見出し画像

「30年前の俺たちが成し遂げられなかった夢を、同じメンバーで遂に実現できたんだ」-トビアス・ガスタフソン(ネスター)インタビュー

 2021年春、YouTubeに上がった 2本の動画“On The Run”と“1989”が一部の音楽ファンの間で話題になった。80年代をオマージュした…といえば聞こえが良いが、見ようによってはコミック・バンドを思わせるようなメンバーの出で立ちと演出。しかしながらジョークにしては曲が洗練され過ぎている…。視覚と音楽のギャップで逆に印象に強く残ったリスナーも実際多かったのではないだろうか。しかしNESTORというバンド名は、このネット全盛時代に検索しても、その時ほとんど情報がヒットしなかった。正に謎のバンドである。既にお聴きいただいている方も多いかもしれないが、日本ではアルバムはCDに先駆け既にデジタルで配信されており、これがまた80’sの良い部分を凝縮した良いとこ取りの作品で、その完成度が更に衝撃を与えた。しかしこのようなアルバムを作れるNESTORとは一体何者なのか。遂にこの謎多きバンドのリーダー兼ヴォーカルのトビアス・ガスタフソンに、バンドにまつわる謎を聞いてみた。

-バンドのバイオグラフィーを教えてもらえますか?

トビアス・ガスタフソン: メンバー全員スウェーデンのファルシェーピングという小さな町で育った。ギタリストのジョニー(・ウェメンステッド)と俺は、かつて同じロッカールームで着替えている時に知り合いになったんだ。俺はテニスをしていて、彼はレスリングをしていた。ファルシェーピングは小さな町でスポーツホールが1つしかないんだ。当時俺たちは、俺の実家に集まりTWISTED SISTERやKISSなんかを聴いていた。当時はお互いに電話をするのではなく、何か用があればお互いの家に行ってノックするだけだったから、俺とジョニーはドラマーのマティアス(・カールソン)とキーボーディストのマーティン(・フレジンジャー)の家に行って、バンドをやらないかと訊いたんだ。ベーシストのマーカス(・オブラッド)は少ししてから加入した。最初のライヴは、1989年の聖金曜日に図書館の講堂でやったよ。まだ雪が降っていたから、ソリでアンプを引いて行ったんだ。バンド初期はプログレにも影響されていてYES、GENESIS、RUSHっぽい感じもあった。
 その後グランジ時代が来て、それに少し影響され最初のEPでは、硬質なリフのハード・ロック、そしてフルートを使った曲を収録した。92年頃になるとバンドはとあるコンテストで優勝し、その後支援を受けてレコードを制作したんだ。初めて本格的なスタジオでレコーディングしたのがヨーテボリのスタジオ・サウンドスケープだった。その後ワイド・レコードという小さな会社と契約し、前金をもらって、93年にヨーテボリに引っ越して共同生活をしながら曲作りをしていた。95年頃には新しいEPを作って、凄く良い出来だったけどそれは正式にリリースされなかった。その頃はDREAM THEATERやQUEENSRŸCHE、特に『OPERATION:MINDCRIME』や『EMPIRE』といった作品に影響を受けていたね。テクニカルなメタルを作っていた。延々と曲作りに励んでいて色んなことをその時学んだよ。その後ちょこっとツアーもやった。糞汚いクラブなんかでね。でもその時アリーナ・ロックは既に死んでいた。俺たちは誰もバンドを辞めるとは言わなかったが、そのうち一人が地元に戻り、一人は勉学の道に…そこでバンドは止まった。
 俺はその後他のバンドを組んだり、ソングライターやプロデューサーとして活動したりしていって、ずっと音楽には関わっていたよ。

(左から)マーカス・オブラッド(B)、トビアス・ガスタフソン(Vo)、マーティン・フレジンジャー(Key)、マティアス・カールソン(Ds)、ジョニー・ウェメンステッド(G)

-数年前に再結成した後は NESTOR fkp (Nestor From Falköping)としてEPもリリースしていましたが、今のような80年代型メロディック・ロックというより、グランジに近いサウンドでした。バンドの方向性を変えることにバンド・メンバーはすんなり賛成してくれましたか?

