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2023年4月に聴いたフィンランド音楽

2023年4月に聴いたフィンランド音楽について書きました。
毎月恒例のこのシリーズですが、4月分から構成を変更し、以下の内容を反映しています。

  • 全作品にコメントを掲載

  • アルバムの基本情報から「ジャンル」を削除

  • 1度しか聴いていない作品は掲載しない

  • 1ヶ月聴いた中で特に気に入ったもの、今後も聴く機会がありそうな作品だけを掲載する

  • 振り返り、日記っぽいメモの廃止

このシリーズを毎月書いていくうちに、興味を持って記事を見てくださった方に少しでもお役に立てるような、楽しんでいただけるような内容にしたいという思いが強くなり、上記の変更をするに至りました。

自分がよりひとつの作品と向き合い、理解を深めていくのも大きな目的です。3月分までは1度しか聴いていない作品でも「こういう新譜が聴けますよ」という情報発信として掲載していましたが、4月分からは繰り返し聴いたもの、聴き込みは足りていないけど妙に気になっているものなど、自分がコメントを書けそうな作品のみを掲載することとしました。その分掲載する作品の数は減りますが、月に40作品近くの新譜を聴き込むのにしんどさを感じていたので、この機会に聴く作品を絞り、自分にとっての大切なレコードを増やしていければなと考えています。

コメントを書くことに注力したいので振り返りや日記っぽいメモは廃止します。振り返りと似たような内容は各作品のコメントで反映するだろうし、日記っぽいメモはツイッターで書けば特に問題ないだろうし。

以上のような方向性で、今後もこのシリーズを続けていければと思っていますのでよろしくお願いいたします。

私がどのようなフィンランド音楽を聴いているのかは、こちらの序文に詳細を記載しています。

音楽家:Lupiinit
作品名:Lupiinit
発売年月日:2023年3月14日
レーベル:5069285 Records DK
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Vainoaのボーカル、Riku JunttanenとIso Autoのギタリスト、Aleksi Saastamoinenによって結成されたエクスペリメンタル・デュオ・プロジェクトLupiinitによるデビュー・アルバム。アルバム全体で存在感を見せるのはMONOの影響を強く感じさせるギター。そこにKlaus SchulzeやEinstürzende Neubautenなどのジャーマン・アンビエント/インダストリアルやシューゲイザーのキラキラした世界観と、ボーカル(恐らくRiku Junttanen?)の強烈な金切り声がドロドロと溶け合う。聴いているとまるでCocteau TwinsとDarkthroneを違和感なく同時再生しているかのような気分へと導かれる。私はドイツのテレビドラマ『ダーク』に一時期ハマっていたのだが、あのドラマでお馴染みだった仄暗い曇天の日に本作を聴きたくなる。それは本作に「ドイツ的暗さ」を強く感じるからなのかもしれない。

音楽家:Haamusoittajat
作品名:Yhteytys
発売年月日:2023年3月25日
レーベル:自主
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Olli Nikkinen(ボーカル、ギター、ソングライター)を中心に結成されたフォーク・ロック・バンドHaamusoittajatによるデビュー・アルバム。爽やかな木漏れ日サイケデリック・フォークを求めている方には是非本作を聴いてみて欲しい。Yo La Tengo、Belle and Sebastian、Kings of Convenience、『Schmilco』期のWilco、Heron、『Eureka 』期のJim O'Rourke辺りが好きなら高確率で気に入るはず。私は本作に出会ってからというもの、毎日のように部屋で流している。特に朝。本作のジャケットのような清々しい天気であれば、我が家のスピーカーから真っ先に流れ出すのは本作。すっかり朝のBGMの常連だ。もちろん朝に限らず、いつどんな状況で聴いても心地よい雰囲気を作ってくれる。そういった点で私の中ではGal Costa and Caetano Velosoの『Domingo』と近い立ち位置なのかもしれない。本作はとにかく飽きない。各メロディや構成が良い具合に薄味で覚えにくいからか、何度聴いても初めて聴いたときの「おっ!良いねぇ」という感覚が消えることがない。その上でアルバム全体の尺がほどよく短い(32分)ので、気軽に気長に楽しむことができる。大推薦盤。

