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「PLAN 75」

監督:早川千絵
制作国:日本
製作年・上映時間:2022年 112min
キャスト:倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、ステファニー・アリアン、串田和美

 ネタバレしないことを課してきたこの映画記録。
 今回どこまで結末に触れず記録出来るのか、主題がシンプルなだけに難しいことを先にお伝えしておく。

 おそらくこの作品を観に行こうと考えていらっしゃる多くは予告乃至話の展開は承知の筈として以降進める。
 近未来の話として切実な日本の高齢化社会を背景にしている。只、このご年配の方々にまつわる話としては現代に限ったことではなくこれまでにも姥捨て山楢山節考が既にあるように決して初めて考慮する世界ではない。
 しかし、それらと異なることは自身の生の選択権が家族であるのか本人なのかだ。

ホテルで働くミチ

 75歳を線引きに人生の終わりを選択出来る法律が可決された背景で高齢の主人公角谷ミチを倍賞千恵子氏が演じる。
 労働賃金無しでは賃貸アパートで生活する彼女は住む場所さえ無くす崖ぷちの日々を強いられている。

交通誘導で深夜働くミチ

 同僚が職場で倒れたことを理由に体よく高齢者の首切りグループにミチも巻き込まれホテルでの仕事を失う。若くはない躰で深夜の道路に交通誘導で立たざるを得ない。

 作品はこのミチを中心にPLAN75に関わる人間を当事者・システム案内(説明)人・コールセンター(悩むだろう期間の話し相手)という当事者と関わる引き止め役・システムの一番最後に関わる外国人労働者から見た夫々の角度で話が進められる。

PLAN75を推し進める役所窓口

 岡部ヒロムは前半に至っては能天気に見えるほどこのPLAN75を丁寧に表情明るく来訪者に説明している。その時点ではこのPLAN75が隠し抱え込んでいる暗部が見えてはいなかった。ある時、彼のテーブルに説明を受けに来た人物が叔父であるところからきれいごとではないPLAN75が見え始めてくる。

コールセンター

 コールセンターでのシステム希望者との会話が彼女らの仕事。事前勤務内容説明では上司に「迷っている人から迷いを取り除き安楽死へ誘導することが仕事」と説かれる。
 コールセンターで勤務する彼女も、また、ヒロムと同じようにルールを破り相談者ミチと直接会ったことをきっかけにPLAN75に懐疑的になっていく。

出稼ぎ労働者マリア

 現場の誰もしたがらない仕事は、架空の世界においても外国人労働者がその担い手となる。子の生を繋ぐ手術費のために死に関わる仕事をする辛さ。

 こうしてPLAN75を取り囲む人々は結果としては誰一人諸手上げての政府が推し進める政策の賛成者としては描かれていない。

ヒロムが真実を知った時

 ヒロムはおそらく当初、これも人生における新しい選択肢が増えた世界で決して悪いことではない、とこの案内人としての仕事に意義をみていた。しかし、上司が隠した資料にはPLAN75が決してきれいごとの世界ではないことを知る。ここには人間の尊厳がない

 75歳の高齢で現実社会においてもミチのように働いていらっしゃる方を見かける。年金や蓄えだけでは不安な方々だ。
 75歳で人生に終止符を打つ理由が貧困だけだとするとあまりにも短絡的で非情過ぎる。この作品ではどうしてPLAN75を択ぼうとしたのか、そうした人々の内面は深く描かれていない。
 作品として近未来的PLAN75の着眼点はドキリとさせられた。しかし、どうも私には引っ掛かりが取れないシーンがあった。
 ミチがPLAN75を択ぶ前に生活保護の相談を受けようとしたシーンだ。
 本日の相談時間は終わりましたの張り紙だけで、ミチがPLAN75に行くことが納得いかない。
 生活保護不正受給者がいるばかりに、受けてよい人々が制度の恩恵を受けられないことが問題ではないのか。以前観たケン・ローチ監督作品「わたしは、ダニエル・ブレイク」とミチが重なって見えた。

 計画的な貯蓄ない者は生きる場所も価値もないなど悲しすぎる。
 作品全体に周辺描写が多く、掘り下げたシーンが少ない。オムニバス的に作品を描くのであればもう少し無駄を排除しその分を内面を描く部分に充てて欲しかった。寧ろ、短編で濃縮されたものを観たかった。
★★

 



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