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この瞬間、きっと永遠になる〜「キナチカ」コンビが伝説になる理由

2020年10月27日、シーズンも最終盤の阪神甲子園球場。

この日お立ち台に立ったのは、近本光司と木浪聖也。1994年生まれ、2018年ドラフト入団の同い年同期コンビである。通称「キナチカ」コンビとも言われたりする。
ふたりが揃ってお立ち台に立つのは、この日が初めてだという。

「去年から一緒にやってきて、一度は立ってみたいなと思ってたんで、今日立てて本当に嬉しいです」
「隣にいてくれる存在なんで、ずっといてほしいですね」
お互いがお互いのことを信頼し、仲の良い様子が言葉からも話し方からも伝わってくる。一緒にヒーローインタビューを受けるふたりは何度も顔を見合わせ、笑顔を隠しきれない。なんだよお前ら、付き合いたてのラブラブカップルかよ。

なんとも微笑ましいヒーローインタビュー。
でもこれを見て、ひとつわかったことがある。

ふたりは、きっと伝説のコンビになる。

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2021年でプロ入り3年目、27歳となる同期のふたり。近本がドラ1で木浪はドラ3。
この時点ですでにコンビ売りされそう感満載ではあるが、ふたりがコンビで扱われはじめ、メディアでも取り上げられることになったのは、ルーキーイヤーの開幕スタメンがきっかけだろう。

2019年の春季キャンプではふたりとも1軍に呼ばれ、木浪はキャンプ期間中実戦全試合安打・近本も安打と盗塁の量産とアピールに成功し、共に開幕スタメンを勝ち取った。しかも木浪が1番、近本が2番。阪神で新人が開幕1・2番を務めたのは、球団史上初めてのこと。ドラフト順位とコンビの呼び方が逆なのは、このスタメンの順番の由縁か、それとも語呂か。
ともに甲子園出場経験はなく、大学を経て社会人からプロ入りした当時24歳のふたりは、矢野政権初めての春に鮮烈な風を巻き起こした。

まだコンビが結成されて間もないじゃないか、何が伝説だ、と思われるかもしれない。でもこのふたりには、将来伝説になる十分な理由があるのだ。

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愛と信頼とライバル関係で、コンビは強くなる

コンビといえども、もともとは他人同士。同じ打者でも、プレースタイルは全然違う。近本は走塁と力のあるスイングが特徴。一方木浪は守備や強肩、左右への打ち分けを得意とする。
でも、お互いのことを分かりあい、信頼を築くことで、コンビは強くなる。お互いが仲良く、愛があるならば、その結束はさらに強い。キナチカコンビに信頼と仲の良さがしっかりと存在しているのは、先述のヒーローインタビューを見ても、試合中のようすを見ても、伝わってくる。どちらかに良いプレーが出たとき、ふたりが笑顔でハイタッチやグータッチ、最近であればエアハイタッチをしている様子はこれまで何度も見られた。

コンビは仲の良い相棒関係であるとともに、良きライバル関係でもある。
プロ入りから2年が経過したいま、どちらがより活躍しているかといえば近本のほうだ。近本はルーキーイヤーから2年連続で盗塁王のタイトルを獲得しており、2年間で出場は262試合。つまり出場がなかったのはわずか1試合。入団してすぐに阪神のセンターのポジションを掴み取り、不動のものにした。木浪も2年間で出場205試合と決して少ないわけではないが、一時期の打撃不振や登録抹消などが響き、レギュラーの完全奪取にはまだ至っていない。

もちろんふたりとも素晴らしい選手であることは間違いない。でも近本のほうが先をいっている。ショートのレギュラーを掴む、そして誰にも譲らず全試合出場する、という思いが強い木浪にとって、ほぼ全ての試合に出場してセンターを守り続けている近本の姿はきっと、輝いているとともに、うらやましくも映るだろう。身近にいる相方は、仲間であると共に、最大のライバル。目の前でライバルが活躍するのを見て、燃えないわけがない。
あいつにできるんだから、俺だって。
燃える闘志こそが、きっと力となり、いずれ結果となって現れるはずだ。

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あいつが打つなら俺も打つ〜キナチカコンビ最強説

2020年のオフシーズン、12月。
Twitterにて「木浪が塁にいるとき・いないときの近本の打率」について、盛り上がっていた。


近本の打率は木浪が塁にいないときは.283、いるときは.424だという。得点圏打率ならぬ、木浪あり打率が強すぎる。そしてこの逆で、木浪の打率は近本が塁にいないときは.241、いるときは.400とのことである。こちらも近本あり打率が4割台に乗っている。

打順や試合状況も関わってくるため、あり打率のほうが打席数は少ないものの、相方が塁にいるかいないかによって、ここまで結果が違うなんて驚きだ。551の蓬莱のCMみたい。木浪が、近本が、あるとき、ないとき。ないときだってふたりとも悪くない打率だけど。

4割以上の確率で自分も出塁できればチャンスも広がるし、相方を本塁にかえす確率もあがる。相方が出塁する、つまり結果を出すと、もう片方も燃えて結果を残しやすくなるのだろう。
こんなところにもキナチカコンビの強さが見える。

近本は自身のTwitterで「木浪が打ったら、僕もめちゃくちゃ気合が入ります」と言っている。ふたりはルーキーイヤーからずっと切磋琢磨してきた。木浪が打てば近本も打つ。近本が打てば木浪も打つ。あいつが打ったんだから、俺だって打ってやる。
もしどちらかがミスをしてしまっても、もう一方がカバーする。木浪が送りバントを失敗してしまった直後に近本がホームランを打って帳消しにする、なんてこともあった。あいつのミスは、俺が取り返す。
人間誰しも、持ち味や強みもあれば、足りない部分や苦手なことだってある。お互いの足りない部分を補いあって、良いところはさらに伸ばしあって、ふたりはもっと強くなる。

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近本は木浪あり打率のツイートを引用する形でこんなコメントを残している。


おっと、コンビ名表記はカタカナじゃなくてひらがなだったみたい。

近本の言う来年、つまり2021年だけじゃない。2022年も2023年も、なんならその先もずっと、ふたりには活躍し続けてほしいし、強いふたりであってほしい。もちろんずっと仲良しでいてほしい。そのためにファンは応援するのみだ。


ふたりが伝説になる、その日まで。




※本稿は、文春野球学校「ホームランコース」課題として作成したものを一部改編しております。


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