音楽家:Liila Jokelin
作品名:Saapuu sankarina kevät
発売年月日:2023年4月21日
レーベル:Helmi Levyt
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シンガー・ソングライター、Liila Jokelinによる2作目のフル・アルバム。50~60年代のイスケルマ音楽(フィンランドのムード歌謡のようなもの)への影響を色濃く感じさせるフォーク/サイケデリック・ロック。SOUNDIのインタビューによれば、彼女はJanet Jackson、The Doors、Billie Eilish、Henry Rollins、Rage Against The Machineなどあらゆる音楽家がルーツになっているとのことなのだが、特にThe Doorsは3曲目『Kauneimmat helmet』で繰り広げられるジャムセッションが『Riders on the Storm』っぽかったりして、音楽的にかなり影響を受けていると思われる。イスケルマ音楽とあらゆるロック・ミュージックの要素を組み合わせているのが個人的に新鮮で、影響の見え隠れを探るのが楽しい作品だ。そして終始煙たいムーディーな空気を纏っているので、我が家ではbetcover!!『時間』と並ぶ「夜のための盤」となった。

音楽家:Lempi Elo
作品名:Huojuvat puut
発売年月日:2023年4月7日
レーベル:自主
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Lempi Elo(ボーカル、ピアノ)を中心に結成された6人組バンドによる2作目のフル・アルバム。まるでLaura NyroとGenesisとGrateful Deadが感情も展開も目まぐるしく変化するセッションを繰り広げているような音だ。聴いていると摩訶不思議な絵巻物を眺めている気分になる。うたものだし一見聴きやすい印象を受けるけど実際はKing Crimson『Lizard』と肩を並べるハードコア・アルバムなはず。なのに不思議とBGMとして流しても違和感なくお茶の間に浸透してしまうのは、それはLemp Eloの包み込むような歌声やファゴットを筆頭にバンドの音がスタイリッシュに仕上がっているからなのだろうか。といった具合に、聴くたびにほんのちょっと謎を残してこのアルバムは終わってしまうので、気になってもう一回、もう一回、と聴きたくなってしまうのだ。

音楽家:Ruusut
作品名:Melankolia 1 & 2
発売年月日:2023年4月14日
レーベル:Fullsteam Records
ダウンロード/ストリーミング(Melankolia 1)
ダウンロード/ストリーミング(Melankolia 2)

2016年に結成されたエレクトロ・ポップ・バンド、Ruusutによる3作目及び4作目のフル・アルバム。彼らの新譜はなんと2作同時発売。Mastodon『Hushed and Grim』、Big Thief『Dragon New Warm Mountain』、Wilco『Cruel Country』、そして昨年私が年間ベストアルバム1位に選出したKasvoton『Portit / Takaisin Syvyyksiin』など、コロナ渦の影響で制作に注力したと思われる音楽家が2枚組や2作同時にアルバムを出すのをよく目にするようになった。それほど珍しいことではなくなるくらいに。とはいえ、フィンランド音楽に限った話で言えばかなり異例の事態だろう。フィンランド音楽で2枚組や2作同時発売したアルバムは私が知る限り、それこそ前述したKasvotonのアルバムとCMX『Dinosaurus Stereophonicus』くらい。何にせよかなりチャレンジングなことなので、本作は発売前からかなり期待していた。ジャケットも素晴らしいし。内容はBjörk『Vespertine』や三浦大知『球体』と並べて聴きたくなる、光と影のコントラストが美しい壮大なダンス・ミュージックなのだが、日常のどういうタイミングで聴きたくなるのかがイマイチ掴めていないのが2023年5月現在の印象。と、この感想を書きながら本作を自宅のスピーカーで流しているのだが、スピーカーで聴いたほうが圧倒的に良いなと思い始めている(今までヘッドホンかイヤホンで聴いていた)。我が家のスピーカー(SONY SRS-RA5000)がダンスミュージックと異常に相性が良いのもあって、重厚なシンセベースや電子ドラムが前面に出てむちゃくちゃカッコよく響いている。ここまで印象が違うとは。ただ、やはり日常的に聴きたくなるかというと…まだ何とも言えないので、今後も「今聴いたらどうだろう?」と思ったタイミングで聴いてみよう。

