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AIのべりすと怪文書『I'm Too Sexy』

 札幌の大通公園に全裸ダンス集団が現れた。彼らは「〽I'm Too Sexy, Yeah!」と合唱しながら踊っている。スキンヘッドのいかつい男性たちは、自らの肉体美をこれでもかと見せつける。その踊り方はまるで阿波踊りだった。
「なんだこれは」
 私は唖然とした。こんなものがニュースになるなんて……。
 さらに次の日も、北海道で奇っ怪な事件が報道されていた。今度はJR旭川駅だ。駅構内に下着姿の女性が現れて、「〽I'm Too Sexy, Yeah!」と歌いながら踊るというのだ。
「何やってるんだ……」
 私は呆れ果てた。もはやギャグである。
 そして三日後の夜七時、NHK教育テレビにて『テレビ体操第一』が放送された。この体操には、なんと「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」という歌詞が含まれているではないか。
「うわああああっ!!」
 あまりの衝撃に、私は思わず叫んでしまった。まさか、ここまでやるとは……! この番組はその後、『ゴールドシップ種付け道場』『うどんでボクシング』『静かなるドン・キホーテ』などのコーナーを経て十一時に終了したのだが、その間、私はまったくテレビから目が離せなかった。
「おそろしい番組が始まったものだ……」
 そう思いつつも、結局最後まで見てしまった自分が情けない。そして翌朝、私は新聞を見て愕然となった。なんと昨夜の番組は、ビデオ録画までされて全国的に放映されてしまっていたのである。
 こうして、日本中を席巻する「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」ブームが巻き起こった。連日のように日本全国各地で全裸の男女が登場し、テレビの前で身体を動かして歌ったり踊ったりしている光景が見られた。そして一ヶ月ほど経った頃には、もはや国民的行事になっていた。
「もう、誰も止められないぞ……」
 私は戦慄していた。このままでは、日本中の人間が裸になって踊るようになってしまうかもしれない。しかし、事態はさらに私の想像を超えていた。

 それから一週間後のことである。今度は東京の大丸デパート前で、男性五人が全裸で大乱闘を始めたのである。原因はよくわからない。酔っていたのか喧嘩になったのか、とにかく大勢の通行人の目の前で彼らは服を脱ぎ捨て、殴り合いを始めたのだ。
「やめてください! 警察を呼びますよ!」
 女性店員たちが悲鳴を上げている。だが、五人は一向に収まる気配がない。そのうち一人が警備員に取り押さえられ、残りの四人も駆けつけた警官たちによって取り囲まれた。ところが――。
「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」
 警官たちに向かって叫び声を上げると、その男は無理やりはかされたズボンに手をかけて脱ごうとした。周囲の人々からどよめきが上がる。
「こいつら全員逮捕しろ! いや、射殺だ! 射殺しろーっ!」
 警官たちは叫んだ。
 そして事件は、あっさり解決した。
「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」
 そう叫びながら暴れ続ける男たちに銃口を向けると、警官の一人はためらいなく引き金を引いた。乾いた音が響き渡る。

「ああ……」
 私は言葉を失った。いったいどうしてこんなことに? なぜ彼らは撃たれなければならなかったのだろう。
 そして次の瞬間、私はあることに気づいてハッとなった。「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」と歌いながら暴れまわる男の中に、どこかで見た顔があるような気がしたのである。
「どこだ?」
 必死に記憶をたぐってみると……思い出した! それは、あのNHK教育テレビに出演していたスキンヘッドの男だったのである。彼は他の四人と一緒になって、踊り狂いながら発砲してきた警官にむけて「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」と連呼していたのだ! 私はその場にへたり込んだ。
「なんてことだ……」
 つまり、この一連の出来事はすべて、彼らの歌と踊りが原因だったというわけか。彼らが歌って踊れば歌うほど、人々はそれに影響されて裸になり、ついには発砲事件にまで発展してしまったのである。なんという恐ろしい現象だろうか。
 この事件をきっかけに、日本では急速に裸に対する嫌悪感が高まっていった。そして、やがて服を着ることこそが日本人にとっての美徳であるという思想が生まれ、それが日本人の常識になっていったのである。

