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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#魔法使い

#39. 酒解のフバルスカヤ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン #39.酒解のフバルスカヤ  フバルスカヤの人生は、少しの栄光と多くの挫折に満ちあふれていた。  若くしてサントエルマの森の魔法使いとなったフバルスカヤは、氷の魔法を得意とし、カエルを使い魔として使う技も磨いた。彼は、将来を嘱望された魔法使いだった。  フバルスカヤには、魔法以外に愛したものが二つあった。  ひとつが、家族である。  サントエルマの森の魔法使いは、森にこもり、瞑想と研究に日々を費やすことが必要と

#38. 一騎打ち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#39.一騎打ち  <四ツ目>とヘルハウンドは、黄金の怪物ガエルに襲いかかった。  ヘルハウンドの牙と爪は、ゴブリンたちの剣や槍より強く、巨大カエルの表皮に傷を与えていた。  カエルは目をキョロキョロさせるが、ヘルハウンドのすばやい動きを追い切れない。さらに、<四ツ目>は鞭を巧みに使い、ヘルハウンドの背から樹木に飛び乗ったかと思うと、ヘルハウンドが気を引いた隙にカエルの背に回り込み剣を一付き。そして再びヘルハウンドの背

#36. 敗勢

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#36.  敗勢  少なくともゴブリンたちからみて、黄金色の巨大なカエルはあまりにも強かった。  剣で斬ろうと、槍で突こうと、そのブヨブヨした皮膚に跳ね返される。ひとたび飛べば、数百の兵たちをひとまたぎ。そして、着地とともに十数人の兵を踏み潰す。  さらに、カエルの頭上に乗るフバルスカヤが、魔法で作り出した炎の矢や酸の矢を射かけてくることもあった。  数百のゴブリン兵たちは、完全に守勢に回らざるを得なかった。  普

#35. 黄金のカエルと絶望をもたらす魔法使い

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#35.  黄金のカエルと絶望をもたらす魔法使い   第三王子ヨーは、西門に集結させていたゴブリン軍を率いて、リフェティの西側の森の広場に陣を築いていた。  小型の馬にまたがり、姿勢をまっすぐにしてホブゴブリンに占領された地下王都の方を見つめる。しばしばニンジンのようだとからかわれる顔は、銀灰色の兜に覆われその尖った顎だけが目立っていた。  彼は武力よりも謀略を得意とするゴブリンだが、軍を率いる以上、“それっぽく”見え

#34. <酔剣のザギス> 対 親衛隊長デュラモ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#34.  <酔剣のザギス> 対 親衛隊長デュラモ  デュラモとザギスの戦いは熾烈を極めた。  その剣戟は、激しい金属音を謁見の間じゅうに響かせた。二人の息づかい、気合いを入れるための短い声、そして痛みに耐えるうめきが、金属音に交じり、奇妙な音楽を奏でているかのようだった。  はじめはデュラモが押していたが、酔いが回り、足元がふらふらになるにつれ、ザギスの剣技がさえわたるようになっていった。その力の逆転が明らかになった

#33.謁見の間・ヤースの断崖

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#33. 謁見の間・ヤースの断崖 リフェティの謁見の間、通称ヤースの崖は、巨大な卵状の地下空間の中ほどに突き出た崖の上にある。  王が座る玉座は、崖のへりに設置されている。  かつて、<おっちょこちょいの王>と呼ばれたヤースが、過って崖から落死して以来、ヤースの崖と呼ばれるようになった。  危険と隣り合わせの玉座であるが、この空間は大魔法使いヤザヴィの傑作とも言われている。玉座に座れば、卵状の空間全てを見渡すことがで

#32. 急転

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#32.急転  デュラモが戸棚を動かすと、背後の岩壁にぽっかりとした穴があけられていた。 「・・・やられた!」  事情を理解したチーグが、思わずその手で力強く膝を叩いた。 「この部屋の隣は、第三王子ヨーの部屋だった・・・はず。ぬかった!」  チーグは、勝利の美酒が器に入らずこぼれ落ちていく様を想像していた。チーグが父王を助け出すより先に、ヨーが密やかに救出作戦を実行したのだ。ザギスやヨーを出し抜くはずが、すでにヨー