トビアス: NESTOR fkp はメンバーが長年離れていてまた集まったから、お互い慣れる途中だったんだ。アルバム 『KIDS IN A GHOST TOWN』は相当細かく作りこんだアルバムだけれど、音楽性についてそこは反映しなかったよ。俺とジョニーが原点に立ち返ったアルバムを作りたいと最初に思ったその頃は、技術不足だったりでレコーディングをして形にできる可能性が無かった。だけどそういう方向性に行きたいとみんなに話したら、とても興奮して乗ってくれたよ。

-あなたの音楽的影響や好きなミュージシャンを教えてください。

トビアス: お安い御用さ。バンドだとEUROPE、VAN HALEN、BON JOVI、KISS、 SKID ROW、WHITESNAKE、GIANT、DEF LEPPARDなんかをよく好んで聴いていたよ。個別のミュージシャンだと、歌手ならロニー・ジェームズ・ディオ(ベスト・シンガーだね)、デイヴィッド・カヴァデール、クリス・コーネル(ロニーと同じくらい好きなんだ)。ギタリストだとスティーヴ・ヴァイ、イングヴェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ルカサー、リッチー・コッツェン、エリック・ジョンソン。ベーシストだとエディ・ジャクソン、ダグ・ピニック、ジョン・マイアング。ドラマーだとマット・キャメロン、マイク・マンジーニ、スコット・ロッケンフィールド、マイク・ポートノイ、デイヴ・グロール。キーボーディストだとジョーダン・ルーデス、デイヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ポーカロってところかな。

-バンド名をNESTORにした由来は? ギリシャ神話から名付けたのでしょうか?

トビアス: そうだな。ギリシャ神話から…と言いたいところだけど、真実は俺たちがみんなタンタン(注: 絵本などで有名なキャラクター)の大ファンで、タンタンのキャラクターであるキャプテン・ハドックの執事から名前をもらったんだ。

『KIDS IN A GHOST TOWN』アルバム・ジャケット

-過去に何枚かEPを出しているようですが、『KIDS IN A GHOST TOWN』はバンドにとってデビュー・アルバムという認識で良いですか? また何故このタイトルにしたのでしょうか?

 トビアス: そう、1989年に結成して以来、正真正銘デビュー・アルバムさ。小さな町にいた子供たちが大きな野望をもって育ったという、自分たちのことをアルバム・タイトルは表現している。

-アルバムのブックレットに記載されているサンクス・リストをみると、新生NESTORには多くの人が関わったようですね。実際どれくらい時間を掛けたのでしょうか?

 トビアス: 正直相当な時間を掛けたよ…ミュージック・ビデオで表現したような仕掛けとかを用いて80年代を表現したり、そしてアルバムを作ったりというアイデアの全体像がどんどん膨らんでいったからね。

 -あなたは過去に書いた曲でスウェーデン版グラミーを受賞したり、他にゲーム音楽も作ったりしているようですね。どのように作曲方法を学んでいったのでしょうか?

 トビアス: 多分常に曲を書き続けてきたからじゃないかな。上でもちょっと説明したけど、そうしているうちにいつの間にか覚えたって感じさ。好きこそものの上手なれだと思うよ。子供の頃は学校での出来事や、アイスホッケーの練習について歌っていたよ。 

-あなた方の地元であるファルシェーピングには行ったことが無いのですが、街の雰囲気はアルバム・ジャケットのような感じなのでしょうか?

 トビアス:  ハハハ(笑) そうだね。眠たい町ではあるけど、とても美しいところさ。

 -基本的にこのアルバムの歌詞はあなた方の若い頃の思い出や記憶を元に書かれているのでしょうか?

 トビアス: そう。前の質問のほうでも触れたけど、収録曲全ては俺たちの青春時代と、道を決めて生きていく過程がいかに難しいかということに関連している。

-このアルバムのコンセプトは歌にあるように1989年頃になるのでしょうか?

トビアス: そう。特に1986年から1994年辺りのことだね。

-“These Day”は歌詞にもありますが VAN HALENへのトリビュート・ソングなのでしょうか?

トビアス:イエス。

-サマンサ・フォックスと“Tomorrow”でコラボレーションしていますが、何故彼女に声を掛けたのですか? 彼女は依頼を即決してくれたのでしょうか?

トビアス: この曲を書き始めた時、すぐにこれはデュエット向きだと思った。で、候補をリストアップした中でリタ・フォードが良いんじゃないかとなって、彼女にコンタクトしたんだけど返事はなかった。時が過ぎその後“Perfect 10 (Eyes Like Demi Moore)”の歌詞を書いていた時、少年時代 である80年代に過ごした部屋(実家の自分の部屋)の写真を見ていたんだ。そんな時、壁にサマンサ・フォックスのポスターを貼っていたことを思い出して、“Tomorrow”にはサマンサがデュエット・パートナーで参加したら完璧じゃないか!?って思ったんだ。で、彼女にこの曲を聞かせたら即決してくれたよ。それにはみんな喜んだもんさ。ただビデオ撮影に漕ぎつけるには難儀したね。色々手続きを経て彼女にスウェーデンに入国してもらって、最終的には良い結果を残せたから良かったよ。

-“Perfect 10 (Eyes Like Demi Moore)”の歌詞が個人的にとても気に入っているのですが、しかしなぜデミ・ムーアなんでしょう? あなたにとって特別な思い入れがあったのでしょうか?

