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【良い提案、悪い提案】第一話

お世話になっております。仙と申します。金融の個人営業一筋16年。昨年末に15年勤めた都銀を退職し、今は個人会社を設立して財産コンサルティング業を行うと共に、業務委託IFAとして活動しています。

銀行時代から今に至るまで、成約していながら提案のロジックは誤っており、それゆえに折角商品・サービスを成約したのに望んだ結果が得られない…という状況に問題意識を感じていました。
儲かるのは銀行・証券ばかりで顧客は損失…だけならまだマシで、相続上のトラブルに発展してしまった、というのもザラにある話です。

その金融機関を信用・信頼して取引しているのにも関わらず、取引していなければそんなことにはならなかったなんて、酷い話です。
しかし、残念ながらよくある話でもある。

いつしか、私はこう思うようになりました。

個人金融界の世直しをしたい。

担い手あるいは金融機関からセールスを受ける方が、この文章を読んで「あ、しまった。もうちょっと提案考えないと・・・」あるいは「担当からは説明が無かったな。聞いてみよう」と思ってもらうことがあれば、不幸な取引は防止できるはず…そんな考えで、筆を取ろうと思った次第です。

それでは、始めます。

シリーズ【良い提案、悪い提案】

第一話 今年の贈与は今年の内に 

「今年の贈与は今年の内に」10月~12月の第三四半期。銀行の朝礼では、営業責任者の口からこんなフレーズがよく出てきます。
意味は「高齢の親から子・孫へ贈与をして、その贈与したお金で平準払いの保険に入らせろ」ということです。 

生命保険文化センターによりますと、日本における2020年の死亡者数は137万人、その内相続税が課税された人は12万人。だいたい亡くなった方の8.8%が相続税課税対象者です。
そして、銀行や証券会社の外回りが担当しているお客様は、相続税課税対象者の方が多いです。
皆さん、銀行に預けても大した金利はつかず、株はつい最近までなかなか元気が無く、バブル崩壊を引き摺って「親の遺言で資産運用はやらない」と仰る方も少なくなく、要するに増やすのは難しいからせめて減るのを少なくしよう、節税しようというように考えに至るようです。
税理士に相談しながら、あるいはセルフで基礎控除110万円以内の現金贈与をしたり、120万円贈与して1万円贈与税を払ったり。土地を贈与したり、会社の株式を贈与したり。お客様の事情によって、対応は様々です。
土地を贈与したり会社の株式を贈与するのは、継がせたい人がいるという点で目的がはっきりしており、ここでは問題として取扱いません。
ここで問題にするのは現金贈与です。 

銀行では、顧客向けあるいは銀行内で担当者向けに、ホンモノの相続に強い税理士を招き、セミナーや勉強会を数限りなく行っています。
その中で高頻度に話題に上がるのが現金贈与です。

『驚くべきことに、現状、相続税を申告した人が税務調査を受けた場合、近年コンスタントに約8割の方が間違いを指摘されて追加で税金を払っています。その内現預金を間違って申告しているのが約3割。贈与したはずが贈与とみなされないんですよね』

といった具合。

代表的なNG例は親が子どもの口座を作り(昔はそれが出来た)、そこに資金移動をしている場合。
気持ちは分かりますよね?
税金払うのが大変だと分かっているので、少しでも楽になるようにしたい。大事なお金なのだから子どもに渡して好きに使われても困る。
だから通帳を自分の手元に置いておく、あるいは子どもに渡しても使うなと言い聞かせる。
形式上問題ないように、あえて基礎控除を上回る金額を贈与し、贈与税を払って領収書を置いておく。

気持ちは分かりますよね。

しかしながらセミナーや勉強会で口を酸っぱく言われるのが、「形式なんて整えたところで、実態の方が大事」だということです。
「あなたに100万円あげるよ」「私は100万円もらったよ」と、あげる側もらう側双方が承諾して贈与です。
「100万円あげるけど使うなよ」という100万円。貰ったはずなのに使う裁量が与えられていない?誰のお金なんですかね?という話になるのは、想像できますよね。
贈与して節税したいのに、その為には受贈者(もらう人)の生活口座にお金を入れるなど、誰がどう見たって受贈者固有の財産ということにせねばならず、でもそれは贈与者(あげる人)の本意ではない、と。

