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なぜ、今「スタートアップ」なのか?スタートアップ担当相の新設と新しい資本主義

日本経済を立て直し、新たな成長軌道に乗せていくために、スタートアップ育成は必要不可欠です。私自身、弁護士のキャリアのスタートからスタートアップにかかわってきており、現在までライフワークとして取り組んできています。そのような中、2022年7月2日、「スタートアップ担当相」が新設されるという方向で調整に入ったとの報道が話題になりました。

スタートアップ企業が今後どういったことに注意していくべきか、これまでの経緯や課題の状況、実行計画で決定された施策などを政府の資料をもとに概観しながら、継続的に動向をモニタリングしていきたいと思います。

「スタートアップ担当相」とは?

新しい資本主義の実現に向けて、「人的資本蓄積」「先端技術開発」「スタートアップ育成」そして「GX及びDX」の4本柱に重点的に投資していくなかで、参議院議員選挙を経た内閣改造において新設される見込みの「司令塔機能」がスタートアップ担当相です。
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」[2](以下「実行計画」といいます。)において、「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」[1]とともに閣議決定されました。

なぜ、今「スタートアップ」なのか?

経済産業省のまとめ[3]では、国内スタートアップ向けの投資額は2013年から2021年で約9倍と大きく伸長していますが、世界のスピードには追いついていません。

また2021年時点で、日本はユニコーン企業(企業価値10億ドル超の非上場企業)を11社創出しているのに対し、米国は488社、中国は170社、欧州は116社と大きく水をあけられています。

さらに、米国等では、デカコーン(同100億ドル超)やヘクトコーン(同1000億ドル超)と呼ばれる企業価値の大きいメガスタートアップも存在しており、規模でも差が生じています。

スタートアップは成長のドライバーであり、将来の雇用、所得、財政を支える新たな担い手です。

政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置付けており、2022年6月7日、骨太の方針とともに実行計画を閣議決定しました。

その中で、スタートアップの育成を目的に、14項目にわたる施策等について、実行のための司令塔機能を明確化し、新しい資本主義実現会議(以下「新資本主義実現会議」といいます。)に検討の場を設け、5年10倍増を視野に5か年計画(以下「5か年計画」といいます。)を本年末に策定することが明記されました。