 しかし、それで終わりではなかった。今度はアメリカのある州で、一人の女性が自宅で首吊り自殺をしたのだ。彼女は全裸のまま死んでいたのだが、彼女の死体の周囲にはなぜか「Yes! We are too sexy, Yeah!」と書かれた紙切れが大量に散らばっていたのだという……。
 私は今、札幌市内の路面電車に乗っている。私は中央図書館に行くつもりだった。この時間帯の車内は空いている。座席に腰掛けて、スマートフォンでニュースサイトを見ている。そこに、問題の事件の記事があった。
「また『セクシー事件』かよ……」
 私は奇々怪々な一連の事件にうんざりしていた。しかし、問題の事件群のヒントが中央図書館の蔵書の中にあるのかもしれないと思い直し、目的地を目指す。
 路面電車は中央図書館の前に停まり、私は中央図書館に向かった。
 しかし、私は今まで自らの空腹を忘れていた。しばらくまともに食事を摂っていない。私は図書館に入る前に、近くのファミレスで昼食を取る事にした。私はハンバーグ定食を食べながら、インターネットで「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」という歌詞を調べた。すると、すぐにヒットする。
「やっぱり……」
 私は頭を抱えた。どうやら、「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」という歌詞の意味するところは――。
「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」
 そう「全ての人間たちを『セクシー過ぎる』超人に進化させる」ための「セクシー人類補完計画」だった。私はそのような陰謀に対して驚愕した。なんと恐るべき世界なのか。私は戦慄を禁じ得なかった。
 だが、まだ私の知らないことがたくさんあるはずだ。私はさらなる情報を求めて、スマートフォンの画面をスクロールした。
「えっ!?」
 私は思わず声を上げた。そこには衝撃的な記事が載っていた。
「『Yeah! I'm too sexy, Yeah!』の歌詞を書いたのは、札幌在住の高校生・佐々木薫さん(16)である事がわかった。佐々木さんの自宅に、先月20日、作詞者宛に差出人不明の小包が届いた。中には、『YES! We Are Too Sexy!』のCDと手紙が入っていた。手紙にはこう書かれていた。
《あなたがこの曲を作ったのですか? 素晴らしい曲なので、ぜひ歌ってください。そして、この曲を全国の人々に広めてください。どうかよろしくお願いします。あなたの行動が、日本中を裸にするのです――》
 差出人は、不明である。なお、このCDは現在、発売中止になっている。」
『Yeah! I'm too sexy, Yeah! セクシーすぎるぜ 俺はYO――!!』
 このメッセージは、いったい何を意味しているのだろう。そして、このメッセージを私に送ってきたのは誰なのだ。わからない。わからないことだらけだ。だが、これだけはわかる。
「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」
 そう「セクシー過ぎる」という事は、決して良い事ではないということだけは、はっきりとしているのである。
「それにしても、やはり気味が悪い」
 私は吐き捨てるように呟いた。
「『Yeah! I'm too sexy, Yeah! セクシーすぎるぜ 俺はYO――!!』」
 私は歌を口ずさんだ。そして、その歌を世界中に広まらせるためにも、私は全力で戦うことを決意した。「Yeah! I'm too sexy, Yeah!」と歌いながら。

