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カースティ・マッコールとニューヨークの夢

勝手にイメージ作るなと反感を買うかもしれないが、カースティ・マッコールは僕にとってのアイルランドの女性のイメージそのものだ。

例えばでいうとジョン・フォード監督の「静かなる男」という古い映画がある。ジョン・ウェイン主演の1952年のアメリカ映画だが、アイルランドが故郷であるアメリカ人のボクサー(ジョン・ウェイン)が故郷に帰って、そこの古い風習に翻弄されながらも田舎の娘と恋に落ちる、という映画だ。この映画のヒロイン、モーリン・オハラが僕のいうところのアイルランド女性の典型である。

愛想が悪く男まさりで、気が強くてすぐに手が出る。そのくせツンデレで恋にはすぐに落ちてしまう。さらに言うと赤毛の癖っ毛で、そばかすだらけ、風が強いのでいつもしかめ面をしている。

映画「静かなる男」右がモーリン・オハラ

カースティ・マッコールのイメージがまさにそんな感じなのだ。そういう意味でもポーグスの「フェアリーテール・オブ・ニューヨーク」のデュエット役としたら、本当にカースティ以外には適役はいないと思う。ニューヨークに夢を見てやってきたカップルが思うように行かず喧嘩をして罵り合うあの歌が、今年もあちこちで流れるのであろう。
ベストセラーになったブレイディみかこさんの「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」のパート2の中に、息子ちゃんの学校でこの歌がクリスマス会の定番曲になっていて、子供達がみんな歌うことになっているのだが、サビの歌詞があまりにも汚いスラング連発のために、毎度問題になる、というエピソードが出てくる。
You scumbag, you maggot
You cheap lousy faggot
Happy Christmas your arse
I pray God it's our last
という歌詞のあたりだろうか。
これを吐き捨てるように歌うカースティは本当にかっこいい。

□The Pogues and Kirsty MacColl - Fairytale of New York

彼女が本当に男まさりで、気が強いかどうかはわからないが、なんというか目力が強いし、歌うときの発音の仕方が強い。何かで読んだが”strong tongue”と形容されていたのを覚えている。

彼女は若い頃リアルタイムのパンクガールだったらしく、彼女の伝記番組を見たことがあるのだが、派手な化粧をした写真が沢山出てくる。若くして音楽活動を始め、スティッフレコードから何枚かシングルを出している。アイルランドの田舎から出てきた女の子のイメージが最も端的に現れているのではないかと思っているPVがこちらだ。なんかカッコ悪いな、と思う人もいるかもしれないが、これは半分わざとやっているのですよ。でも半分は本気で、そこがかっこいいんです。その辺をわかってほしい。曲名を意訳すると「あのフィッシュ&チップス屋の男、絶対エルビス・プレスリーよ。(生きてたのよ!)」

□Kirsty MacColl - There's a guy works down the chip shop, swears he's Elvis 1981

ところで彼女のお父さんは、イワン・マッコールと言うスコットランド系イギリス人の大物トラッド歌手だ。だからカースティもアイルランド人ではなく、イギリス人である。またポーグスのヒット曲「ダーティ・オールド・タウン」はイワン・マッコールの作曲である。ウィキで調べて知ったのだが、この「ダーティ・オールド・タウン」はダブリンのことだとばかり思っていたが、これはイワン・マッコールの故郷、ランカシャー州サルフォードの街のことを歌っているらしい。

少し本題から外れるが、一時期イワン・マッコールはあのブレンダン・ビーハンの兄弟のドミニク・ビーハンと共に何枚かレコードを作っているらしい。だからアイルランドの歌にも詳しいはずだ。いつか探してみよう。ウチにも一枚イワン・マッコールのCDがある。ダブリナーズのような素晴らしい歌声だ。

□Ewan MacColl - My Old Man

父親がダーティ・オールド・タウンの作者だったと言うのもポーグスとの共演理由なのかもしれないが、実際は当時の旦那さんが著名なプロデューサーであるスティーブ・リリーホワイトだったからだろう。彼がポーグスのアルバム「If I Should Fall From Grace With God」(1988)をプロデュースしている。

彼女にはカバー曲が多く、KINKSの”Days”なんて最高なんだけど、僕はビリー・ブラッグの”New England”が一番好きだ。ビリーブラック自身も気に入って彼女のために書き足したフレーズがあるらしく、どのフレーズなのかわからないが、カースティの死後はカースティバージョンで歌い続けているらしい。ビリー・ブラッグといえばエレキギター一本で弾き語るパンクフォーク歌手で左派の社会活動家としても有名だが、カースティ・マッコールのお父さん、またおじいさんも労働運動にずっと携わってきた家系で、カースティ自身もそれを受け継いでいるのだろう。

□Kirsty MacColl - Days

□Kirsty MacColl - A New England

カースティは2000年のクリスマス休暇中にメキシコのコスメル島でダイビングをしていた際に高速モーターボートと衝突して亡くなった。現場は船舶進入禁止区域だったが、一緒に海に出ていた息子に向かってボートが滑走してきたため、それを助けようとしての事故だったらしい。息子は軽いケガを負っただけで済んだとのこと。59年生まれだからまだ41歳の若さだった。

その事故前には何度も南米をおとずれていて楽曲にもそれが反映している。アイルランドの田舎から出てきた娘さんなんて勝手にレッテルを貼ってしまい大変申し訳ないけれど、きっとで雨ばかりでうすら寒いロンドンにうんざりしていたのだろうと思う。エレクトリックレディランドに収録されたこの曲なんてラテン音楽好きの人もきっと気に入ると思う。

□Kirsty MacColl - My Affair

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