Alvvays, The Smile, Bad Religion & Green Day

わが町の夏フェスに行き、この4バンドを見てきた。

7月14日(金)

晴れてなかなかに暑い金曜の夜。レコード工場の仕事を終えて、取り急ぎマクドナルドのドライブスルーで夕飯を済ませる。暑い中、会場から少し遠いがタダで止められる駐車場に車を残していざ出陣。下町から山の手に徒歩で上がらなければならない。15分ノンストップで容赦のない階段+上り坂。めっちゃ汗だくになるが、それでも会場の近くに停めるメリットがない(普段の3倍近い駐車料金、帰りは人混みと渋滞で進めないなど)ので辛抱して黙々と歩き、Parc de la Francophonieという広場にある第2・第3ステージに到着。この会場は昨年から同じサイズのふたつのステージを隣り合わせに設置している。

全景を撮り忘れていたので、https://99scenes.com からお借りしました
設営中。これもhttps://99scenes.com からお借りしました

わたしはこれすごくいいアイデアだと思う。だいたい傾向の似ているバンドを両方のステージで見られるようにプログラムを組んであって、ひとつのライブが終わってからだいたい10分くらい待つと、隣のステージで次のライブが始められるようになっている。お客さんが若干そのつど左右に流れるのがおもしろいし。ふたつのステージの間にはでかいプロジェクターもある。

キャパは10000人程度で、フジロックのホワイトステージよりは小さい。ここは実質2ステージをカウントしているので、移動しなくても両方を見られて便利なのだが、人が2ステージ分集まるリスクもあるわけで、実際にこの形態の初年度だった去年、SUM41の日に開場直後に満員になり、午後6時前には入場不可になっていたらしい。今年は隣接の無料スペースにも別のプロジェクターを設置して、この会場のライブを外からも見られるようにしていた。

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Alvvays

Alvvaysといったらとにかくあの甘ずっぱくて切ないメロディラインの楽曲で、良くも悪くも最初から最後までそんな感じだった。アルバムを3枚出している中堅のバンドとしては、もう少し緩急や曲調のバリエーションがあってもいいような気もするけど、まあなにしろAlvvaysを聴きに来たらこれはがっかりすることはないというような、夏にぴったりの青ーい響きのオンパレードだった。

大人ぶらないイノセンスみたいなものがこの人たちの音からはっきりと感じられるのだけど、オリジナルメンバーの3人が10代の時から一緒に音楽をやってきて、トロントに拠点を移しても今も同じように続けていることで、彼らのマリタイム地方(カナダ東海岸)出身のアイデンティティがずっと守られているような気がする。海のモチーフも、MVやアルバムジャケットにたびたび出てくるし、彼らの音に自然に馴染んでいる。ボーカルのMollyの透き通るようなよく伸びる声が気持ちよく、ギターのトーンもディストーションとかあまりかけていなくて、とってもクリーン。「Not My Baby」「Archie, Merry Me」を生で聴けて感無量。

実は最前列のフェンスにべったり張り付いていた(小柄なアジア人はガタイのいい人に前に立たれてしまうと終了)ので彼女の姿がよく見えて、ステージ脇からではあれど終始うっとりとガン見していた。彼女にじっとりした視線を浴びせてしまっていたら申し訳ない。Mollyはラフで気楽なダボっとした服装で、でも無造作で素朴にしているのに自然にこぼれおちてしまうような魅力がある。淡々と、でも一生懸命に歌っていた。スポットライトの中、プラチナブロンドの彼女はまるで月のように光っていた。セットリストはこちら

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The Smile

Radioheadを通ってこなかった自分は、熱狂するオーディエンスの中でちょっと居心地の悪さを覚えたりもした。でも本物のトムヨークが5mくらいの至近距離にいるのには、やっぱり正直におおっと思う。その程度には軽薄な自分、でもせっかくだしいいじゃんね。

トムヨーク、すごくクネクネしていた。ものすごく。たまたま会場で出くわしたRadiohead好きの知り合いは、いつもこんな感じだと言っていた。確かにこの人が「Creep」を作って歌ったのだもんな、と思う。プロも素人もいろんな人がカバーしている曲だけど、たいてい大してweirdじゃない人が歌っていてなんだかいまいちなのだが(Princeがカバーしてるのはよかった)、さすが本家は説得力が違う。クネりながらもかなり機嫌は良さそうで、スノッブな感じはしない。もしかしたらハイになっていたのかもしれないが。
トムヨークはギターとベースを曲によって持ち替えながら演奏を続ける。彼独特の浮遊感のある声音がなんともいえない。混沌とした音の波がうずまき、全てを飲み込むようだ。あまり予習をしないでライブに来たので、思いの外グルーヴの効いたジャズ的なアプローチに驚く。変則拍子の曲をいくつか演奏していた。何度数えても何拍だか分からない複雑なものもあり、客のノリが心許ない。やってる本人たちは気持ちよさそう。
トムヨークの隣に若い男がいて、彼もギターとベース(トムヨークの弾いていない方)を曲によって持ち替えながら演奏を続ける。若さゆえの鬱屈した暗い雰囲気をまとった人で、プレイが激しく、前髪でうつむいた顔が隠されている。ベースを弓でぎこぎここするなどの音楽的奇行におよぶ。

