定性分析のやり方Ⅲ

インタビュー、デブリーフィングで直感や発見の瞬間がない、頭が沸騰しないインタビュー、いわゆる盛り上がらないFGIももちろんある。
それらも含めて、分析は箇条書きした調査目的にひとつずつ「回答」を書く作業である。
<速報・トップラインレポートも「寝かせて」から書く>
ノートPCがない時代の話。デブリーフィング中にリーダーがレポートを書き始めていた。聞くと、FGI終了翌日の朝10時までに結論をA41枚にまとめてマネジャーに報告するというシステムで全ての定性調査プロジェクトが進行しているとのことだった。
もちろん、フルレポートは1周間後でいいのだが、この速報レポートとフルレポートの結論がしばしば齟齬をきたすと言っていた。
感覚、感情が沸騰状態のデブリーフィング直後と冷却期間をおいてからの分析結果が違うのは当然で、どちらが正しいとも言えない。
頭が沸騰状態では文章化がうまくいかないが、冷静さを取り戻せばやりやすくなる。そこで、デブリーフィング後に一定の沈殿期間をとってから分析に入ることを習慣化する。この沈殿期間は記憶に関する夢の役割に似ている。日中体験したことを睡眠中に再生し(夢)ながら不要な部分が刈り込まれ、主要な部分が海馬に送り込まれて記憶になるとのプロセスは脳科学の定説である(たぶん)。
<直感は枝葉を落とし、見通しのきいたストーリーにする>
インタビュー中に発見された直感、ユウレカ(われ、発見せり!)も数時間の鎮静で消えたり、形を変えている。それは、鎮静期間も直感の論理化、ストーリー化の作業を無意識にしているからである。夢をみている状態。
そして、分析の第一歩は論理化、ストーリー化を文章にすることである(絵・図式をかく人もいる)。このときは報告書は意識しないで自分の文章で記述する。当のFGIのテーマとも離れて構わないが、マーケティングからは離れない。レポートは文学作品ではない。
<企画書の調査目的にもどって、項目別逐次分析>
沈殿期間の後、早い時期に分析を始め、始めたら一気に結論・提言まで書き終える。
分析手順はまず、発言録を全て読み直す。そこで、自分の記憶力の不足・不確かさを実感すると同時に発言録を読むことで発見できた項目をランダムに箇条書きにする。発言そのままを書くより解釈・分析を含めた文章にする。ただし、発言の捏造は禁止。
次に企画書の調査目的の項目一覧を見ながら、項目ごとにFGIで発見できたことを文章化する。このとき、インタビューフローの項目一覧を見ながらでもいいが、調査目的の方が全体像を保持していることが多い。
そして、分析結果のストーリーをつくる。あくまでもマーケティングストーリーであり、起承転結よりも無理、矛盾がないことに重点を置く。
ここまでの作業の中で最初に書いた論理化された直感が使えるかを検討する。無理に使おうとせず、直感を自分の体験知識として蓄積するのもよい。最後に結論と提言を書く。結論は結果の要約でも構わない。
<クライアントはそれぞれ独特な生態系に棲む>
結論から提言に移るときにデブリーフィングの情報を役立てる。その情報とはクライアントのマーケティング生態系である。クライアントの棲んでいる環境をよく理解することで「その戦略提案はウチらしくない」「それは今は採用できない」などの提言に対するクレーム感を未然に防ぐことができる。社内政治の情報もそれとなく役立てればソツない報告書が出来上がる。
以上のプロセスは一気に完了させる。FGIには再集計、追加分析はないし、記憶は日々劣化、改編されるのである。



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