという、合理性が1ミリもない行為なわけなんですけど、これ自体非常におもしろい体験で、しかも何百年と続いてるというのはまさにAXの効果というか、すごいクリティカルな例かなと思います。

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未来の通信量の10%を未知に関するものにしたい

僕らAXのミッションは「未知のつくりかたを考える」ということです。
最初の話に戻りますが、通信量はどんどん増大しています。今から5年間の通信量は、インターネットが始まってから今までの通信量をわずか5年で全部超えると言われています。

つまりどんどん世の中に情報が増えデジャブ化が進むのですが、その未来の通信量の10%、いやそれ以上でも、未知に関するものにできると世界をもう少し素敵にできるのではないかと考えています。

その最初の第一歩をこれから皆さんと考えていければと思います。
以上です、ありがとうございます。

▼後編はこちら


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