あれ、ていうか、確かこの人もレディへのメンバーだよな?じゃあ全然若くなんかない、むしろ歳上ではないか、と気付く。それでも彼が醸し出すあの屈託ありまくりのオーラ、若者にしか出せないはずのものなんだが…うまく説明できないのだけど、丸くなるとか貫禄が出るとかを完全に拒む、すごくとがっていて心を閉ざしたような若者のあれ、猫背や腕の感じなんかも含めて。途中からはトムヨークじゃなく彼、Jonny Greenwoodばかり目で追ってしまい、立ち姿にものすごく惹きつけられた。結論としては、とにかくさすがのズブズブとした沼のような重い暗い音で圧巻でした。セットリスト

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7月16日(日)

この日は朝からひどい雨で、それでも娘は外でビーチバレーの大会があり、夕方までずぶ濡れで過ごしていた。わたしもレインコートと長靴で防備していたのに、背中に水が入りこんでくるほど時折激しく降る。ほうほうのていで帰宅し、レインコートを乾燥機にぶちこみ回しながら急いで食事をして、乾いた服を取り出して着て、また同じ服装で出かけた。

天気と自分の体調でかなり迷ったのだが、The Smileのライブで会った知り合いが、グループでGreen Dayを見に行くからおいでと誘われ、全員知っている人だったので混ざることにした。今日の会場はメインステージのPlaines d'Abrahamでめちゃくちゃ広い。10万人収容、グラストンベリーと同規模らしい。だから待ち合わせはなかなか大変。案の定、全員が揃うまで難儀した。

満員の会場、これは6年前にBackstreet Boysが来た時。www.journaldequebec.comからお借りしました
会場に向かう途中で虹を見た。この後もう雨は降らなかった


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Bad Religion

ステージ遠いな。これでも位置的には真ん中のあたりにいたのだが。ステージを見るとプロジェクターが自然に目に入る所にあるから、ちゃんと見えてるような気分にはなる。
見た目からは全体的に年齢が高めだなあという印象を受けるものの、音はさすがにソリッドでエッジが効いている。ギターが分厚くてかっこいい。なにせギタリストが3人もいるらしいから当たり前か。ボーカルの人がどう見てもオフィスカジュアルをまとった重役「ゼネラルマネージャー」的な雰囲気を放っていてみんなで笑う。悪い意味では決してないのだが、年齢と知的なオーラがそうさせるのだ。実際に博士号持っているらしいし。

なぜかピースしてる重役

なかなかメッセージ性の強い曲を歌っているな、と思っていると、少し離れて斜め前に立っていた男性が倒れた。そこからライブに集中できなくなってしまい、あまりはっきりしたことを覚えていない。連れの1人が救護を呼びに行き、なかなか戻ってこなくて、そのうち倒れた男性は意識を戻して、寝たまま他の人と話していた。ようやくわたしの連れが救護の係員を引き連れて戻ってきたが、こちらがはっきりと見えておらず人をかき分けながらぐんぐんとあらぬ方に行ってしまう。あわててみんなで地面に敷いていたビニールだのプチプチシート(畳んで座る、レジャーシートよりおすすめ)だのをつかみあげて、叫びながら振りまくる。周りの人も同じようにやってくれたのがじわじわ伝播してようやく誘導できたが、こんな途方もなくでかい群衆の中、音楽もガンガン鳴っていてすぐに現場を見つけるのは本当に難しい。ライブの感想ではなくなってしまった。Bad Religionごめんね。セットリスト

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Green Day

倒れた人は大丈夫だったようで、しばらくして上体を起こして座り始めた。そこでトリのGreen Day登場…と思いきや、爆音でかかるのはQueenのBohemian Rhapsody。ステージは無人。観客はすごい喜んでる。フルコーラスかかって拍手喝采。わたしはなんかむかついてきて、Green Dayのライブ見に来てんだよ他人の曲かけるとかどういうつもりなん、みんなもなんでこんなので喜んでんの、と怒りがふつふつ湧いてくる。するとステージが明るくなり、やっとライブが始まるかと思いきや出てきたのはうさぎの着ぐるみで、RamonesのBritzkrieg Popに合わせてめちゃくちゃな踊りを踊っている。