#30. 開戦

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#30. 開戦  翌日、ゴブリン王都リフェティへの潜入作戦は、静やかに開始された。  チーグ、バレ、デュラモ、ノトの四人のゴブリンは、リフェティの外縁の森の中にある秘密の通路からリフェティへ侵入した。  ポーリン、ノタック、<四ツ目>は、森の中を音もなく駆け、森の中からへそのように突き出た岩の台地――――リフェティの中心を目指す。  歴戦の古強者であるノタックや<四ツ目>と肩を並べて行動しながら、ポーリンは少し面白ろ

#29. 王都リフェティ、討ち入り前夜

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#29.  王都リフェティ、討ち入り前夜  話し合いが終わったあと、それぞれの役割を再確認したのちに、ポーリンはチーグたちとしばし歓談した。王都への潜入にあたり、別行動となることが決まったからだ。  チーグは胸を張ると、まるで部下に叙勲をする王のように堂々としながらも恭しくポーリンに言った。 「ラザラ・ポーリン、我々が『何者かになる旅』も最終局面だ。ぬかるなよ」 「そちらも気をつけて」  ポーリンは右手を差し出した

#27. 兄と弟、そして友たち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#27.  兄と弟、そして友たち  チーグが<林の書庫>と呼ぶ隠れ家に、夜が訪れる。  パチパチと音を立てながら薪が燃える暖炉の前に、第二王子のバレは座っていた。病弱な彼にとって、リフェティからの脱出行は苦難であった。太陽の光が彼の体力を奪い、乾いた空気が咳の発作を引き起こす。木造りの家も苦手だった・・・彼は、エルフや人間ではない。木の匂いは、身体の弱った彼に不快さをもたらした。  リフェティの自分の部屋が一番だ・・・

#26. 林の書庫にて

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#26. 林の書庫にて  ダネガリスの言葉通り、枯れ木の塔からダネガリスの野を越えるまでは何の障害もない一本道で、翌日の夕方には、チーグたちはゴブリン王国の南端へと到達していた。  彼らは、チーグが<林の書庫>と呼ぶ、木々に囲まれた古い屋敷へと向かった。  かつて、王国の南側の見張り兵の詰め所であったが、ダネガリスの野から王国へ入る者はいないため、いつしかうち捨てられた廃屋となっていた。それをチーグが補修し、こっそりと

#25. 大魔法使いヤザヴィの遺志

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#25. 大魔法使いヤザヴィの遺志  ゴブリンが魔法の才を持つことは、極めて稀である。  それも、数十年に一人、といった稀さではない。数百年に一人、という稀さである。  それを理解していたヤザヴィは、後世に現れるであろう、才能あるゴブリン族の魔法使いのために、ダネガリスの野を築いた。弟子のダネガリスが、死後もここに留まるという制約をもって、長きにわたって強力な魔法の力を保たせている。  ここは、ゴブリンの魔法使いのた

#24. 死せるゴブリンたちとの宴

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#24. 死せるゴブリンたちとの宴  夢とも現実ともつかぬ淡いまどろみから、ポーリンは目を覚ました。  そこは、薄暗い塔の一室だった。黒曜石で作られた黒塗りの円形の部屋で、四方は開けており外の様子が見渡せた。  外に広がるのは荒涼とした大地に広がる枯れ木の森・・・  ポーリンははっきりと意識を取り戻した。  最後に覚えているのは、ノタックとともに骨のヒドラに立ち向かうときのこと。 「おやおや、お姫様がようやく目を

#23. 全員小悪党

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#23. 全員小悪党  ゴブリン王国の第三王子ヨーは、「ゴブリンは、抜け目なく、ずる賢くあれ」という信念を持っている。  彼が目指すのは、そういう国だ。  打算に満ち、欺き、出し抜く。それができれば、ゴブリン王国はもっと栄えるはずだと信じている。  次の王を継ぐのは、人間どもの文化にかぶれた長兄チーグではなく、もちろん病弱な次兄バレでもない。その目的のため、彼はまず軍を掌握することに苦心した。三人の軍隊長は金で、一人