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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#バトル

#38. 一騎打ち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#39.一騎打ち  <四ツ目>とヘルハウンドは、黄金の怪物ガエルに襲いかかった。  ヘルハウンドの牙と爪は、ゴブリンたちの剣や槍より強く、巨大カエルの表皮に傷を与えていた。  カエルは目をキョロキョロさせるが、ヘルハウンドのすばやい動きを追い切れない。さらに、<四ツ目>は鞭を巧みに使い、ヘルハウンドの背から樹木に飛び乗ったかと思うと、ヘルハウンドが気を引いた隙にカエルの背に回り込み剣を一付き。そして再びヘルハウンドの背

#37. 酒は足りているか?

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#37.酒は足りているか?  逃げ惑うゴブリン軍を襲う巨大なカエルの前に、一頭の魔犬が立ち塞がった。  大きさでは怪物ガエルに到底及ばないが、地獄から来た犬の異名を持つ双頭の犬は、うなり声に凄まじい殺気を乗せて威圧していた。  怪物ガエルは動きを止めた。フバルスカヤが少し驚いたような声を上げる。 「・・・犬の頭が二つに見えるのは、酔いが回りすぎたせいではなさそうだなあ。ヘルハウンドか?三つ首でないのは残念だが、興味深

#35. 黄金のカエルと絶望をもたらす魔法使い

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#35.  黄金のカエルと絶望をもたらす魔法使い   第三王子ヨーは、西門に集結させていたゴブリン軍を率いて、リフェティの西側の森の広場に陣を築いていた。  小型の馬にまたがり、姿勢をまっすぐにしてホブゴブリンに占領された地下王都の方を見つめる。しばしばニンジンのようだとからかわれる顔は、銀灰色の兜に覆われその尖った顎だけが目立っていた。  彼は武力よりも謀略を得意とするゴブリンだが、軍を率いる以上、“それっぽく”見え

#34. <酔剣のザギス> 対 親衛隊長デュラモ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#34.  <酔剣のザギス> 対 親衛隊長デュラモ  デュラモとザギスの戦いは熾烈を極めた。  その剣戟は、激しい金属音を謁見の間じゅうに響かせた。二人の息づかい、気合いを入れるための短い声、そして痛みに耐えるうめきが、金属音に交じり、奇妙な音楽を奏でているかのようだった。  はじめはデュラモが押していたが、酔いが回り、足元がふらふらになるにつれ、ザギスの剣技がさえわたるようになっていった。その力の逆転が明らかになった

#27. 兄と弟、そして友たち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#27.  兄と弟、そして友たち  チーグが<林の書庫>と呼ぶ隠れ家に、夜が訪れる。  パチパチと音を立てながら薪が燃える暖炉の前に、第二王子のバレは座っていた。病弱な彼にとって、リフェティからの脱出行は苦難であった。太陽の光が彼の体力を奪い、乾いた空気が咳の発作を引き起こす。木造りの家も苦手だった・・・彼は、エルフや人間ではない。木の匂いは、身体の弱った彼に不快さをもたらした。  リフェティの自分の部屋が一番だ・・・

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#10

#10.魔獣との戦い  死をもたらす息を吐きながら、悠然と丘の上から降りてきたヘルハウンドの背の上で、隻眼の赤いマントの男が口を開いた。 「ゴブリン王子チーグ殿下の一行とお見受けする。黙って捕まってくれれば、手間が省けるのだが、いかがだろうか?」  低く渋い声だが、あきれるような尊大な申し出だった。  チーグは馬車の中から這い出ると、器用に車を引く馬の背の上に立った。 「それよりも、いい提案がある。俺たちの側につけば、雇い主の三倍の金を払うが、どうだ?」  チーグは