なにこいつ

いいかげんにおふざけやめて出てこいやーと思っていると、やっと本人たちが登場。

わたしが見に来たのはあんたらなのよう
これで51歳、昔も今もかわいくておしゃれなArmstrong氏

「American Idiot」で景気よくスタート。わたしは特にGreen Dayのファンだったわけではないけど、やはりわたしが10代後半の頃、高校から大学にかけて彼らはかなり勢いのあったバンドで、まだインターネットではなくラジオが情報源だった当時によく浴びるように耳にした。好きというのとは違う理由でなじんだ歌がたくさんあった頃で、もしかしたらそういうのはわたしの世代くらいが最後なのかもしれない。この日「Minority」とかほぼ20年ぶりに聴いたけど、すんごいなつかしい人に会ったような気持ちになった。理解し合ってる親しい友だちじゃなくて、雰囲気がめっちゃ良かった昔のバイト先の同僚みたいな感じ。「よう!元気か?」って、カラッとしたあいさつをしてくれるような。

2時間弱のライブで彼らは観客を2度ステージに上げた。最初は3曲目の時、一緒に歌おうぜ!と誘い、狂喜するステージ前の観客からメガネの男の子を選び、大興奮のデュエットの後、さらにモッシュピットにダイブさせていた。その子は仰向けじゃなく、腹ばいにぴーんとした格好でクラウドサーフィングしていたな…空を飛んでるみたいに。

まじめそうな彼、この後起きることはまだ知らない
じゃ、ダイブどうぞー

2人目の時はライブも中盤を過ぎていた。Armstrong氏が誰かギターリフを弾いてくれる人!と声をかけて、またステージ前の観客が我も我もと手を挙げる中、ひとりの女の子が選ばれてステージに上がった。彼女は手早くギターを受け取り、肩からかけてリフを弾いた。けっこうギャーンとした大胆なプレイだった。

黒のパーカーに黒の短パンをはいている彼女
熱い抱擁、この後に起こることを彼女はまだ知らない

ステージを去りかけた彼女にArmstrong氏「あ、その今弾いたギター、君のものだから」なんて言うから、その子はオーマイガッオーマイガッてなるし、会場全体がウオォォォってなった。

Green Dayはこれまでで一番メジャーになったパンクバンドと言えると思うが、彼らはパンクのとんがっている部分と人好きのする愛嬌のどちらも兼ね備えているように見える。90年代半ばから00年代半ばにかけての10年間、彼らのソングライティングと音作り、ビジュアルセンスとパフォーマンスもろもろが噛み合っていて、カリフォルニアから多くの「同期」みたいなパンクバンドがいたけれど、他とは一線を画していた。間口が広かったというか、見ている/聞いている人を惹きつける要素がいくつもあった。それをひいてもなにしろ彼らの楽曲は理屈抜きでとてもいい。ちょっと人の心をくすぐるセンチメンタルな何かが、正直で人懐っこい美メロにこめられているのよね。しかもそういう曲がたくさんある。で、Armstrong氏の声がいい。そして、観客をのせるというか、その場全体の一体感を作り出すということができる。スターになるためのキラっとしたものをちゃんと持っているというのが、このライブを見ていても本当によく分かった。Armstrong氏だけでなく、ベースのMike DirntもドラムのTré Coolもそれぞれの音がすごくかっこよく、スリーピースバンドとしてバランスが完璧に釣り合っていると思った。長年一緒にやっているだけあって息がぴったり合っているし、音が3人とは思えないほどソリッドで…と思いきや、サポートにもう1人ギタリストがいた。そらそうだわな。そのJason WhiteもやはりGreen Dayとは昔からの付き合いのあるメンバーで、そうした気心の知れた関係が間接的にもステージパフォーマンスによい影響をもたらしているのだろうなと思う。花火もばんばん上がってお祭り騒ぎで、いかにも夏の野外フェスのトリという感じがして楽しかった。セットリスト

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個人的には前後の移動でくたくたになった夏フェスだったけど、こうやって振り返るとやっぱり行ってよかったなと思う。夏の短いこの土地で、あっという間に過ぎ去ってしまう季節を焼きつけるための時間と空間なんだなと思った。日本ではいよいよフジロックも今週末に開催されるそうですね。行く人がよいお天気にめぐまれ、よい音楽の中で夏を満喫できることを願っています。

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