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衛星システム技術の裏側note(第3回)

 こんにちは。再びCTOの宮下です。私の記事は「衛星システム技術の裏側note」と題して、衛星システム・運用システム・衛星画像データ処理システムなどの『技術の裏側』に関して紹介しています。第3回の今回は前回の続きで、衛星システム全体の構成の「地上パート」を中心に紹介したいと思います。また各機能の開発にどのような技術ドメインを持ったエンジニアが担当しているかを紹介します。特に地上パートは、IT系・ソフトウェア系・AI系エンジニアが広く活躍できる領域だと考えています。

一般的な衛星システムのアーキテクチャ

 前回と同じ図を用いて「地上パート」を説明します。第2回の「衛星パート」をお読みになっていない方は、先にお読みいただけると理解が進むと思います。近年、地上パートは、多くの企業が参入してきており、その範囲も広がってきました。またビジネスの内容によって、クラウドを利用するケースも多くなり、いろいろな形態が考えられます。あくまで一般的な構成ということでご理解ください。

[2.地上パート]
[2.1] 地上局システム 
 地上から衛星と通信するための設備・機器類、それに必要な計算機類をまとめて一般的に地上局システムと呼びます。衛星との無線通信には、一般的には電波を用いることが多く、アンテナや送受信機(送信機と受信機)が主な設備・機器となります。アンテナの特徴的な機能としては、衛星が地球を周回しているため(例えば地上から比較的低い高度の軌道を回る低軌道衛星の場合)、衛星は約10分程度で通り過ぎてしまうため、その動きにあわせてアンテナが追尾できる機能(アンテナの方向を時々刻々と変えられる)があることです。他方、低軌道衛星に対して静止軌道衛星の場合は、地上からみた場合には常に同じ方向に見える(赤道上空にいて、地球の自転と同じ速さで周回しているため見かけ上、止まって見える)ため、追尾機能がない地上局アンテナもあります。
 地上局システムには、衛星の追尾をするために、時々刻々と変わる衛星の位置を計算し(軌道計算と言います)、その方向にアンテナを制御する機能を持っています。もう一つ特徴的なのは、低軌道衛星の場合にかなりの速さをもって地上を通過するため、通信周波数にドップラーシフトが起こることです。そうです、救急車のサイレンが近づいてきたときと、遠ざかっていくときに音の周波数が変わって聞こえるあれと同じです。低軌道衛星は時速28000kmにもなりますので、無線通信における周波数のドップラーシフトの影響は大きく、軌道計算でそのドップラーシフトの量も計算し、送受信機の周波数を時々刻々と変化させながら通信しています。
 衛星は地球周回をしているため、地上局システム(アンテナ)は地球上での物理的位置が非常に重要な要素となります。衛星軌道の1つの種類である極軌道(北極点近くと南極点近くを毎周回通過する軌道)では、アンテナは極点付近にあると通信アクセス数が多いため地理的に優位となり、北極点に近いノルウェーのスヴァールバル諸島には多くのアンテナが設置されています。それでは北極点や南極点にアンテナを置けば良いのでは?と思われるかもしれません。技術的にアンテナ自体を設置することは不可能ではないのかもしれませんが、そこにアンテナ設備を動かす安定的な電源と高速インターネット回線がないと実用上意味がないため、南極大陸や北極点の極近辺には地上局システムがありません。また、極域近辺だけでなく、世界中に地上局を設置して多くの通信機会(時間)を提供するビジネスなども次々にローンチしています。
 近年では、無線通信の他に光通信が注目され、地上と衛星間でも光通信を用いるケースや、また衛星間を光通信等で中継するなど地上局の形態も増えつつあります。光通信技術に関してはアクセルスペースも取り組んでいるため、また別の機会で紹介しますね。