音楽家:Jäkälä
作品名:Silmieni sivellin
発売年月日:2023年3月24日
レーベル:自主
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Jäkäläは、desibeli.netに掲載されているプロフィールによれば「詩人・アフォリストのEsko Lovénと音楽家・作曲家のPekka Kaksonenからなる、静かで平和な音楽を創り出すデュオ」。恐らくデビュー・アルバム。このアルバムはもう、再生して30秒ほどで、あ、大好きな作品になるだろうなと確信した。Pekka Kaksonenのボーカルがツボ中のツボなのだ。2022年年間ベストアルバム記事のAli Alikoski & Alanmiehetの感想でもたくさん書いたが、フィンランド人のおじさんが低めの声で抑揚なく語りかけるように歌う歌こそが私が思うフィンランド音楽最大の魅力なので、その要素を持った音楽は問答無用で好きになってしまうのである。本作は特にLeevi and the Leavingsみが強いアレンジの曲が多く、エレクトリック/アコースティック・ギター、ベース、打ち込み(たぶん)のループ・ドラムという極シンプルな編成。加えて時々遠くで鳴るキーボードの音が独特な浮遊感を味付けしていて、とにかく個人的に好きな要素しか詰まっていない。頭士奈生樹『現象化する発光素』が好きな方はハマるかもしれない。聴いていてとにかく穏やかな気持ちになる本作は、15時くらいにできるだけ静かな場所でおやつを食べながら聴くのが一番しっくり来る。そのままお昼寝できたなら最高の一日だろう。今後も長い付き合いになりそうなアルバムだ。出来ればいつかレコードで聴いてみたいけれど、完全自主制作と思われるので難しいかもしれない。せめてBandcampでロスレス音源を販売していただきたいところ。良い音で聴きたい。

音楽家:Kettu Kasetti
作品名:Kettu Kasetti
発売年月日:2023年4月28日
レーベル:Kauno Records
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宅録音楽家Kettu Kasettiによるデビュー・アルバム。面倒ごとを全て忘れて南国でトロピカル・ジュースを飲みながら海を眺めていたいなんてことをたまに考えたりするが、本作を聴けば南国には行けなくとも気分だけなら味わえると思う。そのくらい多幸感にモクモクと包まれた作品なのだ。その多幸感はFlaming Lipsの『A Spoonful Weighs a Ton』や『Yoshimi Battles the Pink Robots, Pt. 1』を聴いているときのものとかなり近いのだが、本作がリップスのそれらと違う点は、明確に「海」や「風」「砂浜」を感じさせるところだ。これこそがKettu Kasetti本人が言うところの「極東のエキゾチシズム」なのだろう。昼間に本作を聴いて、夕方~夜間に細野晴臣『トロピカル・ダンディー』聴けばすっかり出来上がって(?)しまうはず。

音楽家:Pasi Tolvanen
作品名:Risteys
発売年月日:2023年3月31日
レーベル:Pilfink records
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シンガー・ソングライター、Pasi Tolvanenによるデビュー・アルバム。The Byrds『Sweetheart Of The Rodeo』またはEaglesの1stなどを想起させるカントリー・ロック。特にこれといった真新しい要素だったり刺激というのはないのだが、ふとしたタイミングで妙に聴きたくなるし、放っておけない作品だったのでこうして感想を残しておくことにした。本作を聴くと、カントリー・ロックに没頭していた2010年~2012年頃を思い出す。The Flying Burrito Brothersとか…。今でも大好きだし、私にとって非常に重要なルーツのひとつなので、フィンランド音楽でカントリー・ロックの新譜が聴けると嬉しくなる。本作はそんな古き良きカントリー・ロックの要素を「ちょうどよく」取り入れているところが好きだ。ボーカルもギターも主張しすぎず、それでいてどの曲もしっかりポップ。薄味だからこそ、リピートしたくなるものなのだ。私は車の運転をほとんどしないが、これを流しながら田舎道をドライブしたらとても楽しいのではないだろうか。いつかやってみたいところだ。


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