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10.夕暮れのリスボア

Ⅱ:◇縁取りされない過去
 足が赴くままと表現するより道にいざなわれて街を歩いていると何かの力に止められるようにふと足が止まる。そして見上げる。後で調べると其処は「Lgreja do Carmo」カルモ教会。

 1389年に建てられた教会と伝えるよりも、1755年M8.5の大地震と15mの津波で6万5千人の人々を天国へ送った被害に残った教会と説明すべきだろう。教会入口近くに立つ限りは周囲と違和感ない建物だが、ふと見上げると風雨にさらされ骨だけになったように天井もなく外壁だけを残していることが見える。石造だからこそ災害に残り、時間の波にも遺った。

 煌びやかな内部装飾が無くとも引き寄せる力は教会だからなのか、私がカトリック教徒だからなのか。
 現在、一部建物が残っている部分は考古博物館になっているが巨匠たちの絵画のように人々を遠ざけることもなく、又、大切な箱に仕舞われる様には存在せず過去からの繋がった一本の線に続いて今に呼吸するかのように以降の新たな建物たちと共に同じ場所で時を刻んでいる。
 かつては当然だった御堂内の祭壇も祈りの椅子も何も無いが、残された列柱は精神の様に天に向かって在る。
 存在することの大切さ。「在り続ける」意味の大きさ。
 壊すことは易い、が復元や再興は生き証人にはなり得ないことを静かに教えてくれる。
 これ以上気儘に歩いているとテージョ川まで下りそうで方向を変えると1902年エッフェルの弟子に作られた約100才になるサンタ・ジェスタのエレベータ裏側に出た。

 さりげなく出現する世界最古のエレベータ、それもエッフェルの弟子だなんて、ヨーロッパは繋がっている。カルモ教会裏からエレベータへと繋がる連絡橋からもあの夕陽に輝くサン・ジョルジェ城がまた顔を見せる。
 今でも低地バイシャ地区と高地シアードを結び動いているが、これも移動機関として活動しているのではなく観光要素が強い。特にエレベータに乗る気も起らず昼間もそしてこの夕暮れも外観を見るだけで終わる。

 そぞろ歩いているとコンサート待ちのように見える人々の華やいだ空気の所に出た。男性はフォーマルスーツに身を包み、昼間はヒール姿の女性は全くと断言できるほど見かけないリスボアで、今宵、女性ら装いの中にはピンヒールの人もいらした。日本では4、5万クラスのクラッシックコンサートで見られる華やかなドレス姿。
 私が羨ましかったのは「開演時間」である。日本では大半が19時開演だがこの日は21時開演のようだった。経済効率だけで動かない大人の夜の時間が十分にあるらしい。

 

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