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神奈川インターハイ予選にまつわるエトセトラ

6月27日、神奈川インターハイ予選の最終日を取材してきました。

コロナ禍による取材自粛を経て、2年ぶりにやって来た神奈川高校バスケの聖地・平塚総合体育館。この時期ならではの(たぶん)七夕飾りも懐かしいものでした。

この記事では男女7チーム(東海大相模はタイミングが合わず取材ができませんでした。無念!)のショートトピックをお届けしつつ、神奈川高校バスケに対する個人的な考えを綴らせていただきました。

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女子最終結果

優勝 鵠沼(3勝0敗)
準優勝 アレセイア湘南(2勝1敗)
第3位 星槎国際高湘南(1勝2敗)
第4位 東海大学付属相模(0勝3敗)

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3人制で身につけたクイックシュート(鵠沼#6横山季晴)

ウインターカップ予選、春季大会、インターハイ予選と連続優勝記録を更新中の鵠沼。最終戦のアレセイア湘南戦で特に目を引いたのが、キャプテンの横山選手でした。

迷いのないシュートで次々とゴールを射抜き、27得点(うち3ポイント4/8本)の大活躍。「追われる立場のゲームだったけれど、勝ててうれしいです」と笑顔で大会を振り返りました。

私が特に注目したのは、シュートモーションの速さ。"ボールを受けたと思ったらもう打っている"くらいの感覚で、どんどんシュートを放っていくスタイルがいつ身についたものなのかと尋ねると、「昨年11月に3x3の大会(U18日本選手権)に出た時からクイックに打つようになりました」と言葉が返ってきました。

ショットクロックが12秒と短い3x3は、5人制よりもさらにスピーディーなプレーが求められることで知られています。横山選手はベスト4に進出した同大会で得た経験を5人制にしっかり持って帰り、新たな武器としたわけですね。

鵠沼に進学した理由を「チームの楽しそうな雰囲気がダントツで、こんなチームで高校3年間をやり切りたいと思ったから」と語った横山選手。全国ベスト4という目標を目指し、インターハイに挑みます。

名将の志を受け継いで(アレセイア湘南 小室敦美コーチ)

今大会で準優勝を果たし、2年ぶりの全国大会出場を決めたアレセイア湘南は、今季より小室敦美コーチがチームの指揮をとっています。

吉田亜沙美さんや大崎佑圭さんらオリンピアンを輩出した東京成徳大学高の出身。日本女子体育大学卒業後も現役の続行を望んでいましたが、度重なるケガによりそれを断念し、地元・栃木の高校教員を経てアレセイア湘南に着任しました。

アレセイア湘南着任後は、前任の張一コーチ(現明星学園高コーチ)のフィロソフィーを新たな色に塗り替えることに相当に骨を負ったそうです。「ゾーンアタックのやり方、声掛け、プレー中の雰囲気……。こちらが意図するものがなかなか伝わらなかったのですが、ようやくこれまで築かれてきたものと新しい要素が融合し、チームが1つにまとまってきました」とほっとした様子でした。

恩師と仰ぐのは、高校女子バスケ界の一時代を築いた下坂須美子さん(東京成徳大学高元コーチ)。「下坂イズムの最後の継承者のつもりでがんばります!」と意気込む25歳のチャレンジが楽しみです。

創部3年で県ベスト4入り 星槎国際高湘南の強みとは

長身選手や中学の有望選手がいないにも関わらず、創部3年で初のベスト4入りを果たした星槎国際高湘南。埼玉県の中学校で教員をつとめ、与野東中時代に宮崎早織選手(ENEOSサンフラワーズ所属。五輪日本代表内定)を指導した経歴を持つ原田学コーチは、「小さくても戦える」を一つのテーマに今大会を戦ったと振り返りました。

星槎国際湘南の戦いぶりは、とにかくタフ。ディフェンスもオフェンスでも積極的に体をぶつけ(最近「リーガルコンタクト(ルールに則った身体接触)」という表現で取り沙汰されることが増えました)、相手のファールと体力消耗を積極的に誘うスタイルは、女子チームとしてはとてもユニークなものだと感じました。

「練習メニューの中にトレーニングは取り入れていませんから、大学生や社会人と試合をする中で培われているものだと思います。中学を指導していたころから、上のカテゴリーと競うことで実力を磨くというのが私の考え方。高校生との練習試合はほぼ行いません」。原田コーチは、このようなスタイルが育まれる素地について説明します。

ちなみに肩を借りているチームをいくつかご紹介いただきましたが、関東リーグ2部に所属するチームの名前がズラリ。同世代相手ならびくともしないフィジカルが身につくわけですね。