「うーん…………」
 私は首を傾げた。
「どうしました?」
 隣に座っている妻が尋ねてきた。
「いや、この小説のタイトルは何にしようかなと思ってね」
「タイトル? ああ、あれですね。『Yes! We are Too Sexy, Yeah!』とかいうのはいかがです?」
「却下だよ、そんなの。僕たちが裸なのはいいとしても、読者はドン引きしてしまうだろうからね」
「じゃあ、どんなのがいいんですか?」
「そうだなぁ……」
 私は少し考えて言った。
「『セクシー過ぎる男』というのは、どうだい?」
「セクシー過ぎる男?」
「そう。男なのにセクシー過ぎるんだ」
「どうして男だとセクシー過ぎるんですか?」
「だって、男は女と違ってセクシーじゃないじゃないか。だから、逆にセクシー過ぎるんだよ」
「なるほど……よくわかりました」
 妻は納得したように大きく肯くと、立ち上がって寝室の方へ歩いて行った。そして、すぐに戻ってきた。手に一冊の本を持っている。
「これなんか、面白いですよ」
「どれどれ……ふむ。『Yes! We are Super Salty Man』か」
「はい。スーパー塩辛マンの話なんですよ」
「へぇ、面白そうだな」
 私は妻の手から『Yes! We are Super Salty Man』を受け取り、ぱらぱらとページをめくった。そして、そこに書かれた文章を読んでいくうちに、私はだんだんと気分が悪くなってきた。
「こ、これは……」
「どうしたんですか、あなた?」
「ちょっと読んでみてくれないか……」
 私は妻に本を返した。
「ええっと……」
 妻はパラパラとページをめくりながら、ゆっくりと読み始めた。
「《――ある日、世界は滅びの危機に直面した。世界中を包み込むほどの巨大津波が襲ってきたのだ。人々は逃げ惑ったが、なすすべもなく呑み込まれていった。しかし、その時だった。どこからともかく現れた一人の男が、海に向かって飛び込んだ。すると彼の身体はみるみると巨大化していき、やがて彼は巨大な魚の姿となった――》」
 私はごくりと唾を飲み込み、次の言葉を待った。しかし、妻は黙り込んでしまった。
「それで終わりかい?」
「いえ、続きがあるはずなんだけど……」
 妻は困り果てた顔で本のページを繰っている。だが、いくら探しても、それ以降の記述はないようだ。
「もういいよ」
 私は溜息をついた。
「すみません。この本、間違って買っちゃってたみたいで」
「まったく、しょうがない奴だ」
「でも、大丈夫。ちゃんとした本がありますから」
 妻はそう言って、またどこかに消えてしまった。しばらくして戻ってくると、今度は雑誌のようなものを持っていた。
「はい。これならきっと良いのが見つかりますよ」
 私は渡された雑誌のタイトルを読んだ。
「ええと、『月刊・裸の王様』? 何だい、これは?」
「だから、裸の王様の特集が載っている雑誌です」
「裸の王様の?」
 私は眉間にしわを寄せて、表紙を見た。そこには裸の男のイラストが描かれている。裸の男の股間には、「NO NAME」という文字が書かれていた。
「裸の王様には、本名が無いのか?」
「そういうわけではありませんけど」
「じゃあ、なぜ名前が書いていないんだ?」
「それはですね、裸の王様はただの人間ではなくて、超人だからなのです」
「超人?」
「はい。何しろ、この世界の全ての人間がセクシー過ぎるのは、全ては彼が原因なのですから」
「何だって!?」
 私は驚いて聞き返した。
「この『月刊・裸の王様』によると、そうなのです」
「いったいどういうことなんだい?」
 私が尋ねると、妻は嬉々として語り出した。
「そもそもの始まりは、今から約二十年前、一人の天才科学者が発明した薬が原因でした。その薬の名前は――」
「名前は?」
「そう、その名もズバリ『超絶セクシー人間』」
「ネーミングセンスゼロだな」
「まあまあ、最後まで聞いてください。この『超絶セクシー人間』という薬は、服用すればたちまちセクシーパワーに満ち溢れ、セクシーさでは右に出るものはいないような存在になれるというものなんです」
「ほぉ、凄いな」
「はい。この薬のおかげで、世界中の人々が皆、素晴らしいセクシーさを身に着けるようになったんです」
「なるほど。それで、この『月刊・裸の王様』は、そんなセクシーな人々を集めて、セクシー過ぎる男を決めるコンテストを開催しているんだな?」
「そうです。もちろん、優勝したセクシーな人間は、そのまま王様になり、何でも一つだけ願い事を叶えてもらえるという特典付きなんです」
「ほう、なかなか面白そうだね」
「そうでしょう? あなたもこの機会にぜひ参加してみて下さい」
「わかったよ。早速応募することにしよう」
 私は肯いて言った。
「それでは、こちらの用紙に必要事項を記入してください」
 妻が私に差し出してきたのは、一枚の紙切れだった。私はそれに目を通した。
「『お名前』『性別』『年齢』……それから『特技』か。ふむふむ」
 私はペンを走らせ、次々と項目を埋めていった。そして、最後に『志望動機』と書かれた欄を見て、私は手を止めた。
「どうしました、あなた?」
「いや、ここで書くべきことは決まっていると思うんだけど……」
「決まってるって、何をですか?」
「志望動機だよ」
「ああ、あれですか」
 妻は得心したように微笑んだ。
「実は、ここに来る前に私の方で書いておいたんです。はい、どうぞ」
 妻はポケットの中から折り畳まれた紙を取り出して、私に手渡した。そこには、こう書かれていた。
――私は夫のセクシーさに惚れました。だから、夫と結婚したいと思いました。
「何だい、これは?」
 私は顔をしかめて、妻の顔を見た。
「だから、志望動機ですよ」
「嘘をつけ!」
「本当ですよ。私はあなたのセクシーさが大好き。だからこそ結婚したいと願ったんですから」
「こんなもの、書けるかぁっ!!」
 私は妻の手から紙をひったくった。
「あっ、何するんですか!?」
「うるさい! お前みたいな変態と一緒にいるくらいなら、死んだ方がマシだ! 出ていけぇーっ!!」
 私は大声で叫ぶと、妻はしょんぼりした顔で部屋を出て行った。そして、しばらくすると玄関の扉を開け閉めする音が聞こえてきた。

――こうして、世界からセクシーが消えた。そして、世界は滅びの危機を迎えたのだ。
 だが、その時、どこからともなく一人の男が姿を現した。男は裸で、股間には「NO NAME」という文字が書かれていた。彼は海に向かって飛び込むと、巨大な魚の姿となって津波を押しとどめた。やがて彼は元の姿に戻ると、人々に呼びかけた。
「皆のもの、よく聞くがよい!! 我こそはセクシーマン。この世の全ての者がセクシー過ぎて困っているのならば、我がその問題を解決してくれよう」
 彼の言葉を聞いて、人々は歓声を上げた。
「おお、セクシーマン様だ」
「これで安心だ」
 こうして、セクシーマンは人々のセクシーに対する意識を改めさせていき、世界は救われたのである。めでたしめでたし。

『I'm Too Sexy』(完結)

【Right Said Fred - I'm Too Sexy】



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