「自己肯定感を上げる方法」の実際のところ。

自己肯定感を上げる、というエクササイズは、様々な書籍・動画・セミナー等で紹介されています。

個人的には、この自己肯定感を高めるということ自体は、人生を豊かにするためには大事なことだと思います。でも、自己肯定感という言葉を聞くだけで、なんか自己啓発っぽくて胡散臭いと思う人もいることでしょう。

なんで自己肯定感を上げるという話はうさんくさくなりがちなのか?
それにはちゃんと理由があります。

「自己肯定感を上げる」と言われる方法は2種類存在する


自己肯定感を上げる手法って、実は大きく2種類に分けることができます。

  1. 軽い躁状態を引き起こし、テンションを上げるもの

  2. 脳内のシミュレーションを通じて、新たな精神状態や行動様式を発見するもの

です。ひとつずつ説明していきます。

1.軽い躁状態を引き起こし、テンションを上げるもの


世間のビジネス書、研修・セミナー等で行われているものの圧倒的多数がこちらに属します。

みんなで「できる!できる!」と唱和したり
一人で「俺は優秀だ、俺は強い、、、」なんて唱える
なんていう方法が典型例です。誰でも一度くらいは見たことがあると思います。

自己啓発系の講座はもちろん、軍隊のブートキャンプ、企業の研修や朝礼、最近では学校や幼稚園でもこれを行うことがあるようです。世間にかなり浸透している方法と言えます。

確かに、この方法は、自分たちを奮い立たせるという意味で「多少は」役に立ちます。でも、これが本当に自己肯定感を高めているか?というと、かなり怪しいです。短期的にハイになっているだけ、というケースがほとんどでしょう。

でもこの方法は、組織を管理する人間や研修講師にはすごく受けが良いんです。何故なら、この種の方法は、組織のメンバーを奮い立たせるだけでなく、考える力を弱らせ、目の前のタスクに疑問を持たずにまい進させるために有効なんです。

個人の利益ではなくて、組織の利益のために便利なメソッドだから普及する、という背景があります。

また、個人レベルでこういう方法を使う人もいると思いますが、多くの場合は、表層的な部分で自分をハイにしているだけで、根っこのところでは大して変わっていない、という結果に陥る人が多いです。それだけでなく、等身大の自分を見ることを忘れ、傲慢になってイキリ散らかすようになる人も居たりします。セミナーに行ったお友達が、人が変わったように傲慢になった、なんて経験をされた方が、これをお読みの方の中にもいらっしゃるかもしれません。

全体として、この手法は、自分を短期的に奮い立たせるには多少のプラスはあるけれど、反面個人の利益を損ねやすい方法と言えるでしょう。

2.「脳内のシミュレーションを通じ、新たな精神状態・行動様式を発見するもの」


もうひとつは、「脳内におけるシミュレーション」を積極的に行うことで、新たな自分ーより良い心身の状態や新しい行動様式を発見しようという方法です。

これを明文化して紹介している人は、かなり少ないように思います。

私は、自己肯定感を高めたい!と思う人には、こちらの方法を強くおすすめします。冒頭で「自己肯定感を高めるということ自体は、人生を豊かにするためには大事なことだと思います」と書いたのは、こちらの方法を用いることを前提にしています。

具体的に何をやるか?と言うと、自分に対して以下のような問いかけをすると良いです。

「もしも私が、もっと〇〇な人間だったら、どんな精神状態になるだろう?どんな行動をするだろう?」

この質問に対して、ある程度時間を取って、ゆっくり考えましょう。
できれば目を閉じてリラックスして考えると良いです。
瞑想やマインドフルネスに慣れた人で5~10分、そうでない人は、それ以上時間がかかることが多いです。

これをやると何が起こるか?というと、

脳が、今までよりも〇〇な自分になった時の気分や、そうなった時に取る行動を、自分の記憶からサーチして、実際に精神状態を変え、新しい行動をひらめくように働いてくれるんです。

精神状態を脳のシミュレーションのみで変えるという意味では、俳優の役作りに似ているところもあります。

例えば、異性に対して気おくれしてしまう、という人が、

「もしも私が、異性に対してもっと自然にアプローチできる人間だったら、どんな精神状態だろう?どんな行動をするだろう?」

と自分に問いかけたとしましょう。

すると、以下のような変化が起こったりします。

・精神的なゆとりが増え、潜在的な緊張感が減る
・アプローチして断られてもいいじゃないか、などと思える
・相手を誘うための、上手いメッセージの書き方を思いつく

もちろんこれはあくまで一例なので、同じ問いに対する答えは、千差万別です。あなたが同じ問いかけを自分にしても、出てくる変化は大なり小なり違うものになるでしょう。

この種の脳内シミュレーションを行う時の大事なコツに、
「自分にしっくりくる、腑に落ちる答えが浮かぶのをゆっくり待つ」
というものがあります。

というのも、この種の脳内シミュレーションは、脳の中でもスローな部分を使うから。あわてて結論を出さず、納得度の高い答えが降って来るのをのんびり待つ、くらいの構えで行うと良い。先ほど「瞑想やマインドフルネスに慣れた人で5~10分、そうでない人は、それ以上時間がかかることが多い」と書いたのもこれが理由です。また、目を閉じるのは、そちらのほうが、脳のスローな部分が動きやすいからです。

納得度の高い答えが出た時は、身体感覚の変化でなんとなくわかります。例えば以下のような変化が代表的です。

・頭がスッキリする
・呼吸が落ち着く
・身体の緊張が顕著に軽くなる

この方法は、慣れると、新しい自分を創造的に発見していくのにすごく有効な方法です。練習は必要ですが、身に付けるとすごく楽しいのでぜひトライしてみてください。

無駄にハイになることを避け、脳が創造性を発揮するゆとりを与えてあげよう。


心理系の手法というものは、世間に広く普及したものの中に、組織やシステムの利益になりやすく、個人が本来持っている創造性や可能性を損ねるようなシロモノが多数入り込んでいる分野です。

そうした方法に対して、違和感を持つ人は少なくないでしょう。そしてその違和感が正しいことも多いです。

今回紹介した、ひとつめの「軽い躁状態を作る」方法は、まさにそうした手法の典型例。組織人としてどうしても行わなければならない時以外には、やらないほうが良い方法と言えるでしょう。

そのベースには「表に出るテンションの高さ」や「やる気があるっぽく見える雰囲気」が重要である、という考えが入り込んでいるように思えます。

そうしたバイアスを排して、一人一人が、自分の本来の創造性やパフォーマンスを発揮できるような状況が来て欲しいと、私自身願っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?