はじめて、悲しさと向き合った日のこと - 映画「悲しみに、こんにちは」によせて
映画監督の是枝裕和は『フロリダ・プロジェクト』の子役の演出について、子どもの表情を見せて何かを語るのではなく、背中を映すショットによって、表情だけでは語れない、その子どもの心情を引き出している点を指摘し、同作で監督を務めるショーン・ベイカーを、自分に似た演出のスタイルを持っているのでないかと評している。子どもの背中は、その喜怒哀楽を表情で見せてシーンを完結させようとする安っぽさとは反対に、それ以上のエモーションを観客に与えている。スペインの若き映画監督カルラ・シモンが作り上げた『悲しみに、こんにちは』では、まさに冒頭のシーンにおいて、主人公であるフリダの背中を映したショットから始まっている。
STAFF
監督・脚本:カルラ・シモン
撮影:サンティアゴ・ラカ
編集:ディダク・パロ/アナ・プファ
美術制作:ミレイア・ガレル
音響:ロジャー・ブラスコ
製作:バレリー・デルピエール
CAST
フリダ:ライラ・アルティガス
アナ:パウラ・ロブレス
マルガ:ブルーナ・クッシ
エステバ:ダビド・ヴェルダグエル
アヴィ:フェルミ・レイザック
この映画の物語を端的に言えば、両親をエイズで亡くした幼き少女・フリダが、新たな家族と関係を築くまでを描きながら、同時に母親の死というものを現実の出来事として受け入れていくまでを100分の時間を使って描いている映画だ。作品の時代背景としては、1990年代初頭にヨーロッパで流行したエイズが深く関わっている(この辺りは『君の名前で僕を読んで』の時代背景とも関係してくる)。
映像的には、シーンの全景を捉えるような、シンプルなシークエンスショットを多用し、ひとつのカットは比較的長めに使っていて、その空間を大切にしている印象を受ける。撮影時には子役たちがカメラを意識しないよう、一箇所にカメラを据え置いて撮影されたという。こうした配慮が、子どもたちのナチュラルな瑞々しさを上手く引き出しているのだろう。
各シーンの構成もシンプルで、少女がなぜそのような行動をとったのか、多くは説明されず、そこで何かが完結することもなく、シーンの終わりには常にもの悲しいようなフリダの表情や後ろ姿が残される。少女の成長は早いというが、フリダはひと夏の出来事を通して、多くの得がたい経験をする。新しい家族を受け入れ、母親の死を受け入れ、最後には、なぜ悲しくなると涙が流れるのか、その意味を受け入れていくのだ。
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