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母たちの国へ エピローグ 帰還

「母たちの国へ」30話の「黄金の木」を書いて「オウムとクンダリニーはこれで終わった…」と思っていた。C.G.ユングの夢とヴィジョンの分析を学んできた私にとって、黄金の木の夢は長い旅の着地点にふさわしいものに思えたからだ。

ところが、あの夢を見た三日後、私は再び印象的な夢を見た。
それは夢というよりヴィジョンのようなものだった。

◇◇◇

その夢を見たのは朝方だった。
漆黒の闇の中に青い地球が浮かんでいる。
私の意識は月の側から地球を見ている。

そして、ゆっくりと目が覚めていく。
目覚めながら、こう思っていた。

なんて、素晴らしい青なんだろう。
地球は生命そのものだ。

でも、これは、なんというか…

そうだ、これは神の視座だ。

私には高すぎる。


もう、帰ろう。

◇◇◇

夢で見る色彩は、生まれたての原色のようなみずみずしさがあり、夢見手に深い印象を残す。この夢も、地球のあざやかな青が生命の輝きを放っていた。宇宙空間から地球を見た宇宙飛行士が、その美しさに深い感動を覚えたという報告があるように、夢で地球を見ているにもかかわらず、私も漆黒の闇に浮かぶ青い輝きに息を呑んだ。

目が覚めて、「どうしてこのようなヴィジョンを見たのだろう?」と、布団の中でしばらく考えていた。

すると記憶がよみがえってきた。夢で見た地球のヴィジョンと同じものを私は見たことがあったのだ。あれは立花隆さんの『宇宙からの帰還』の口絵に使われていた「地球の出」(Earthrise)ではないだろうか。1968年、月の周回軌道上のアポロ8号から撮られた「史上最も影響力のあった環境写真」と言われるものだ。

そうだったのか。宗教にもスピリチュアルにも、まったく興味がなかった私がオウムに入ったのは、あの本を読んだことが関係していたのか…。

1983年『宇宙からの帰還』が出版されて評判になると、ノンフィクションが好きだった私はすぐに読んだ。地球を離れて宇宙に行った宇宙飛行士のなかには、宇宙から地球を見ることによって、宗教性に目覚めて生き方が180度変わってしまう人が少なからずいるという。

読んだときは「へぇ…そんなことがあるんだ。おもしろいなあ」と思った。しかし、全人類のいったい何人が宇宙空間を体験できるだろうか。アフリカの草原で野生動物を見るとか、極地にオーロラを見に行くことより、はるかに実現不可能なことだろう。私は心惹かれながらも、自分には関係ないこととして忘れてしまった。

『宇宙からの帰還』を読んでから6年後、オウム真理教と出合うことで私の内的体験は始まり、ヨーガ、仏教、密教の修行によって体験は進んでいった。17年間の出家修行生活をやめてから、現世的な生活を送りながらも内的な旅は続いていた。

そして最後に、慈悲深く誠実な夢は、私に「地球の出」を見せて地球に戻るようそっと背中を押してくれた。私は初めて、「旅はここまでだ。帰ろう」と思えた。

こうして、私は内的宇宙の旅から帰還した。



マガジン「母たちの国へ」(続・オウムとクンダリニー)全30話+epilogue


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