抽象・具体、アナロジー、ネットワーク

筆が走る、筆がすべるように定性レポートを書くには、インタビュー中にaha!体験やエウレカの瞬間をつかまないといけない。
普通にモデレーションしたり、インタビューの観察をしていてもこの瞬間の捕まえ方はわからない。今回はこのaha!体験、エウレカを掴むコツを紹介する。(もちろん、こうすれば全てうまくいくわけではない)
<ノンバーバルの解釈>
リアルのインタビューはオンラインインタビューに比べて対象の非言語表現(ノンバーバル)が豊富に観察できる利点がある。
この非言語表現からaha!体験やエウレカを得るには解釈に多様性を持たせる必要がある。それは、身体や視線の具体的な「動き」を上位概念で言語化することから始まる。「Aさんの発言中にBさんがしきりに頷いた」という具体的行動を「Aさんの意見にBさんが賛意を示した」と解釈するのは当然過ぎて新しさは何もない。それを「賛意ではなく、聞いてますよ」の表現と見たり、「自分が早くしゃべりたくて、Aさんの発言を終わらせたかった」のでは、など解釈を広げ、発展させることを意識的に行う。
発展、展開させたものは収束させないとレポートにはならない。それは、デブリーフィングや分析作業で、コンテキストや発言者のパーソナリティを考慮しながら行う。
コツは「頷く=同意・共感」とステレオタイプな解釈はとりあえず採用しないで無理やり広げることである。
<抽象・具体・アナロジー>
インタビューの情報は対象者からのバーバルなものが圧倒的に多い。
インタビューの発言は前回述べたようにシステム1を使って生成されている。
システム1の即興的発言はコンテキストの中に置いて見直さないと的確な分析はできない。ところが、発言者のコンテキストはその場のふわふわした(システム1)ものである。しかも、このコンテキストは変幻自在であり、モデレーターやインタビュー観察者が的確に掴むことは難しく、大きくズレることがしばしば発生する。
この混乱を越えてaha!体験やエウレカを得るには自分なりのコンテキストをインタビュー前、インタビュー中、インタビュー後の各場面で自ら作る作業が必要である。
その方法は対象者発言を抽象化し、具体化することを繰り返すことである。
「P案はほんわかしていて、Qはカッチリしてる感じかな?」との発言があったとして、モデレーターならプロービング満載で対応できるが見学者はスルーするか「メモを入れるか」しかできない。多くの場合、メモ入れしたときは次の展開に移っていてインタビューを不用意に止める効果しかない。
ではどうするか?この場合、
「ほんわかとカッチリ」の2つのキーワードを展開発展させるのである。抽象的表現にしたり、具体物を考えて見たり、アナロジー表現を考えたり、やれることはいくらでもある。
インタビューから脱線する印象があるが、記録は速記者が作っているし、ビデオを見返すこともできるのだから、見学者は自由に思考を発展させてよい。
<ネットワーク思考>
もうひとつ、ネットワーク思考を意識する。
中でもスモールワールド的ネットワーク思考を使う。
スモールワールドとは、通常のリンクの中に何本か長いリンク、遠くのノードと直接つながるリンクを張ることをいう。
当然、当該のインタビューだけでなく過去のインタビューの発言とリンクを張ることもある。
「ほんわか」とのコンセプト評価について、それより以前に行ったインタビューで「お母さんとはほんわかした関係かな?」と母娘関係を表現した女子高生の表現とリンクを張れば、コンセプト評価に違う意味が付与され、aha!体験やエウレカのきっかけに育つ(可能性が高まる)。
「コンセプトPは、母親と思春期の娘の関係のようなやわらかく壊れやすそうな雰囲気が評価されている」という分析にはaha!体験やエウレカの要素があるのではないか。
<流行表現を使ってみる>
マーケティング、消費生活を表す表現は次々に生まれて消えていく。
現在だと、Z世代、タイパ、推し、などがそれに当たるだろう。
そういったバズワードを報告書に安易に使うと「軽い、ふざけた」印象をもたれるリスクはあるものの、ハマれば新鮮さを演出できる。
例えば、あるインタビューのジャニオタの以下の発言。
「ジャニーズJr.チャンネルというジャニーズJr.がやってるチャンネルとか、ジャニーズでデビューしてる子達はほとんどチャンネルを持っているのだが、Hey! Say! JUMPのグループのチャンネルとか、先ほどもおっしゃっていただいがジャにのちゃんねるとかを見る。
 ジャニーズ仲間はいる。Twitterで知り合った人とライブ会場で会って一緒にライブを見るとかそういう感じ。ジャニーズの友だちはほとんどTwitterで知り合った人」
ここからジャニオタはYoutubeのチャンネルやTwitterでつながっている、という分析より、「SNSのエコーチェンバーによって関係を強化し、アディクションにまで発展しているジャニーズオタク」という分析の方がシャープな印象を与えるのではないか。
これも遠いところにあるノードにリンクは張る例である。

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