[2.2] 衛星運用システム
 [2.1]の地上局システムは、衛星と通信する地上設備・機能という位置づけで説明しました。地上局システムは衛星との通信を地上のインターネット網に接続するシステムとも考えられ、インターネットを介して、衛星と様々なデータをやりとりしています。ただし、現時点では常時、衛星とブロードバンドで接続できるわけではなく、衛星と通信できる時間(例えば10分程度)のみ、そしてそれほど速くない通信速度でやりとりをしています。そのため、その限られた時間で如何に効率よく、衛星とやりとりをするかが、衛星ビジネスを推進するためには重要です。
 衛星運用システムは、24時間動き続ける衛星を制約の多い通信下で監視し、衛星の健康状態を確認しながら、運用計画を立て(運用スケジューラー)、衛星へのコマンド(実行命令)を与えて、衛星から様々なテレメトリデータ・ミッションデータを受け取り、データを管理するなどの総合的なシステムとなります。
 衛星運用システムは広義な表現であり、運用システムといっても、その目的や機能には多くの種類があると考えています。またそれぞれの機能を完全に自動化(無人化)目指すのか、一部人手で行うのかでも開発指針や規模が大きく変わってきます。
 アクセルスペースは創業当初から、この衛星運用システムの開発に衛星本体の開発と同じくらいウェイトを置き、運用の自動化・無人化に強い指針を設け、多大な時間を掛けて研究開発をしてきました。それは、学生時代に開発した衛星を、朝晩問わず人海戦術で対応し、皆が疲弊していったのを身をもって経験したからでした(笑)そのため、衛星システム開発と深く連携し自動で(つまり無人で)衛星を運用するにはどういうアーキテクチャにすべきかを常に意識しながら開発を進めています。アクセルスペースに管制室がないのはそのためです。現在、AxelGlobeの5機のコンステレーションを運用しておりますが、既にミッション部も含め完全自動化がほぼ実現しています。また詳しい運用システムのアーキテクチャに関しては、紹介できる範囲で担当のチームに記事にしてもらおうと考えています。今後の衛星コンステレーションの時代に運用の自動化・省力化は必須の技術であり、今まで開発してきたシステムは今後ますます重要になってくると確信しています。
 
 衛星運用システムは、クラウドを用いたノンストップシステムであり、多くのIT系・ソフトウェア系・SRE系エンジニアが活躍しています。IT系の他業種の知見やプラクティスも多用しており、その分野のエンジニアからの採用を広く募集しています。

[2.3] 衛星データプラットフォーム
 衛星データプラットフォームというのは明確な定義があるシステムではなく、本記事では、アクセルスペースがサービスを提供しているAxelGlobeプラットフォームを構成しているシステムということで紹介したいと思います。地上局システムや衛星運用システムを通して、衛星からの取得したミッションデータ(AxelGlobeの場合は、衛星が宇宙から地上を撮影した画像データ)を顧客に提供するプラットフォームとなります。
 衛星から届くミッションデータは、衛星のカメラが撮った生画像データ(地上の民生カメラでいうRAW画像データのようなもの)であり、このままでは販売できません。この画像を顧客が使いやすい形に変換する各種処理が必要です。AxelGlobeでは、それを衛星画像データパイプラインというソフトウェアモジュール群が担当し、衛星から届いた画像を商品画像として提供できるように変換しています。その商品画像をウェブ上で検索、販売、提供するウェブシステムもあります。また、最新のAI技術等を用いて、衛星画像を分析する解析エンジンなどもあります。AxelGlobeのデータプラットフォームもいろいろな機能を有しており、詳しい機能やアーキテクチャなど担当のチームに記事にしてもらおうと考えています。

 AxelGlobeデータプラットフォームも、ウェブシステム系のITエンジニアや、ソフトウェアエンジニア、また画像解析のためのCV系・AI系エンジニアなどが活躍しています。

第3回まとめ:
 今回は「地上パート」における要素の紹介と担当エンジニアのドメインを紹介してきましたがいかがでしょうか?衛星システムといえば、衛星側ばかりに注目が集まりますが、衛星の運用の大変さは実はまだ世の中に認知されていないのではないかと思っています。衛星を24時間ノンストップで監視し、ビジネスを確実に遂行させるためには、地上システムが非常に重要であり、今後のコンステレーションビジネスではますます重要になってきます。アクセルスペースでも、地上パートは多くのIT系・インフラ系・ソフトウェア系・CV・AI系エンジニアが活躍しています。是非興味のお持ちのエンジニアの皆さんは我々にコンタクトをしてください。皆さんの高い技術を適用し、衛星を地上からコントロールし、ビジネスにつなげてゆきましょう。

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