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ものがたる物々 魚の柄の入れ物

側面の魚たちは
上下が互いに入れ替わったと
工場の頃から絶えずうるさく
不平は今や音の塊

私はひとり全身を保ち
片目で空を見上げている
不協和音を聞きながら
胡椒の粒を守ってきた

あまたの旅人たちの指が
私の体をかすめては去り
たまたま拾い上げた彼女の
国は知らない海の先

料理上手な恋人の
元に行くはずだった私は
突如終わった彼女の恋の
煙にまかれて忘れ去られた

月日が過ぎた胡椒の粒は
湿気を含んで重くなり
私が空を見ることもなく
側面の声はどこか虚ろで

どれだけの時が経ったか
無骨な指が私に触れて
かつて私を選んだ彼女に
向かって私の存在を知らす

重たい胡椒の粒の代わりに
私は物語を詰めて
再び空を見上げる
優しい声を聞きながら

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