「今大会は、春季大会で25点差だった鵠沼に5点差まで迫り、アレセイア湘南とも互角に渡り合えました。下級生たちも場数を経験できましたし、ウインターカップ予選までにもう少し鍛え直したいと思います」(原田コーチ)

男子最終結果

優勝 桐光学園(3勝0敗)
準優勝 法政大学第二(1勝2敗)
第3位 湘南工科大学附属(1勝2敗)
第4位 県立上溝南(1勝2敗)

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絶対王者の抱える悩み(桐光学園)

2019年インターハイ予選から県では無敗。図抜けた力を誇る桐光学園は、今大会もその強さを発揮し王座を維持しましたが、最終戦の上溝南戦は最後まであわやの展開に。高橋正幸コーチは試合後、「大会がなかったので仕方ない部分もあるけど、(昨年2月の)関東新人優勝のイメージをまだ引きずっているところがある。いい薬になりました」と振り返り、インターハイ、そして集大成となるウインターカップに向けた多くの課題と反省を口にしました。

例えば、メンバー編成。15人のロスター中12人を次から次へとコートに送り出せる層の厚みは県内屈指のものですが、これはいわゆる「タイムシェア」を主目的にしているのではなく、チーム内競争を煽り、ベストな布陣を模索するニュアンスが強いもの。特に、試合経験の少ない3年生の底上げをはかる意図が強いようです。

「神奈川はスモールチームが多いのでそれに対応できる布陣にしましたが、インターハイでは大型チームとの対戦を考え、また別のラインナップを検討するかもしれない。今後も主力を固定せず、最後の最後までサバイバルする予定です」(高橋コーチ)

また、上溝南戦は勝負どころの力強いゴールアタックでチームを牽引した谷口律選手の奮闘が光りましたが、高橋コーチは「こういう場面で谷口に頼ってしまう傾向が強いので、全員でボールをシェアするバスケットをしていかなければなりません」と、この傾向も課題の一つととらえています。

上位進出が期待された昨年のウインターカップでまさかの棄権に終わった桐光学園。主力として出場する予定だった谷口選手や角田十希選手を含め、選手たちはほぼ初となる全国に大いに燃えていることでしょう。先輩たちが破ることができなかったベスト8の壁超えなるか。注目です。

頼もしきアシスタントコーチと応援団(法政二)

最終戦の湘南工科大附属戦に破れたものの、桐光学園の勝利によりインターハイ出場権を確保した法政二。春季大会の5位から2位と、大きなジャンプアップに成功しました。

今大会、主に戦術を担当したのは、2016年の同校キャプテンをつとめた久保田悠斗アシスタントコーチ。法政大で学生コーチをつとめ、大学を卒業した今春からは週3〜4日ほど後輩たちの指導に当たっているそうです。

鈴木恭平コーチが「ターニングポイントだった」と振り返る、関東大会後に行われたロングミーティング。部員同士がお互いの本音をとことんぶつけ合い、8時間にもおよんだこのミーティングに付き添ったのも久保田ACだったそう。ご自身も高3時に同様のロングミーティングを行っているだけに、後輩たちの様子をある種微笑ましく見守っていたのではないでしょうか。

また、法政二の試合で目についたのが、応援団の動き。コート上の5人がゾーンディフェンスを展開すると、応援団も一緒になってハンズアップ。

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法政二の応援団がとても元気なことは知っていましたが、以前はこういったハンドサインは見られなかったような記憶が。鈴木コーチに確認してみると「やっていないと思います。声を出して応援できない状況だからこそ、彼らなりに考えて、思いを伝える方法を考えてやったことかもしれません」とのこと。大所帯ながら、部員一人ひとりが役割を持つことで結束力を育む法政二ならではの光景だなと感じ入りました。

「あと1点」が遠かった夏(湘南工科大附)

決勝リーグ2敗という崖っぷちで挑んだ湘南工大附は、最終日の法政二戦、インターハイ出場の最低条件となる12点差以上での勝利を目指し、ダブルオーバータイムの激戦を戦い抜きました。

第4クォーター終了時はオーバータイムに望みをかけるため、同点で迎えた最後のポゼッションであえてボールキープを選択。オーバータイムは3点ビハインドの状況から鈴木春斗選手がタイムアップ残り4秒で3ポイントを沈めて同点に持ち込み、ダブルオーバータイムはエース・齋藤裕太選手の怒涛の6連続得点で、残り5.5秒でとうとう11点差にまでこぎつけ……

ただただ「すさまじい」の一言しかないゲームでしたが、最後の最後で立て続けにミスが起こり、101-91でタイムアップ。試合には勝ちましたが、インターハイにはあと少し届きませんでした。

