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紫と藍のあいだ【連作小説】

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紫と藍のあいだには、いろんな色があるーー。二人の間で交わされる手紙をテーマにした連作小説をまとめています。2021年の1年間に、noteのノベルメディア「文活」に寄稿した作品たち… もっと読む
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記事一覧

つづきますように【短編小説】

 これは、ほかでもない「わたし」の、あるいは「私」の。  そして、「わたしたち」の物語だ…

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のこされたもの【短編小説】

「LINEでは久しぶり。藍、元気?」 『元気だよ。紫はどう?』 「なんとかやってます。……とこ…

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すずまなあかん【短編小説】

 贈り物を考えるのは、この世で一番楽しい時間の一つだと思う。脳内で、相手の好きそうなもの…

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ぬいだからだ【短編小説】

Q:自分に似ていると思う動物は?  A:蛇       ――普久原 紫  小学校の時の卒業文…

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やすみじかん【短編小説】

 その人は、雨降る中、薔薇の下のベンチにいた。  薔薇公園と呼ばれるその憩いの場は、文字…

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はじめてくれますか【短編小説】

1.  始業式の朝の校内は、とろりとした春の明るさに満ちている。  春休みはもう少し長くた…

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うたうためには【短編小説】

■うたえないから “―――ごめんなさい”  音楽室から戻るや否や、手渡されたノートの切れ端には、それだけが書いてあった。  穏やかで優しい人なんだろうな、と思っていた。  後ろの席の、福本 藍(ふくもと あい)。中高一貫の女子校で、高校一年の今年、初めて同じクラスになった。中学の頃から存在は知っていた。色が白くて、すらっと背が高くて、すがすがしい後姿が遠くからでも目立つから。涼しい目鼻立ちで、赤い縁の眼鏡が似合っていた。大人しい子たちのグループにいて、教室の隅でいつも本

すててしまおう【短編小説】

「これ、捨てていい?」  わたしが食器棚の中を見ながら声をかけると、比呂は怪訝な顔をした…

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あけられなかった【短編小説】

「最近、思わず泣いてしまったことってある? 私は、――」  この街は、散歩に向かない。 …

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あたためてみたのだけど【短編小説】

 駅から帰宅する途中、“Endless”という古い喫茶店が、閉店の貼紙を出しているのが見えた。…

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