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AIによる創作物と著作権、基本的な考え方と課題

「神絵が短時間に作成できる」というイラスト自動生成AI「Midjourney」が話題になっているようですね。その生成物とされる画像を見ると、確かに、引き込まれるような魅力的な作品がたくさん見受けられます。

第3次AIブームがトレンドとなって久しいですが、今もなお、新しいAI技術やAI技術によるさまざまなプロダクトやサービスが展開されています。以前ご紹介した「新しい資本主義の実行計画」でも、4つある重点投資対象のひとつ、「科学技術・イノベーションへの重点的投資」の内容としてAI実装が掲げられ、ディープラーニングを重要分野と位置付けてその実装・開発を推進する等とされています。

一方で、芸術性のあるAI技術を用いた画像作成の性能に、イラストレーターをはじめとするクリエイターが危機感を覚える側面もあります。

そこで、今回は「AI技術による創作物と著作権」について概観したいと思います。

これまでにもAIを使った創作物は注目されてきた

これまでもAIによる自律的な創作、AIを使って著作物を生成するプロダクトやサービスは、いくつか話題になってきました。

例えば、2016年4月頃、レンブラントの過去作品の特徴を分析し、レンブラントの画風を捉えた新作を制作する「The Next Rembrandt」プロジェクトの作品が発表されました。3Dプリンターで制作されたという作品の精度の高さから、印象に残っている方も多いのではないでしょうか。

また、スペインのマラガ大学が開発した作曲をするAI「ラムス(lamus)」は、アルゴリズムにより8分ほどで楽曲を自ら作成し、作曲された楽曲は既にオーケストラで演奏されたりCD等販売がされたとのことです。

公立はこだて未来大学で開発された小説執筆AIは、星新一のショートショート(短編)をAIに学習させて執筆させ、「星新一らしい」短編を星新一賞に応募して一次審査を通過させたと話題になりました。

2020年に登場した「GPT-3」は、OpenAIが開発した言語モデルの最新版です。約45TBの大規模なテキストデータのコーパスを約1750億個のパラメータを使用して学習したもので、人間が書いたような文章を自動で生成することが可能とされています。

また国内のスタートアップにおいては、今年の6月に、動画クリエイターにAIがBGMを作曲する「SOUNDRAW」がピッチコンテストのB Dash Campで優勝して話題になりました。

弁護士として行う日頃のスタートアップ企業への支援とのかかわりでは、このような、AIと創作活動が交錯するトピックスにおいては、各プロダクトの「学習データから学習済みモデルを生成する過程」「当該学習済みモデルに何らかの入力を与えて出力する利用過程」のそれぞれに含まれうる著作権が、現行制度の中でどのように整理されるものか、現行制度の限界や問題点を含めて話題となってきました。

そこで、政府の公開資料などをもとに、これまでのAIと著作権に関する議論やなお残された課題について、振り返ってみようと思います。

AIを利用した創作物に著作権はあるのか?

人による創作的意図と創作的寄与があれば著作権の対象となる

まず、コンピュータによる創作物の著作権制度上の取扱いについては、昭和48年と平成5年に文化庁著作権審議会で議論がなされたところであり、特に平成5年の「著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書(平成5年11月文化庁)」における検討内容が参考になります。

この報告書では、「コンピュータ創作物の著作物性については、現時点では、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてコンピュータ・システムを使用したと認められる場合が多く、その結果としてのコンピュータ創作物の著作物性は、現行著作権法の下において肯定される。」との記載があり、「現時点では、コンピュータ創作物の作成過程において何らかの人の創作的寄与が通常伴っており、上述のような現行著作権法の解釈・適用によって対応することが可能であると考える。」とされました。

他方で、「しかし、将来的には、限定された範囲においては、人の創作的寄与を伴わずに作成される結果物で外形上著作物と評価されるに足る表現を備えているものが生じ得るところであり、そのような場合における創作物の保護のための著作権法改正の必要性等については、技術の開発やその応用の動向等についての注視を怠ることなく検討を行う必要がある。」とされました。

つまり、AIを使った創作物であっても、人による「創作的意図」と創作過程における具体的な「創作的寄与」があれば現行の著作権の対象となる、という整理が行われたうえ、そのような創作的寄与等がない創作物については今後の検討課題とされたのです。

AIによって自律的に生成された創作物は著作権や特許権の対象とならない

この整理はその後の議論にも継承され、2016年4月付け「次世代知財システム検討委員会報告書」(知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会次世代知財システム検討委員会)(以下「次世代報告書」といいます。)、2016年5月付け「知的財産推進計画2016」(知的財産戦略本部)(以下「推進計画」といいます。)、そして2017年3月「新たな情報財検討委員会報告書」(知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会/新たな情報財検討委員会)(以下「新たな情報材報告書」といいます。)等へと展開していきます。