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決勝リーグを前に2選手がケガで離脱する状況の中、わずか6人のローテーションで60分を戦い抜いた湘南工科大。試合直後の今野雄三コーチは落胆と疲労を隠せない様子ではありましたが、新チームスタート後からの選手たちの成長に確かな手応えを感じていました。

「新人戦の時は齋藤しか攻められず、アレセイア湘南に30点差で負け。そこから『みんなで攻めていこう』と意識を高め、今大会のベスト4決めで実現したリベンジマッチでは、2年生主体の攻めで大量リードを奪うことができました。(3ポイント5本を含む19得点を挙げた)鈴木も、いいシュートタッチを持っているのに積極的に打てない選手でしたが、『お前が打たなきゃダメだ。入らなくてもいいから打ちなさい』と言い続けた結果、終盤にいいシュートを決めてくれました」

冬に30点差で負けた相手に約40点差をつけてリベンジに成功し、起死回生の大逆転まであと一歩。湘南工大附がこの大会で見せてくれた物語は、ドラマよりドラマ然としたものでした。

実力を証明した"新生・公立の雄"(県立上溝南)

一昨年のインターハイ予選は支部予選敗退だったチームが、今年の春季大会でいきなり準優勝――。上溝南は、神奈川のみならず他県の関係者・ファンをざわつかせたチームでしょう。

とはいえ、春季大会は準決勝が不戦勝だったこともあり、本当の実力はいかほどのものかという見方もありましたが、決勝リーグ最終戦では神奈川の雄・桐光学園を相手に試合の主導権を握り、3点差の惜敗。春の成績がフロックではないことをしっかりアピールしました。

閉会式後、柴田悟司コーチは「悔しいですね…」と一言。「桐光のオールコートディフェンスに立ち向かえなかったのはうちの弱さでした」と話しながら「(インターハイ出場を争える)この舞台まで来られたこと自体が誇らしい。今日は『堂々とやってこい』と選手たちを送り出しました」と振り返りました。

21得点の今野海輝選手、30得点の本木幸介選手の得点力もさることながら、特に光ったのが粘り強いディフェンスとリバウンド。サイズでは不利な桐光学園を相手にしながらニュートラルボールをどんどん手中に収め、11のターンオーバーを誘発させました。

隣の記者席に座っていたあんどうたかおさんが試合中、「永田先生がいた頃の秦野高校を思い出すなあ」と話されていました。永田先生とは秦野、厚木東と2つの公立高校を全国に導いた永田雅嗣郎先生(現・成立学園コーチ)のこと。私は厚木東時代のことしか知りませんが、たしかにサイズを激しい運動量で上回るスタイルは上溝南と重なる部分が多かったですし、神奈川の公立高校には「サイズや環境に恵まれなくても、がんばれば私学を倒して全国に行ける」というよきマインドが受け継がれているように感じます。

そんなことを伝えると、柴田コーチはちょっぴりうれしそうな表情で、「永田イズムと言っていいかはわからないですが、公立の指導者として永田先生の存在は目標の一つです。同期の飯塚貴行先生(県立厚木北。昨年ウインターカップに出場)と一緒に神奈川を引っ張っていきたいです」と話されていました。

全国大会では味わえない、神奈川高校バスケという愉しみ

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「神奈川の高校って、戦力が分散しているから全国で勝てないよね」

そんな声を何度も聞いたことがあります。

確かに、県内一強やそれに近い形の学校には地元の有望選手が集まりやすく、それを足がかりに安定的した強化が進められる側面はあると思います(神奈川も県立富岡高校、県立金沢総合高校が強かった時代はそれにあてはまっていたのだと思います)。

ただ……これはあくまで観戦者としての意見ですが、だからこそ県大会が死ぬほど面白いんです

例えば今回の男子。春と夏とで1位以外の順位がすべて変わりました。最終日に1勝2敗で3チームが並び、「一体どこがどう勝ったら2位になれるんだ?」とみんなで点数計算に大わらわでした。1試合目がダブルオーバータイムというめったに見られない展開になり、2試合目もラストシュートが入っていたらあわやオーバータイムでした。

多くのチームに上位進出のチャンスが与えられている。だからそれぞれが本気でそれを目指し、鍛錬を積み、最後の最後まであきらめずに戦える。そして、そのがんばりが多くのドラマを生む。このような環境がある都道府県、他にはなかなかないのではないでしょうか。

全国大会にはない、県大会でしか感じられない熱さや物語――まさに『スラムダンク』で描かれたような――がたくさん詰まった、神奈川高校バスケ。コロナ禍による無観客試合はなかなか収束しませんが、ぜひ多くの人にその魅力を味わってほしいと思っています。

カバー写真提供:山宮厳己( @genki_bsk 

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