本年末までの5か年計画の策定に向けて、スタートアップやその支援に知見を有する有識者からヒアリングが実施され、準備が進められている状況です。

スタートアップのエコシステム課題

日本のスタートアップのエコシステムは、人材・事業・資金の各面で課題を抱えています。また、さらにそれぞれの課題が相互に絡み合って、好循環が生まれていない状況です。

起業家の不足

  • 失敗に対する危惧や身近に起業家がいないこと等から起業マインドが低い。

成長を支える人材の不足

  • 労働市場の流動性が低く、大企業からスタートアップに人材が移動しない。

研究成果が事業化しない

  • 製品開発、市場投入の各段階を支える資金が不足。

  • 技術・アイディアを事業につなげる研究者の意識や経営人材・伴走者が不足。

迅速な成長・市場展開が不十分

  • グローバル展開を行う意識・ノウハウ・制度理解が不足。国内に閉じた事業展開。

  • 革新的製品・サービスであるが、足下では国内市場が成熟・存在していない。

資金の絶対量の不足

  • 機関投資家からの資金供給が進んでおらずファンドサイズが小さい。

  • 海外からのリスクマネー供給が限定的。

資金の流動性の不足

  • Exit(出口戦略)の選択肢・機会が限定的(M&Aが少なく、IPO偏重のExit)。

  • 非上場株式の流通・取引が僅少。

5か年計画に盛り込まれるとされた14の施策

スタートアップの育成のため、実現計画において5か年計画に盛り込まれるとされた施策は、以下の14項目です。

  1. 公共調達の活用とSBIR制度のスタートアップへの支援の抜本拡充

  2. 海外のベンチャーキャピタルも含めたベンチャーキャピタルへの公的資本の投資拡大

  3. 個人金融資産及びGPIF等の長期運用資金のベンチャー投資への循環

  4. 優れたアイディア、技術を持つ若い人材への支援制度の拡大

  5. スタートアップが集積するグローバル・スタートアップ・キャンパス

  6. 創業時に信用保証を受ける場合に経営者の個人保証を不要にする等の制度の見直し

  7. IPOプロセスの改革実行とSPACの検討

  8. 事業化まで時間を要するスタートアップの成長を図るためのストックオプション等の環境整備

  9. 社会的課題を解決するスタートアップの環境整備として法人形態の在り方の検討

  10. 従業員を雇わない創業形態であるフリーランスの取引適正化法制の整備

  11. 未上場株のセカンダリーマーケットの整備

  12. 海外における起業家育成の拠点の創設

  13. 起業家教育

  14. スタートアップ・大学における知的財産権の戦略の強化

出典:新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~[2]

すでに動き出した施策も

この14項目の施策に関連して、先に動き出しているものもあります。

「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」

2022年6月21日、経済産業省は、「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」を取りまとめました。
こちらは、スタートアップを直接支援する補助金等の支援策のほか、スタートアップの成長を支える投資家や研究機関などを支援する、69の支援策が盛り込まれています。
関連:「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」を取りまとめました 

産業革新投資機構(JIC)による「セカンダリー(流通)ファンド」への出資

2022年7月7日、産業革新投資機構(JIC)は上場前の国内のスタートアップへの投資を中心とするセカンダリー(流通)ファンドへの出資をめざすと報道されました。
関連:株式会社産業革新投資機構 記者会見 2021年度の事業活動と今後の方針について
 
日本は米国より、IPO時の調達額が小さい傾向があります。そのため、IPO時に十分な調達ができず、その後の成長が鈍化してしまうのです。また、日本のスタートアップのExitはM&AではなくIPOが大半を占めます。
実行計画でも、スタートアップが拙速にIPOすることを強いられないよう時間をかけて成長することができる環境を整備すべく、既存投資家がスタートアップ株式をセカンダリー取引できるようにすることが重要と指摘されています。 

個人保証は創業5年不要へ

2022年7月10日、スタートアップ企業支援のため、創業5年未満は経営者の個人保証を免除する方針であると報道されました。
関連するそれぞれの機関について、具体的には以下のように報じられています。

日本政策金融公庫:無担保無保証である新創業融資制度の対象を創業2年未満から2倍程度に拡大する
信用保証協会:創業5年未満の企業に対し個人保証を求める規則を見直す
商工中金:スタートアップ向け融資での個人保証を原則不要にする
金融庁:一定の場合に民間金融機関が個人保証を取らないようが要請すること、加えて、無形資産を担保と位置付けられるような法整備の検討が行われること
関連:個人保証、創業5年不要に 「技術力」も担保対象―スタートアップ融資後押し・政府 

起業に関心がある層にとって、「借金や個人保証を抱えること」は失敗時の大きなリスクです。創業時に民間金融機関から借り入れを行う際に、個人保証があるとハードルが高くなり、起業に踏み切れないことが指摘されています。

そこで、実行計画では、金融機関が個人保証を徴求しない創業融資の促進措置を講じるほか、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策を本年度内に取りまとめるとされています。

今後も継続的なモニタリングが必要

「5年10倍増」が何を意味するのか、KPIの具体的な内容がまだ確定しておらず、予算規模なども不明ですが、本年末までの5か年計画の策定に向けて、スタートアップやその支援に知見を有する有識者からヒアリングが実施され、準備が進められている状況です。

検討状況もモニタリングしつつ、まったなしのスタートアップ育成を日本全体で盛り上げていけるよう、微力ながら尽力したいと思います。
以上


[1]経済財政運営と改革の基本方針2022 について
[2]新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 ~人・技術・スタートアップへの投資の実現~
[3]事務局説明資料 (スタートアップについて) 経済産業政策局


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