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ソウル公共交通レポート



2024年1月韓国ソウルに行って路線バスの取材をしてきました。

そこで見てきたものを写真をつけて何点か説明したいと思います。

「準公営制」導入の背景

韓国では現在、大都市や道単位でバスの準公営制が導入されているおり、最初は2004年にソウル市で導入されています。

背景には、乱暴運転や不規則ダイヤ、交通渋滞の深刻化でバスの平均速度の低下、そして1997〜98年頃に起きたアジア通貨危機による原油価格の高騰によるバス会社の資金繰り悪化や倒産が頻繁した事により、実際私自身が留学していた1998年は、車両故障で渋滞を作るバスや、席や吊り革が1つ足りないバス、エンジンルーム全開で走るバスなどの光景を日常的に見かけていました。

ただ、この時期同時に環境に対する取り組みなども始まっており、市街地への車の乗り入れや駐車場の受け入れを抑える取り組みも始まっていました。(具体的には車のナンバーの末尾とカレンダーの末尾が一致する日は市内の駐車場が利用出来なくなっていた)

21世紀に入り経済危機の混乱も落ち着くと、バスや地下鉄など公共交通の整備が始まり、そのタイミングで2004年に当時の李明博市長(後の大統領)が公共交通の準公営制を導入する。

路線バスの乗り方

韓国の路線バスは例外無く「前乗り先払い」となっており、地下鉄も同様に先払いなので、改札を通る段階でICカードから基本料金を取られる。

かつては市内のほとんどが基本料金で全域を移動出来たのだが、少しずつ料金の値上げも激しくなってくると、10キロまでが基本料金でその後5キロ毎に追加料金が発生する仕組みとなっている。

降車は後ろ扉なのでそのまま降りる事もできるが、降車時にカードタッチをしないと乗り換え割引が出来なくなっており、利用者のほとんどが降車時もカードタッチをして降車していました。(30分以内の乗り換えは地下鉄・バスの区分無く、降車場所の如何に問わずどこでも乗り換え可能)


利用システムの変遷

韓国では1990年代頃から環境に対する取り組みが強く、交通系ICカードの導入も1995年と日本より早く取り入れていました。

開始当初は機械のトラブルなどが発生していたとも聞くが浸透するのは早く、理由としてはICカード導入以前からトークンなどの代替貨幣をシステムに導入していた事もあり、日本のように乗ってからお金を準備するような文化が無かった事が関係している。

20世紀末までは停留所ごとにキオスク(売店)が必ずあり、そこでチャージなども行われていたが、売店の減少などがが始まった2000年代からは、コンビニエンスストアが増え、また地下鉄駅などで機械によるチャージも行われるようになった。

ICカードの導入により、現金で乗車する利用客も大幅に減り、2021年からはコロナ対策の名目も重なり、「現金の使えないバス」が導入された。


現金の使えないバス(当然運賃箱が無い)

写真は現金の使えないバスの運転席部分であり、黄色い看板に赤字で「カード専用」、左隣には「現金の使えないバス」と記されている。

かつてより現金利用者が1%未満になりコロナ禍で現金などの直接物に触れる事を避ける流れが出来ていた事もあり、ソウル市がまず2021年末に8路線で試行の名目で始まっているが現在ソウル市では120路線以上に拡大し、ソウル以外の広域市(日本の政令市に相当)や京畿道などにも波及している。今回私がソウルに滞在しかなりの本数のバスに乗車したが、運賃箱が設置されているバスでも現金で乗車した人は1人も見かけなかった。

車内で現金が使えない(使わない)方法のメリットは円滑な乗降が可能な事である。

現在でもおつりは運転士が手操作で10ウォン、100ウォン単位のおつりを出せるのだが、運転士はあくまで運転をする事が仕事であり、お金を数えるのは仕事ではない考えがあり、現金を使うのは地方の高齢者で稀に見かけるくらいになった。

ちなみに高速バスなどのチケットで乗車するタイプも検札は係員や、最近ではQRコードを利用した検札システムを使用し運転士が検札をする事は無い。


停留所の整備

ソウルロ7017から見るソウル駅乗り換えセンター

KTXの発着駅となっているソウル駅前には、路線バスのプラットホームが南行き4本、北行きが1本、地下には地下鉄(郊外に向かう電鉄も含む)が2路線と仁川空港鉄道がある。

