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9.夕暮れのリスボア

Ⅰ:◇ケーブルカーがある風景
 見通しが立たないままにホテルに戻ると、部屋に着くなりフロントから電話がある。財布の中にホテルカードキーを入れていたことが幸いしてトラム車庫から連絡があったそうだ。partnerの一瞬にして雲が晴れた顔に安堵し、急ぎ車庫までのタクシー代のユーロ札を財布が有る私が渡し見送る。
 結果としては相手がコソ泥で救われ、心配していたクレジットカードを含め全て無事、日本円まで入っていた。300ユーロは学習代として消えた。だが、考えようで50ユーロ程度しか入っていなければ腹立たしさに財布は投げ捨てられた可能性もあり仕方のない額だ。翌日が日曜日に加えて移動日の私達にとってこれ以上の朗報はない。

 夜8時でもまだ明るいヨーロッパ、これまでの暗雲が一気に去り中断していた市内散策を晴れ晴れとした気分になって再開する。
 車体の色が同じ黄色で紛らわしいがトラムとケーブルカーは種類が違い、急坂のみを上って行くのがケーブルカーだ。市内のどこかの路線で乗車したかった交通機関だったこともありグロリア線を使いサン・ペドロ・デ・アルカンタラ展望台へ向かう。 

 時刻表はなく随時発車している模様で、すぐに車内は人でいっぱいになり発車した。レインボーブリッジ然りで、確かに急斜面を上って行くのだが走行している車内に居るよりもケーブルカーが走っている姿を楽しむものかもしれない。そのケーブルカーの走行距離はとても短く、この横を歩いて上っている地元の人の姿が見受けられたところから察すると、移動距離と運賃が見合わないことから明らかに観光用だろう。
 Top写真は19:13に撮影しているがご覧の様にまだ夕闇は姿を見せない。遠く向かいの丘に緑に囲まれた昼間に楽しんだサン・ジョルジェ城が見える。
 昼間とは違い、傾いた夕陽照らされる赤レンガの屋根は趣きを変え、本当に見飽きることがない美しさだった。統一された町並みの美しさは日本では観光地でない限り殆ど見ることができない。

 車を運転するにあたってはこの夕暮れの時間帯は危険だが、散策する分には少しずつ街灯が点り始め、広場には三々五々人々が集い出す風景となり目的がなく歩くだけでも十分に楽しい。日本では慌ただしく過ごす時間帯をこうして無為に過ごすあたりが日常から離れた旅行の楽しさでもあるのだろう。上の写真で角にある建物の外壁は青系のきれいな総タイル張りである。打放しセメント建築を好みとしない私にとってリスボアのこの何気ない街角でさえ隣とは意匠を変えながらも調和を保ち魅惑的に映る。

 余程大きな道で無い限り二車線程度では信号は設置されず、上の写真の様に狭い道でもトラムの軌道が敷かれ、バスと乗用車とトラムの三者が譲り合いながら走行する。
 滞在中、クラクションを聞かなかった。車社会の成熟が此処にもある。この狭い道の共有は故郷長崎市内の路面電車と車の共生風景に似ている。
 歩道も二人横に並んでは歩けず、すれ違う時はどちらかが車に注意をして車道へ降りなければならないのは、日本の側溝の上を歩道にしている状況に近い。が、決して「溝蓋」の連続路ではなく、どんなに狭くても此処もきれいな石畳の歩道だ。




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