そして、次世代報告書において、「現在の知財制度上、人工知能が生成した生成物は、人工知能を人間が道具として利用して創作をしていると評価される場合には権利が発生しうる。他方で、人間の関与が創作的寄与と言えず、人工知能が自律的に生成したと評価される場合には、生成物がコンテンツであれ技術情報であれ、権利の対象にならないというのが一般的な解釈である」と示され、同報告書を踏まえた推進計画においても、同様の解釈が確認されています。

つまり、AIによって自律的に生成された創作物(以下「AI創作物」といいます。)については、現行の知財制度上は権利の対象とならず、だれも著作権や特許権を保有しないとの解釈が固まったということでしょう。

AIを利用した創作物に関する課題

そのうえで、さらにいくつかの課題が示されています。

  1. AIを利用した創作物が著作権の対象となるための「創作的寄与」とは?

  2. 学習用データと同一又は類似物が出力された場合に権利侵害は成立するのか?

  3. AI創作物の権利主張・濫用の可能性

  4. その他の課題

1. AIを利用した創作物が著作権の対象となるための「創作的寄与」について

これは、AIを利用した創作物に著作物性が認められるために必要とされる、人による創作的寄与とは具体的にどのような行為なのか、といった問題です。

例えば、学習済みモデルに何らかの指示を入力する際の選択や、大量に生み出されたAI生成物から生成物を選択する行為などのうち、何をどこまですれば創作的寄与と言えるのでしょうか?自動作曲AIに一定の入力をするとして、メロディやコード、ジャンルやサウンドなど何をどこまで選択すれば創作的寄与といえるのでしょうか?与えられた選択肢から選択する場合には創作的寄与は否定されるのでしょうか?

あるいは、イラスト自動作成AIにおいて、テキストベースでの概念や観念の入力は創作的寄与になるでしょうか?それとも、具体的な表現について一定の創作行為を要するのでしょうか?

この点について、新たな情報材報告書では、現時点では、AIの技術変化の激しさや具体的事例の乏しさから具体的な方向性を決めることは難しく、AI生成物に関する具体的な事例の継続的な把握を進めることが適当として、引き続きの検討課題とされました。

2.学習用データと同一又は類似物が出力された場合の権利侵害の成否等について

これは、出力結果が学習用データと同一又は類似する場合に著作権侵害が成立するかその要件と、仮に著作権侵害が認められる場合にその責任を誰が負うのか、といった問題です。

一般に、著作権侵害と判断されるためには、「依拠」と「類似性」が必要とされています。では、例えば学習用データに出力結果と同一又は類似の著作物が含まれているという一事をもって、依拠は肯定されるのでしょうか?学習データが増えれば増えるほど個々の学習データの影響はごく小さいものになっていきますが、たまたま特定の学習データと同一又は類似の生成物が出力された場合に、依拠を認めてよいのでしょうか?

別の観点として、権利侵害が疑われる場合に、権利者は依拠を立証するために学習用データセットに含まれたデータをどのように調査確認することができるのでしょうか?

また、仮に依拠と類似性が肯定されて著作権侵害が認められる場合、その責任は誰が負うのでしょうか?現状、学習済みモデルの作成者と利用者とが主に想定されていますが、利用者の関与の程度が一層小さくなった場合にも、同様に責任を求めることができるでしょうか?

これらの点についても、新たな情報材報告書では、AIの技術変化の激しさや具体的事例が乏しい状況から、現時点で具体的な方向性を決めることは困難として、引き続きの検討課題とされました。

3. AIを利用した創作物の権利主張・濫用の可能性について

著作物性の認められる、人による創作的意図と創作的寄与の認められる創作物(以下「人による創作物」といいます。)とそうでないAI創作物か、外観だけで判別することは困難です。そのため、AI創作物を人による創作物と僭称して権利主張をしたり、あるいは、人による創作物に対してトロール的な権利侵害を主張するなどの濫用行為が生じたりする可能性が指摘されています。

この点については、区別が困難である以上議論する意味が乏しいとの指摘や、一定の立場から人間には関与できない量の創作物が公表される場合に問題になるにとどまるといった指摘がされています。

新たな情報材報告書では、現時点では、影響の有無や程度が不透明なため、今後の技術変化や利活用状況を注視して、引き続き検討することが適当であるとされています。

4. その他の課題

そのほかにも、関連して、以下のような課題も指摘されています。

  • AI創作物と人による創作物が競合関係にたつため、一定のコンテンツについてはAI創作物が人による創作物を淘汰していく可能性

  • 市場に提供されることで一定の価値が生じたAI創作物について、新たに知的財産として保護の必要性が出てくる可能性

確かに、Midjourneyの生成物を見ていると、その現実的な可能性をまざまざと感じます。

今後の注目ポイント

以上のとおり、これまでの議論においては、技術変化や利活用状況、具体的事例を観察して、解釈の方針や新たな法制度を検討すべきとされています。

AI技術の進歩は日進月歩であり、AI技術を活用したプロダクトの普及は一層広がってきています。近いタイミングで、積み残されたいくつかの課題について解決の方向性が示されるのか注目です。

以上

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西尾公伸 / Authense法律事務所 Managing Director

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