トビアス: 昔、デミ・ムーアにすごく憧れていたんだよ。映画『きのうの夜は…』や『ゴースト/ニューヨークの幻』を見てすっかりハマってね。収録曲“It Ain’t Me”の冒頭では『きのうの夜は…』からのロブ・ロウとデミ・ムーアの会話を聞けるよ。

-アンドレアス・カールソンが何曲かで作曲に関わっていますね。彼に声を掛けたのはなぜですか?

トビアス: 彼のことは以前から知っていて、一緒に仕事をしたこともあるから、よくAORやウエスト・コースト・ロックについて語り合っていたんだ。だから何曲か作詞を手伝って貰いたかった時、彼に頼むのは自然なことだった。

-“1989”のビデオでは日本を彷彿とさせる演出が多数出てきますね。刀、日本語字幕、そして役者のクリストファー・カミヤス(タケシ・タカマツ名義で出演)など。何故こういった演出を盛り込もうと思ったのですか?

トビアス: 子供の頃はかなり日本由来のものに影響を受けたよ。『サンダーキャッツ』(注: 日本で制作され海外で放送されたアニメ)、『トランスフォーマー』、『ショーグン』(注: アメリカで 企画・放送され、撮影は日本で行った時代劇)とか、あと付け加えると洋楽のロック・バンドが日本で流行していたのは有名だったしね。日本は俺たちにとって常にエキゾチックで真の美しさを表現する国なんだ。“1989”のビデオを作ろうとした時、俺とディレクターのヘンクは、すぐにその中に日本の要素を加えたいと思った。クリストファーはスウェーデンではよく知られた俳優で、彼に決めるのは簡単だったね。彼がハーフ・サムライ(注: クリストファーは日本とスウェーデンのハーフ)だからと言って、それが役者選びの支障にはならなかったよ。俺たちNESTORは1989年からずっと日本でライヴをすることを夢見ているんだ。だからその気があったら、いつでも声を掛けてくれ。

-他のビデオでもかなり細かく80年代に関連する小道具や演出が施されていますね。これらはもともと持っていたものですか。それとも1から集めたのでしょうか。

トビアス: いや。相当時間をかけてこれらの小道具類を揃えたよ。

-あなたは過去に日本の女性シンガーMiz(渡邊瑞枝)に曲を提供していましたよね? 他にも日本のミュージシャンなどに曲を書いたことはあったのでしょうか?

トビアス: そうだね。Mizとは直接会ったことはないけど、良い曲が書けたと思う。で、他に日本人ミュージシャンのために曲を~の部分は、ちょっと定かじゃないんだ。というのも売り切りの曲を作ると、最終的にそれが誰に行ったか、どう使われたか分からないことがあるんだ。だから定かじゃないという答になる。だけど他の日本人ミュージシャンのために曲を作ったことがあることは間違いないよ。

-ところで、ギタリストのジョニーはなぜアイスマンと呼ばれているのでしょう?

トビアス: その理由は2つ。1、何があっても常に氷のように冷静な男だから。2、IbanezのIcemanギターを使っているから。

-この時点で尋ねるのは早いと思いますが、次のNESTORのアルバムについて既に計画はありますか?

トビアス: 今の時点でそれに答えるのは確かに難しい。けど間違いなく将来次のアルバムは作ることになるよ。

トビアス・ガスタフソン(Vo)

-今後の NESTORの予定を教えてください。

トビアス: 今の時点ではライヴをすることが決まっている。2022年はたくさんツアーとライヴをする予定さ(注: 来年にはH.E.A.Tの前座でのライブや、SABATON OPEN AIRへの出演なども既に決まっている)

-最後にまだアルバムを聴いていない日本のメロディック・ロック・ファンにこのアルバムの魅力を語ってもらえますか?

トビアス: もし君がVAN HALEN、EUROPE、BON JOVI、KISSなどのファンだったら、NESTORは正に打ってつけさ!80年代の最高な要素にちょこっと2021年をミックスしたバンドだよ。

*絶賛発売中*

MICP-11652 NESTOR / KIDS IN A GHOST TOWN  ¥2,970(税込)
☆ボーナス・トラック1曲追加収録
MICP-30172 NESTOR / KIDS IN A GHOST TOWN (Deluxe Edition) ¥3,000(税込)
☆ボーナス・トラック3曲追加収録


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?