ここで路線バスから路線バスへ、または地下鉄への乗り換えが可能。

ちなみに、ソウルに隣接する都市には地下鉄のアクセスが便利ではあるが、都市高速などを経由する「広域バス」も発達おり、最近では2階建てのEVバスなども見かけるようになった。
これらのバスもソウル駅前の乗り換えセンターなどで見かける事ができる。

乗り換えセンターやターミナルの発達は利用者個人が自ら手段や目的地を選ぶためにあり、その為に乗り換えしやすい環境作りをハード・ソフトに限らず市が整備している。
ソフト面で言えば交通系ICカードを使えば、30分以内の乗り換えは無料になっている点が上げられる。(但し午後9時〜翌朝7時までは1時間以内の乗り換えが無料)


盆唐(プンダン)線、モラン(牡丹)駅前

城南(ソンナム)市はソウル市の隣町だが、都市のスプロール化が激しい首都圏域では住宅の多い人口密集地域。

地下鉄2路線が下にあるこの乗り場でバス4台分は屋根のかかる場所に余裕を持って停車できる。地下には鉄道が走っていてスムーズな乗り換えが可能。

※かつて城南市からはソウル都心部へのバス路線が非常に多かったが、地下鉄の整備によりバスは大幅な改変と路線短縮が行われ、ラッシュ時にも関わらずソウル都心部へ向かうバスは1本も来なかった。これらの取り組みも準公営制による改善であり、バス路線の見直しは数年に一度の頻度で行われる。


ソウルの崇礼門(スンネムン)停留所

通称「南大門」に近いこの停留所はバスレーン上に位置している。

停留所は市が設置するので街のデザインに合わせた設計になる事もある。この停留所は屋根を始め乗り場が特徴ある造りになっている。


バス乗り場にはバスの到着案内板がついており、一番下の段には間もなく到着するバスの番号と共に車内の混雑度も把握できる。(写真では「余裕」(여유)と書かれている)


同様の情報をSNS(KAKAO BUS)からも把握出来る。「Emp」の文字が空いていると言う表示。

気候動向カードの登場

2024年1月27日より、毎月定額で公共交通を無制限で利用できる「気候動向カード」が登場した。

これは地下鉄・バス・シェアバイク(電動自転車)が1ヶ月間乗り放題になる。

料金は月額65000ウォン(約7150円)、シェアバイク無しで登録すると、62000ウォン(約6820円)に設定され、また年内に水上路線バス(漢江を利用する船)が開通予定であり、それも利用を含めた場合68000ウォン(約7480円)となる。

(※レートは100ウォン≒11円で換算)

発売日(1/23)から約2週間(2/4)現在で31万5千枚を記録している。


以上は今年2月に書き、勤めているバス会社に提出しまして、特に反応は無かったと言う結果でした(笑)

ちなみに販売開始から100日後の5月の初旬には、気候同行カードは約125万枚が販売されたそうです。
少し時間は前後しますが、4月前半に利用者のサンプリング調査をした結果として、気候同行カード利用者の約4%が普段の移動手段を自動車から公共交通に切り替えた結果も出たそうです。

最後に2月のレポートの末尾に書いた文章も併せて載せたいと思います。なかなか外の世界を見られない人たちに向けて、少しでも届くと嬉しいです。↓


終わりに

普段の生活の中で、自分の見える場所だけがこの世の全ての様に感じる事はありませんか?私は毎日それを感じてます。

でも世界は思った以上に広くて、今自分がやっている仕事や生活は違う国や街で同様の事をやっている人がいるんだと、外の世界に出る度に思ってます。

2024年問題などで公共交通のあり方も問われてます。それらの課題は、別な世界でも抱えている問題だったりもします。そう思った時に、他所ではどの様に考えているのか、参考になるものはあるのかを調べるキッカケになれたらと思って書いてみました。

他にも書きたい事はありましたけど、今回は厳選して私感を出来るだけ抜いて書いてみました。

この拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。








































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