言霊(ことだま)の国から来た男 #4
第4話 目覚める総理
悪竜ユムドギヌスは、アリアネス王国の南の火を吹く山に住まう暗黒の竜である。王国の北に縄張りを持つ魔王の手下ではないが、しばしば王国の街を侵し、人々を苦しめていた。半年前にマーカスたちが討伐し、二度と王国を襲わないと約束させたはずだったが……
城壁の上に立ったマーカスたちを、ユムドギヌスは目ざとく見つけた。黒曜石で作られたような鱗のあいだに光る黄金の目が、鋭くすっと細められた。
「マーカス、生きていたのか。魔王に敗北したという噂を聞いたのだが」
空気を震わせる低い声で、ユムドギヌスは言った。
「俺たちがしぶといのは、お前が一番知っているだろう、ユムドギヌス。もう一度、思い出させてやる」
マーカスが剣を抜く。星のかけらを集めて鍛え上げられたとの伝説を持つ、魔法の剣だ。
「くっくっく」
ユムドギヌスは低くくぐもった笑いを浮かべた。
「以前、お前たちに負けたのは、洞窟の中だった。今日は外だぞ、マーカス!」
ユムドギヌスはそう言うと、翼を二度強く打って空高くへと舞い上がっていった。
「急降下攻撃……」
藤田は子どものころ読んだファンタジー小説を思い出しながらつぶやいた。
グロリアが意外そうな視線を向ける。
「あんた……意外と良くしっているのね。あの攻撃を、地上で迎え撃つのは至難よ……隙を見つけなければ」
藤田は、静かにすっと歩をすすめ、勇者たちの前にたった。
「私が、何とかできるような気がします」
その言葉を聞いて、マーカスは眉をひそめ、グロリアは頭を傾け、バヌスとカールゲンは不審げに互いの顔を見合わせた。
けれども、藤田にはある予感があった。
魔王の城から命からがら逃げだしたあのときの感覚……藤田が、「あの言葉」を言ってから、魔王の攻撃は一切彼らに当たらなかったのである。
藤田は、深呼吸を一つした。上空では、悪竜が大きく旋回し、彼らを仕留めようと降下に入ろうとしているところだった。
藤田は意を決して、静かに口を開いた。
「専守防衛……イージス・システムを発動いたします」
ドラゴンが、空から降る星のような勢いで降下を始める。その口元には、チラチラと炎が見えた。地獄の業火のような炎の息で、彼らを焼き尽くすつもりなのだ。
マーカスたちは身構えた。
ドラゴンの口が開き、炎が浴びせかけられる……が、どういうわけか、炎は彼らを避けて周囲へと拡散していった。
炎に耐える覚悟をしていた一向は驚き、互いの顔を見合わせた。ドラゴンは彼らの上空をかすめ飛び去るときに、その手ごたえのなさに気づいていた。
そして誰よりもほっとして胸をなでおろしていたのは、藤田だった。
彼は手ごたえをつかみ、推測は確信へと変わりつつあった。
日本国総理大臣として、自衛権にかかわる言葉は、この世界で魔法の力となって具現化する!
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