IE(Internet Explorer)がステージで輝いていたあの日
2022年6月15日。一つのソフトがひっそりとサポート終了をむかえた。Internet Explorer、略してIEだ。企業で重宝されていたりユーザーから嫌がられていたりと独特な立ち位置だったIE。ワンテンポ遅くて使いずらかったのにどこか憎みきれないIE。お疲れ様でした。
みなさんはIEと聞いてどのような姿を想像するだろうか。僕が想像するのは、ミスコンのステージに降り立ち、会場を盛り上げて輝いている姿だ。
今回は、IEが最も輝いて見えたあの日の話。
実質男子校から生まれる謎文化
僕のいた大学は女子率が1割以下という、実質男子校な理系大学だった。で、男子だけの世界となると、色々謎な風習が生まれてくる。男子校から来た高校の先生は「男子校はまず服を着せるところを教える必要があった」とか言ってたし、学校ごとに想像できない世界が広がっているのだ。
僕の大学の場合、それは大学祭にあった。「男子が女装したミスコン」が毎年開催されていたのだ。しかも大学祭最大の目玉イベントとして、10年以上続いているという。さらに、女子が出るミスコンを開催したこともあったけど盛り上がらずに終わったという折り紙付きだ。
IEが現れたのは、そんなミスコンの舞台でのことだった。
忘れられないミスコン
大学祭の最後に行われる待望のイベント、それがミスコンだ。ある生徒は単位を犠牲に、ある教授は社会的地位を犠牲に、美しさと技能をぶつけ合う。その姿はまるで――
オタ芸大会。
そう、ここは理系大学。そして理系大学にいるのはオタク。では彼らが楽しめて盛り上がるコンテンツは何か。それがアニソンに合わせて歌ったり踊ったりするパフォーマンスなのだ。
あの年のミスコンも例年通り、コスプレ姿をしたダンスと歌のオンパレードだった。似たような演技が続き、どこか食傷気味だったときに奴らは現れた。
「次の演技は、ブラウザーズです!」
舞台に上がったのは、「Google Chrome」「FireFox」「Internet Explorer」のアイコンをかぶった三人組だった。
かわいさの「か」の字もない彼ら。静まり返る会場。でも、みんなひっそりとした期待があった。これは、新しいものを見せてくれるんじゃないか。アニソン以外のエンタメを見せてくれるんじゃないか。
思わず目を凝らす。パフォーマンスが始まった。
「私は早い動きができる」
と動作スピードを誇ってみせるChrome。
「私はたくさんの拡張機能があるよ」
とアドオン機能をアピールするFireFox。
始まったのはアピール合戦だ。そんな中、どんどん肩身が狭くなっていく一人の姿があった。IEだ。動きは遅く、拡張性は弱い。でもWindowsに必ずインストールされていて、多くの人のPCではずっと眠っているだけの何とも言えないやつ。
劣勢になって当然だ。逆転なんて無理だよ。もし逆転できたら桜の木の下に埋めてもらっても構わないよ。
そんなことを考えながら見ていると、IEがきっと顔を上げた。さあ、どうする。
IE、逆転の一手
「君たちは、私がいないとインストールできないよね?」
ちゃぶ台がひっくり返った。たしかにブラウザを入れるためにはブラウザを使う必要がある。そして、そのときに使うのは最初から入っているブラウザ、つまりIEだ。(※当時はEdgeがまだなかった)
そうきたか! たしかに。やるじゃん、IE。会場がざわつく。
この瞬間、この場を支配しているのはIEだった。やってやったぜとどや顔のIE。今まで日陰者だったIE。そんな彼女(?)が今、ついにブラウザの頂点に立とうとしている。
神の返し手
勝ち誇ったIE。しかし、会場は不穏な空気が漂っていた。だって考えてもほしい。みんな普段使ってるのはChromeとFireFoxだ。そしてIEにいい印象を持っている人はほぼいない。この状況で、みんなが応援するのは誰か。書くまでもない。
がんばれChrome。何とかしてくれFireFox。いつしか会場では、IEがすっかり悪役となっていた。
逆転してほしい。でも、どうやれば?
「「うるせえ!」」
と、ChromeとFireFoxが同時に声を上げた。さあ、何が起こるんだ。こうなったら伝説を見届けてやろうじゃないか!
拳を上げる二人。でも勝てる手ってあるんだろうか。拡張性の話をする? スピードの話に戻すか。いや、それじゃあIEの言葉から逃げてるだけだ。どうすればいいんだ。
「「俺たちは!」」
「「Linuxユーザーだ!!」」
「神の一手」という言葉がある。誰もが考え付かないような、それで勝負が決まる一手。今、目の前で「神の一手」が投じられた。
IEはWindows OS専用のソフト。対してChromeとFireFoxはWindowsとLinuxどちらのPCにもインストールができる。つまり、これにIEが反論することは何もできない!
すごい。完璧だ。思わずひざをつきそうになる。会場に響くのは大歓声。今、皆の心が一つになった。我らがChromeとFireFoxがやってくれたぜ。
こうして「ブラウザーズ」の演技は大盛況で幕を閉じた。
それから
さて、ミスコンは予選と決勝があり、上位チームが決勝で別の演技を行い優勝者が決まる。
その結果、ブラウザーズは予選落ちとなった。あくまでも「ミスコン」は美しさを競う競技だ。だからしょうがない。でも、もし決勝に残っていたらどんな姿を見ることができたんだろう。
僕がIEでイメージするのは、舞台に上がって会場を盛り上げているあの姿だ。お疲れ様。楽しかったよ。
そんなことを、IE終了のサポートとともに思い出したのでした。
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