モデレータ話法

ありそうでなかったモデレーターの用語、セリフ集。極私的なものを書く。
モデレーターの能力を評価する側の人にも参考になるような内容にしたい。
<しゃべり出しがインタビューを決める>
あまり意識していないモデレーターもいるが、FGIの前半の雰囲気を決めるのがモデレーターのしゃべり出しである。
ふざけたり、モデレーターがバカに見えてはまずいが、「明るい声」「笑顔」「対象者全員の目を見て」でしゃべり出す。
これが、固い表情で、手元のフローを見ながら緊張した声で始めると、対象者に緊張感が伝染り、何が始まる?何を聞かれる?と警戒心を呼び起こしてしまう。このマイナス雰囲気はテーマに入るまで尾を引く、テーマに入っても、それが対象者にとって関心の薄いテーマだとFGIが終わるまで、盛り上がりを欠いたクライFGIになる。
また、しゃべり出だしは口舌に気を配り、ゆっくりと話すようにする。モデレーターが早口で始めると対象者の注意力が散漫になる。
<台本的具体例>
「では始めます」 → 「始めさせていただきます」とは言わない。日本語としておかしいだけでなく、モデレーターの立場を卑下し過ぎる。
「今日は〇〇という人に集まって頂いて◯について皆さんどうしで自由に話し合っていただくという趣旨で、集まっていただいてます」
「私も◯については素人でして、こういう事を言って欲しい、言わないで欲しいという事はありません。自由に話してください」
「何時までには終わります。あと、皆さんの個人情報、ここに来たことを含めてお名前、発言内容が外に出ることはありません」
とここまでは、つまることもカムこともなくスムースにしゃべれるように自分ひとりで必ずロープレする。→ 準備運動、ウオームアップ
この出だしでつまずくとモデレーション全体がうまくいかないことが多くなる。(観察していても聞きづらい、下手クソの印象を与える)
インタビュー慣れとテーマ慣れを厳密に区別する>
多くのモデレーターは同じ対象者に何回も当たる体験を持っている。これらインタビュー慣れした人にはこの出だしのセリフは無駄という考えもある。だからといって、このしゃべり出し部分を合理化することは勧めない。(外資系クライアントは「すぐテーマに入れ」と要求することが多い)
しゃべりだしはFGIに初めて参加することになり、不安を抱えている対象者にフォーカスする。
このインタビュー慣れは「場の雰囲気」を掴む、つまりラポール形成が早いメリットがあるが、テーマ慣れ、つまり、同じテーマでFGIに参加した人は「学習」してしまうので対象外とする。インタビュー慣れとテーマ慣れは区別して対処する。
<集団のコンフリクト>
インタビュー会場にはモデレーターと対象者数人の他人同士が集まり、テーマに沿って議論する強制力が働くので緊張関係がある。
同じ空間を共有するだけで人は無意識の場所取り闘争をおこなう。これは進化心理学的な説明ができる。
FGIは席を指定されているので物理的場所取りではなく、心理的場所取りが行われる。
モデレーターと対象者の関係はモデレーター上位であるが、モデレーターはこれを対象者に感じさせないようにモデレーションする。
対象者同士にもこのコンフリクト(マウンティングとは違う)は発生するが、モデレーターは中立の立場を確保する。
医師や専門家のインタビューでは対象者上位が前提だが、この時、モデレーターが対等になるようなテクニックがある。


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