困りますよね。

そこで保険料贈与という考えが生まれてくるわけです。 

保険料贈与とは。
こんなスキームです。

①    親が子・孫に現金を贈与する。

②    子・孫が自らの意思で生命保険を契約し、贈与を受けた資金で保険料を払う。

③    〇〇年後、保険の解約返戻率が100%を超えた以降で解約すれば元本を損なわずに解約できる。

贈与者からすると、保険を使うことで10年余の間贈与したお金を固定できるという、「贈与はしたいが簡単に使ってもらっては困る」という不満を、見事に解決できるスキームです。

受贈者からしても「そもそも自分のお金ではないし、10年余経てば何かしらライフイベントが起こっているだろうから、まあいいや」という感覚を持ちやすく、しかも断りにくいアイディアでしょう。

一見、銀行も儲かって担当者の業績にもなりWin-Win-Win-Winな案件!なように見えます。実際そう理解されて契約されるお客様がいらっしゃいます。

前置きが凄まじく長くなりましたが、ここで【良い提案、悪い提案】です。 

【良い提案】
言うまでもないのですが、お客様ごとの状況に応じて「適切」が変わりますから、ざっくり良い提案とまとめると「そんなの当たり前じゃん」ということになります。
良い提案は以下の条件を満たすものです。
①    目的に適っている。
②    意向に即している。
③    不足の事態で損失を被るリスクが低い。
④    贈与者・受贈者が内容を把握している。
悪い提案は上記を満たしません。

当たり前じゃん。 

【悪い提案】
こんな話はどうでしょうか?

『Aさんは毎年子どもに200万円贈与をしている。自分の相続税を減らす目的で、自分の相続が起こった時にはこのお金で納税に使って欲しいと思う。10年くらいは贈与を続けられるだろう。』というAさんから聞いた話をもとに、年間の保険料200万円、10年払い、Aさんが被保険者になれない為(※)、二次相続対策ということでAさんの配偶者を被保険者として、平準払い終身保険を契約した。

どう思われますか?

①    目的=自分の相続税を減らしたい。贈与が成立すればOK⇒〇

②    意向=自分の相続税の納税に使って欲しい。⇒✕ 被保険者が配偶者。

③    不足の事態で損失を被るリスクが低い。⇒✕ 顧客の話を鵜呑み。

④    贈与者・受贈者が内容を把握している。⇒不明

こんな感じじゃありませんか?

目的は良さそうですね。贈与が成立しさえすれば、節税という目的は果たせます。

意向はどうですか?自分の相続税の納税に使って欲しいから贈与を行うのに、被保険者が配偶者?保険料の払い込みが終わって、いつ解約しても元本割れが起こらない状況であれば良いですが、自分が被保険者になって自分の相続の時に保険金が出てきた方が良さそうですよね。これが出来ない理由は、Aさんの(1)年齢か(2)健康状態が問題なのか、それとも(3)銀行から事業性融資を受けているので被保険者になれないからか。
それぞれ、取るべき対応は以下の通りです。
(1)   年齢が問題であれば、「相続によって財産を受け取る人に贈与をしてから3年経たない内に相続が起こると、贈与した財産も相続税の課税対象財産になる」ことから、そもそも贈与が対策として取るべき手段となるのか?検証・考察したいところ。
(2)   健康状態が問題であれば、職業告知で済むような平準払い定額保険で本人を被保険者にすることで解決できると思います。「本人が被保険者になれないからご家族が被保険者になって下さい」ということなら、止めるべきです。
(3)   そこの銀行で無ければ被保険者になれるので、他所で契約しましょう。

不測の事態への備えはどうですか?200万贈与して200万保険料に充てていたら、どうにもなりませんよね?全額保険料にする必要はありますか?半分程度に抑えて、残りは生活口座にまぎれさせることも検討すべきですよね?

贈与者、受贈者の理解と納得はどうですか?時間の経過と共に忘れ去られていきませんか?しっかり全体計画を練って、あるいは他の保険会社なども巻き込んで、ご家族の了解を得ながら進めれば、忘れ去られるリスクも低減できませんか?

これらのことは、担当者及びその上席にちゃんと知識があり・誠実で・正常に頭が働いていれば普通に案内されることではありますが、残念ながらその日の成約を取る為に、確認が省略されていることがほとんどです。

まあ一応、上の事例も、保険料の払い込み期間中にAさんが健康で・資金が枯渇するようなことが無く贈与を続けることが出来、また税制なども変わらない前提であれば問題ないでしょう。そこまで前提条件をクリアしなければならないのですから、これは悪い提案でしょうね。少なくとも良い提案とは言えないでしょう。

お客様が経済的利益を多く得れば得るほど、お客様に関わる人にも利益が生まれていくものですから、保険料贈与自体を否定するものではありませんが、担い手にはしっかり考えて提案してもらいたいものです。

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