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小説トンデロリカ EP03「セミナリオ」後編

■■後編■■

■chapter4

私は両脇を先生達に抱えられて、無理矢理ハイパー学習コースの教室へ連れて行かれた。

そこには何人もの生徒達が、きちんと席について、担当の先生を待っていた。

全員、頭はスキンヘッドだった。
そして、目がうつろだった。

その死人のような顔が一斉に私の方を向く。
あらゆる感情を擦り減らし、削り落とし、ちびて泡立たなくなった石鹸みたいな目だった。

恐怖!
体がガタガタ震えちゃう。

アヴさん小説03後半

同田貫先生はそんな私を嬉しそうに見つめながら、

「貴様もすぐに同じようになる。なあに、そう心配するな。楽になるだけだ。もうくだらん事に気を散らさんですむぞ。成績アップ間違いなしだ。その前に……」

同田貫先生は私の耳を掴んだ。
もう一方の手は、私の作業着のボタンをいじっていた。

ここは教室なのに。
死んだような瞳の生徒達が見ているのに。

「やめて下さい……! お願い……! こ、こんなところで……!」

「見せておけばいいさ」

「み、みんな、助けて!」

私の叫びにスキンヘッド生徒達が応えた。
皆が一斉に口を開いた。

だがそれは……。

彼らの唇は小刻みに震え、呼気と相まって、虫の羽音のような音を立てるだけだった。
生徒達の羽音の声が重なり、悪神のもたらすイナゴの群れを連想させた。
この人達、もはやまともな言葉は喋れなくなっているんだ。

音に取り巻かれて、私は同田貫先生に体をまさぐられていた。

私の脳内に、イナゴの群れがトウモロコシ畑を食い荒らしミステリーサークルを作る様が浮かんでいた……。

「もうやめて!」

私は同田貫先生の手を振り解いたが、すぐに後ろ手に捻り上げられた。

「痛い……! こんな事をして……! ある種の機関紙に投書してやるから……」

「好きにするがいい。お前にそれだけの思考力が残っていたらな」

それから黒板の横の扉へ私を引っ立てていく。
指導準備室だ。

「鶴田先生、お願いします。授業前にこいつの煩悩も引っこ抜いてやって下さい」

同田貫先生は扉を開け、私を突き飛ばして中に入れた。

そこには!

ツルコロンがいた!

ツルコロンは、先に来ていた生徒を両手で掴み、その髪の毛をムシャムシャと食べているところだった。
まるで、我が子を食らうサトゥルヌスのように。
食べているのは髪の毛だけだけど。

「たす……けて……」

髪の毛を引っ張られ、ぐったりとしている生徒。
髪を食べられる事で、同時に気力やら精神力やらも抜き取られていくのか?
教室にいたスキンヘッド達は、ツルコロンの犠牲者なんだ!

「くくく。鶴田先生の愛のムチは強烈だぞ。どんな問題児もおとなしくさせる。我がスクールきってのやり手ティーチャーだ。貴様もせいぜい可愛がってもらいな」

「あれが先生なもんですか! テレビ見てないの!? あれは怪人よ!」

「テレビだと? あんなものは人民をバカにする為に政府が仕込んだ悪魔の機械だ! ニュースは嘘しか言わん! 医者の勧めるワクチンも毒だ! 電子レンジも!」

あーん、もう!
バトルするしかない!

でも……、戦闘服がない。
いくら「変身ポーズ」を取っても、ファル君が転送してくれないと装着出来ないんだ。

今着ているのは刑務所で着るような灰色の作業着。
こんな格好で戦うなんて、無茶だよ。

「ターゲット……ふっさりヘア……ターゲット……」

ツルコロンは犠牲者の髪の毛をちゅるちゅる吸い込みながら、私の方へも手を伸ばしてきた。

「いやー!」

私は咄嗟に、壁にかかっていた歴代講師(?)の額縁写真を投げつけた。
偉そうなハゲチャビンやチョビヒゲの写真がツルコロンにぶち当たる。
でも、そんなんでどうにかなる相手じゃない。
どうすればいいの……。

「貴様、先生になんてことをするんだ! 不敬者!」

同田貫先生が、私にスタンガンを突き立てた。

「アギーッ!」

電! 撃!
感! 電!

「アギーレッッ!」

自分のものとは思えない悲鳴が、私の口から迸っていた。

その時だった。

私の脳みそを電気が駆け巡り、最適解を導き出す為の材料をさらい出した。

ヨミのカンニング巻物の文字……!
やくざ少女の般若面のタトゥー……!
黒板に書いてあったあやしげな記号文字……!
BLっぽく相撲取りが組み合う土俵の図……!
生徒の繰り出す羽音から連想されたミステリーサークル……!

それらが浮かび、重なり合い、交じり合い、羅列され、スパークして、全身の毛穴から放たれた。

「ああー!!」

衝撃波が私を中心に放たれ、窓ガラスが全て吹き飛んだ。

「こ、これって……」

銀色の装甲の嵌った赤い手袋をグーパーする。

そう、それは確かに、全ての命の生と死の秘密を封じた赤い色。
そして、無限に流れて飛び広がる光の銀色。

私は、戦闘服に包まれていた……!

