見出し画像

「オン・ザ・ミルキー・ロード」

原題:On the Milky Road
監督:エミール・クストリッツァ
制作国:セルビア・イギリス・アメリカ
製作年・上映時間:2016年 125min 
キャスト:エミール・クストリッツァ、モニカ・ベルッチ、スロボダ・ミチャロヴィッチ

 連休最終日(9/18)14時の回はほぼ満席だった為16時の回で観る、時間をずらしてもそれでも8割以上席は埋まっていた。娯楽系とは一線を引き、キャステイングもメジャーが多用されているわけでもない。クストリッツァ監督だけで(9年振り新作という背景も手伝い)満席だったのは正直予想を上回っていた。勿論、この集客力には『都内』の映画館のなせるところも大きい。

 個人的な印象だが書物ではなくネットでは安直に「世界観」という表現が多いように映る。「世界観」の言葉に全て委ねそれ以上個人的見解を述べていないことも併せて散見される。
 この作品は異論挟まず圧倒的な監督の「世界観」なのだろうと映画の始まりから終わりまで引き込まれる。他に類似する作品もなく、ここからおそらく亜流も生まれないだろう一人の人間の想像産物。勿論、セルビア(或いは監督の出身地であるサラエボ)という土地柄からくる文化の色や匂いが普段接する世界ではない分、刺激的要素を深めてはいた。特に音楽は一種の麻薬のようにスクリーンのこちら側も酔わせていく。

 監督の他作品でも観られるよう今回も動物らが人に負けない演技を見せる。
 冒頭からおもちゃ箱をひっくり返したような動物の描写から始まり、終盤のこのくまの登場で口移しのシーンでは「本物?CG?」と一瞬迷ったほど自然な2ショット。仔ぐま80キロから付き合いが産んだシーンだそうだ。
 動物を登場させることで其処に民話というより寓話を作っているようで、「とある場所での戦争」と設定されても観る者の多くはユーゴ周辺の戦争を被せているだろうし、一見奇想天外に映る絵が実は奥深い。
「3つの実話に基づき」と映画が始まるのだがどこにも「実話」がありそうに見えないのだ。でも、調べてみると「蛇巻かれる」が一つ。映画でもそのシーンは何度か出て来る。

 そもそも「戦場にロバに乗ってミルクを運ぶ」職業設定自体が寓話の始まり。とは云え、予告等をご覧になって映画館へ行く方はあまり深読みはせず「夢の中にあるような村の話」に音楽と共に流れ込むことをお薦め。かなりブッラクユーモア味付けもあるのだがこの映画を観る対象が大人であれば問題はないレヴェル(例えばグリム等の残酷さを思い出してもらえると良い。)
 愛の逃避行と謳っているものもあるが、印象としてはヒューマンもの。万人受けの映画でないことは確かだが、キュービズム絵画が全ての人に心地良い印象を抱かせなくとも揺るがない芸術性があるようにこの作品もとても映画らしい映画の代表だろう。
★★★★

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?