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「ウォッチメン」マスクを着用する社会の到来

原題:Watchmen
2019/アメリカ
製作総指揮:デイモン・リンデロフ
編集: デヴィッド・アイゼンバーグ、ヘンク・ヴァン・イーゲン、アンナ・ハウガー
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
あらすじ:物語は2019年のオクラホマ州タルサで幕を開ける。白人至上主義団体である第7機兵隊(Seventh Kavalry)はロールシャッハのマスクを被り、少数民族や人種差別被害者を守る警察に反発する。2016年のクリスマスイブに発生した「ホワイト・ナイト事件」では機兵隊により40人のタルサの警察官の家が攻撃を受けている[2]。生き残った中で警察に留まったアンジェラ・エイバー刑事とジャッド・クロフォード署長[3]は警察を再建するも、彼らは職務中はマスクをして正体を隠した自警団として機兵隊と戦うこととなる。(Wikipediaより)

原作は1986-87年のグラフィック・ノベル(アメコミ)。2009年のザック・スナイダーによる映画も含めてすごく好きな作品。

今作のドラマ版は原作の30年後が舞台。すなわち「続編」とはまた違っていて、原作や映画を観たことがない人でも分かる仕組み。というのも、原作では80年代の冷戦下における核戦争というのがテーマ。ドラマ版は人種差別がテーマと、現代版にアップグレードされているので現代版ウォッチメンといった感じ。ただ原作ファンも楽しめるような演出もチラホラ(ある人のパンツがDr.マンハッタンと同じとか)すごく複雑な原作の物語については説明するのがすごくめんどくさいのですが、ざっくり言うと、ベトナム戦争ではアメリカが勝ってベトナムがアメリカの51番目の州になっていたり、ウォーターゲート事件は明かされていなかったりする80年代パラレルワールド。それらの背景に実はヒーローがいたというお話。現代を舞台にしたドラマではインターネットが無く、みんなが新聞で情報を集めているような世の中。もちろんスマホもないので主な連絡手段はポケベル。

観るきっかけとなったのは、日本でもレンタルがようやく開始されたのもあるが、大きくはこのドラマの舞台がオクラホマ州のタルサということ。詳しくは知らなかったが、事前情報として1921年のタルサ人種暴動という虐殺事件を背景にしているらしいと聞いた。そして某大統領がこの時期にこの場所で外出禁止令を解除してまで選挙運動の為の集会を行うとしているというニュースを見て、これは観なければと思いAmazonで全話レンタルした。

物語はこの虐殺事件からスタートし、展開していく。ちなみにこの世界では俳優のロバート・レッドフォードが30年間大統領を務めており、事件の否を国として認め、レッドフォード基金として被害者遺族へ賠償金を支払っているという世界。すなわちレーガンが大統領にならなかった世界で、リベラルなモニュメントとしてロバート・レッドフォードが大統領になっているという。ただし、そんな世界でもKKKの流れをくむ第七騎兵隊(原作のロールシャッハというヒーローを模したマスクをするレイシスト集団)による警察家族を同時多発襲撃テロがあり、警察もマスクをして身元を隠さないと活動できないほどまでになっている。

ウイルス感染対策の為にマスクが必須となったリアルの世の中はある意味で同じ匿名性を獲得しているのが、いろんな事件の引き金になってるのではないかとつい結び付けてしまう…(このドラマは昨年製作されたものなので意図はされてない…はず)ちなみにタルサでの某大統領の集会は100万人の応募があったにも関わらず、実際は1万人ほどしか集まらなかったとのこと。というのもTikTokユーザーとK-POPファンのティーンが申込みだけしてドタキャンするという運動をしていたからだそう。インターネットという匿名性を使った一例であり、それが無いウォッチメンの世界での「マスク」は一人の人間が集団性というアノニマスを獲得している点で共通かもしれない。

ヒーローが悪役を倒して人を助ける…といった今までのコミックのヒーロー象を脱構築するのがアラン・ムーアによるウォッチメン。世界初のあるヒーローの誕生秘話が6話目で描かれるが、これほどマスクの意味が深いものはない。そしてオジマンディアスは相変わらずイカれてるし、Dr.マンハッタンは火星に引きこもり…?と原作でも出ているヒーローのその後が描かれている。個人的に好きなのはミラー男ことルッキングラス。

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