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「陰謀のデンマーク」

原題:Danmarks sonner
監督:ウラー・サリム
製作国:デンマーク
製作年・上映時間:2019年 120min
キャスト:ザキ・ユーセフ、ムハンマド・イスマイル・ムハンマド、ラスムス・ビェリ

 邦題が大仰過ぎる事、また、これでは監督の描きたかったテーマの核には触れることができないミスリードになっている。英語「Sons of Denmark」では素直にタイトルがついているにも拘わらず、日本ではどうして余計なことを勝手にするのだろう。

 冒頭、誰が仕掛けたのか、その目的も不明な爆弾テロがコペンハーゲンで起きる。作品はその爆弾テロから一年後の同じ街が舞台になる。
 間近に控えた選挙では、移民排斥に関してあからさま攻撃姿勢を緩めない極右政党が勝利する流れが日毎勢いを増していく。その排斥される側も反社会的行動を躊躇せず取り両者は対立を深める。
 父が亡くなった後の家族を19歳のザカリアは、母の経済的庇護にあっても精神的には母と弟を守っていく姿勢だった。そのザカリアが移民家族という辛い立場ながら小さな平和に隠れ続けることが出来ず反社会的世界に飲み込まれていく。

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 デンマーク生まれの監督。この作品で描かれるザカリアのように監督もまた純粋のデンマーク人かと問われた時イラク人の両親を持つ。ご自身の経験をインスピレーションとして制作に取り組んでいらっしゃることは、この作品で容赦なく切り取られていく現実描写でよく伝わる。

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 母国を家族と共に離れる選択は旅行で国を択ぶ事とは雲泥の差別物。もう生まれた国へは帰ることができない覚悟で出国していく人々。戦火から逃れた国でも居場所を奪われるとき、その排斥の手に怯えて時に命さえ奪われる生活するしかないとしたら、母国の悲惨さと大差ない厳しさがある。

 移民問題は、この映画作品舞台のデンマークだけの話ではない。つい最近もドイツの極右勢力が政権に影を落とし始めていることがニュースで流れている。
 島国日本と違い、地続きのヨーロッパ諸国の移民問題は質もボリュームも異なって同じ土俵では語れない。

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 最初から最後まで無駄がない映像と息が詰まる緊張感の連続。政治サスペンスの為、内容の殆どをここで語ることができない。
 只、この作品で描かれている世界がデフォルメされているのかと問われると、悲しいことだが現実とほぼ変わらない。
 移民となって新たな国の一構成員となることの厳しさ。その国に忠誠を誓う他、何を示せというのか。出自のどこまでを辿って純粋と判を押してもらえるのだろう。もうナチスの世界だ。
★★★★

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