透明。
わぁぁ~!と歓声を上げる私を友人は微笑んでみていた
そうでしょう、という口にされなかった言葉が聞こえた気がする
初めて見る北陸の海はどこまでも透明で静かに波が
寄せて返していた
「井上靖の詩に『一枚の紺の大きい布を白いレースが縁どっている。』っていう海を例えた詩があってね...。」
はしゃぎながらいう私のおしゃべりを口数の静かな友人は黙って聞いてくれていた
私は海のそばで生まれ育ったけれど故郷の海以外でふるさとを思い出すことはない
海によって全然波音が違うからだ
慣れ親しんだ海はザン...ザザン漫画の効果音に描かれそう
高知の海はザーーンドッパーーーン
太平洋の水平線は丸く大きくその向こうに何も見えずそりゃ竜馬も世界を目指すよな、って思ってしまう
そしてあの、北陸の透明な海は...ああ波音が思い出せない
透明な波に波音まで吸い込まれて消えてしまったように
記憶のなかで透明に澄んだ海が繰り返しさざ波を立てている
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