これはずっと後になって分かった事なんだけど、脳内に浮かんだのが、偶然にもデスヘブン純粋宇宙物理学の「式」になっていたの。
それが電気信号として体中から発しちゃったみたいで、私の周りの空間の座標が書き換えられて、別の空間と入れ替わったの。
そして、その時「向こう側」にあったのが、ちょうど私の家のベランダに干しておいた戦闘服だったってわけ。
今思えばなんてことない現象なんだけど、この時はビックリしたな。

ま、これが「勝利の方程式その1」だったってわけ。

とにかく、この姿なら戦える!

「いっくよー!」

■chapter5

私の頭は冴えていた。
我ながらすごい集中力。
確かな自信。
クロスワードパズルでもクイズでもなんでもござれって程の全能感。

対峙するツルコロンのデータが手に取るように分かる。

あの首の角度、足の運び、肩幅と腕の長さ……!

私の頭の中で、かちかちかちピコーンと計算結果が導き出される。

0.08秒後に、仰角60度の右アッパーカットが来る!

「見える……痛ぁい!?」

先読み回避した私の足に、ツルコロンのローキックがぶち当たっていた……!
パンチじゃなかったかあ。

「へへへっ。凡ミス凡ミス! しまっていこう」

今度は大丈夫。
私とツルコロンの距離、窓から吹き込む風、温度と湿度……!

「甘い……痛ぁい!?」

えっとえっと。
今朝の星座占い、トイレの方角、無州倉ロリカの字画数……!

「そこっ……げふう!」

計算が、合わない……!?
こんなに考えて戦っているのに!

「が! げ! あばあ!」

ツルコロンのチョップが、ローリングソバットが、フランケンシュタイナーが、私にヒットする。
どうしよ、どうしよ。
もうシールドエネルギーが無くなっちゃうよ。

焦り過ぎて、もううまく考える事が出来ない……。

「ええーい! もうやめだやめだー! ばかー!」

部屋の片隅に立てかけてあった、木製の、教師用一メートルものさしを手に取った。

「おらー! ばかー!」

何も考えずに振り回した。
もうどうにでもなれだ!

バシーン!

「あれ?」

ちょうど突き出されていたツルコロンの一本拳を、ものさしが上から叩き落とした、みたい。
ツルコロンは、痛そうに手を振っている。

これだ……!

瞬間。
脳みそがピシャーっと光った気がした。
頭の中のゴチャゴチャしたものが、パチパチと見事にはまっていく。
そして、なんとも言えないスッキリ感、爽やかな快感が駆け抜けた。

私は今、全てを悟った。
開眼!

一メートルものさしを顔の前に構えて、念力集中!

戦闘服の赤かった部分が、ぐっと黒く染まっていく!
そして、銀色だった装甲は痣のような紫色に……!

さらに、全身からスパーク!

「下手の考え休むに似たり! むむむむ! 高次精神注入棒!」

ものさしが、ズビビビッと光る!

ツルコロンが迫る!

来なさい!

ツルコロンが大きな手を伸ばす!

来ればいいじゃん!

ツルコロンが、「私」の頭を掴んだ。

「おばかさん! よく見て」

ホログラムがジジジッと解ける。
そう、ツルコロンが掴んでいるのは、この指導準備室に最初から置いてあった、なんかギリシャっぽい石膏像の頭だった。

その時には、私はもう、ツルコロンの真後ろにいた。
すでにものさしを大きく後ろに引き絞っていた。

そして、ツルコロンの白くてぷりんとしたお尻に……フルスイングだ!

「勝利の方程式その2! きえええ! 教育的指導(フォービドゥン・パンセ)!」

バチコーーン!

私の知性のエネルギーが、光と熱と音と衝撃波と愛に還元される。

この部屋にあった全ての教材が千切れ、紙ふぶきとなって窓から吹き飛んでいった。
観葉植物の鉢植えも、ダーツの刺さった世界地図も、様々な指導器具も、お気に入り生徒の写真を集めたアルバムも、すっ飛んでいった。

私の足元の床が、直径二メートルのクレーター状にベコッと凹んだ。

ツルコロンの大きな丸いお尻が、お椀をひっくり返したように凹んで、戻った。
凹みと戻りの「波」はお尻からお腹、胸へと、ドドドッと上っていって……、首の「切り取り線」で一気に噴出した!

千切れたツルコロンの頭の「皮」が、ペットボトルロケットのような勢いで真上に打ち上げられて、天井に激突した。

「勝利!」

「ぷしゅうう……百点満点……教えることは……もう何もありませえん……ぷしゅうう……」

衝撃波の渦巻きに巻き込まれたのか、同田貫先生は全裸で、天井の梁から逆さにぶら下がっていた。

ちなみに勝利の方程式その2は、禁断の思想なんで教えられません。

■chapter6

結局私はそのまま特別講習を修了し、他の生徒を尻目に家路についた。

ちなみに、せっかく暗記した講義内容だったけど、変身する際の電気ショックで全部すっかり完璧に頭から吹き飛んじゃった。

あんなに頑張ったのに勿体ないような気もするし、どうでもいいような気もした。

家に帰るとファルくんがグルグル眼鏡をかけて、鉢巻をして、ひらがなの練習をしていた。
「じどうしゃ」とか「せんたくき」とか。

「あれ? お前、なんか勉強合宿に行ったんじゃなかったか?」

「もう終わったの! だって私バカじゃないもん!」


おしまい


前編はこちら!

小説エピソード4はこちら!

登場した戦闘服カラーは……
「ぬりえ応募作品40(なみいろまーちさん)」!

ぬりえ応募作品40-1(なみいろまーち)


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