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哲雑5 ヒッタイトの陰影


 紀元前18世紀頃から現在のトルコ中東部ハットウシャ(遺跡)を中心とした王国があったとされています。昔はこの地域をアナトリアといい、古くから製鉄技術があったとされていますが「製鉄技術を確立し、武器として初めて使用した。」とされるのがこのヒッタイト帝国であったそうです。20世紀の後半に解明されてきた古代王国の攻防史の中でも特筆されています。

このアナトリアにあるカマン・カレホユック遺跡では鉄製品や鉄滓が出土しており、約3千五百年前の鉄の塊が見つかっています。製鉄には鉄鉱石が出土が不可欠ですが、最初は火山の噴火物や造山運動などで出た鉱物から、あるいは石器の中からそうした性質を長い時間かけて見出してきたものと推測されます。

この製鉄や製鋼技術というのは 現代では鉄鋼精錬、金属学、鉄鋼材料学等の学問体系があって、現代での理解は鉄に何を混ぜるとこういう風になるというのは 状態図や組織およびその強さなどの特性が調べられて 大方は理解できる段階まで来ています。そこには近代から現代に至る学問的アプローチがあって初めて体系化されるに至っています。

その技術は 中国では春秋戦国時代紀元前4-5世紀頃の逸話で「干将莫邪 」の名剣の話が有名ですが、大抵は山奥の隠れた村で秘伝の製法を受け継ぐ方式がとられたようです。日本史でもたたら製鉄から始まる砂鉄からの製法の話が出てきますが、古くは応神天皇のころからの記載もあるし、鉄鉱石から製鉄をおこなっていたようです。古墳時代前には日置(長門)とか 奈良時代の鋳物師(イモジ)とか鉄砲伝来では国友(滋賀)とか 地域の名前が出てきます。(古代史俯瞰 by tokyoblog参照)

こうしたある特殊集団が何代にもかけて技術的な試行錯誤を繰り返してきた技術の蓄積の伝統が現代の日本の鉄鋼技術を支えているのだと思われます。実際の現在使われている鉄鋼材料も より品質的に高いものを目指して開発が続けられています。その開発は何らかの特性についての目標値を設定し、ある場合にはその成分に追加成分を付加したり、製造工程を変えて見たりします。製造工程は例えば焼き入れ温度を5度高くしてみるとか、冷却材(水や油)の成分変更したり、保持温度を5度高める。あるいはある温度保持時間を変えるなどのパラメータを変えてみたりします。やっていることは何か原始的な感じをうけるかも知れませんね。

しかし、完全に実用化してしまった中でも新商品が出てくる。また、新会社がより品質がいいと称して勃興する。こうしたことは現代でも起こり得るし、現に起きてきます。それは当たり前かも知れませんし、おかしいと言えばおかしい。というのは量子論や相対性理論の進展よりずっと以前からある古典的、原始的な問題は科学的な進歩が急であってもまだ解明されていない部分が大きいのです。


 時代の要求も変わるという問題もありますけれど、次の問題はどうでしょうか?

料理は昔からある問題です。同じ小麦を使って その粉の粒度を変えて練り具合も変え、付加成分で 素麺、うどん、パスタ、中華そば というふうに変化するでしょう。太麺や細めんでもその出汁で味は変化します。そして好みまであります。小さいころ醤油とマヨネーズを混ぜて味見をしたような記憶はないですか? 確か「たこ焼き」はソースだけだった。今は ソースとマヨネーズと鰹節で食べてるね。・・・・というような問題もありますね。

脱線しすぎましたが、トライエンドエラーの方式がないと進歩はないのです。そのトライエンドエラーの方法論には科学的視点は不可欠です。「闇雲」では始まらないのです。
複雑な計算にはなりますが 機械構造の強度の計算はコンピュータが進歩してシミュレーションできるものは近年精度が高くなりましたが この材料の分野はある程度のシミュレーションはできますが、実際に製造して特性試験をしないとより高い品質は求め辛いのです。

現代の自然科学に基づく高度に発展した技術にあっても実際には歴史的な試行錯誤を経て、更に試行錯誤が必要な分野は多く存在しています。現代医療でも風邪は直せないが漢方は効果がある。とか このテーマでもある鉄では紀元前からあるダマスカス(ウーツ)鋼は再現できないとか まだまだ科学は欠陥が多いのです。 ただ現代は科学的思考なくしては進むものも進まないと思えます。

ここで紹介した鉄という金属はいくつもの単純系ではない複雑系の材料です。
1.「量子力学では、電子が1つである水素原子のシュレーディンガー方程式は正確に解くことができるが、電子が2つであるヘリウム原子では正確には求めることが出来ない。よっていろいろな近似をしなければならず、どのような近似方法を用いればよいかが問題になる。このように3体問題以上はすべて多体問題と呼んでもよいだろう。 」(Wikipedia)
2.特性値が物理量ではない。(例えば 硬さとか粘性、脆性は物理量に変換できない)
この二つの要素は科学的思考から考えて見ると 大きな障害となります。

こうした問題が科学的思考を必要としていると思える今日このごごろです。

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