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金融リテール営業と遺言

 全文にわたって、私見を述べます。
 
 先般、久々に公証役場で公正証書遺言作成の立ち合いをしてきました。
遺言は一般的に「ゆいごん」と読みますが、法律用語では「いごん」と読みます。公証人はじめ法律家の皆さまとやり取りしていますと「いごん」という言葉が飛び交うわけですが、お客さまと話をする時には「ゆいごん」と言ったりします。
 どちらも読み方は合っているわけですが、お客さまが「ゆいごん」と言っているのに「いごん」と言い直すことも無かろう、と思うわけです。
アイスブレイク的にどうでも良い話を最初に持ってきてみました。文字数の無駄?まあ、そう仰らずに…

一般的に遺言は3種類です

 ①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言。③秘密証書遺言については特に触れません。実務上見たこともありませんし、使いどころがあるとも思えないからです。
 

①自筆証書遺言

 読んで字のごとく、自分で書く遺言です。書いたら家庭裁判所の検認手続きを受け、遺言として認めてもらいます。但し、形式的に遺言であると認められることと、法律的に有効であることとは別の話であることがポイントです。

例えば
『甲という不動産を子Aと子Bに相続させる。ついては、Aに2分の3、Bに3分の1相続させる。』

…( ゚д゚)ポカーン …( ⊃д⊂)ゴシゴシ …(*゚д゚)エッ?!

思いましたよね?
『Aに2分の3…?3分の2の間違いでしょう』
と。
相続人のコミュニケーションが円滑であれば、『お父さん、間違えてる。3分の2だよね。』『ね。』というやり取りになるのでしょうが、円滑でない場合には『おどれこのクソ兄貴が(# ゚Д゚)!!無効じゃ!!こんなもんは!!』という展開の火種になることは、容易に想像できますね。
 昨今、自筆証書遺言補完制度が始まり、裁判所の検認を受けずとも法務局で形式チェック&保管してくれるようになったのですが、内容のチェックをしてくれるわけでは無いので、上述のようなミスによって台無しになってしまうリスクがあるのは変わっていません。
 私見ですが、自筆証書遺言は、遺産分割協議を行う上で亡くなられた方の遺志を参考にするという点では大きな意味はあるものの、遺言としての機能はそもそも期待するものではありません。有効な場合の前提として、遺言の内容が相続人間で平等、かつ相続人間の関係が良好で、コミュニケーションに支障が無いことが必要になると思います。
 下手に傾斜をつけた自筆証書が出てきてしまった場合、かつ法律的に認められなかった場合には、色々と考えた上で遺産分割協議に臨まなければなりません。「なぜ私の取り分はこれだけなんだろう?」「自筆証書を書いたのはなぜだろう?」「本人の意思によるものなのか?誰か書かせたとか?」「なぜ…」と。
 余談ですが、銀行勤務時代、私は地主さまを多く担当してきましたので、相当数の遺言開示の場面を見てきました(立ち会ってはいません)。
 どの方も、「明日、遺言の開示なんだわ。果たして、どうなるかねえ。」と、非常にストレスを感じていらっしゃいました。ノーガードで臨まれた方は少なくとも私が見た限りでは皆無で、次の当主である自分が一族の資産を守る為、これだけの資産を承継しなければならないというロジックを考えて臨まれていた方ばかりだったと思います。
 故に、私の考えは上述の私見のようになります。

②公正証書遺言

 事務手数料を払って、公証人に遺言公正証書を作成してもらいます。公証役場で(あるいは出張してもらって)、遺言の一文一文を公証人が読み上げながら確認し、最後に自署と実印を押捺し、公正証書遺言としてデータベースに登録され、100年程度保管されます。なお、その場には利害関係者でない人2名が立ち会いますので、本人の意思もしっかりと確認されます。
 専門家である公証人が作成する為、法律的に内容が無効ということが有り得ません。直接公証人と相談しながら作成することも可能ですが、司法書士、弁護士、税理士、信託銀行らが遺言者にヒヤリングしながら草案を作成し、公証役場に持ち込み、公証人のチェックを受けて完成させるケースがメジャーなのではないでしょうか。
 公証人の方がかなり丁寧に対応していただけるので、有効な遺言を作ろうと思うと、直接公証人の方とやり取りすれば済んでしまうところですが、法律的に有効だとしても「遺言者を取り巻く状況を鑑みた時に、その内容が適切といえるのか?」という疑問は解消されません。
 税務的な内容は税理士等に検証してもらい、法律的に難しい遺言になる場合は弁護士に検証してもらい、内容は簡単だが相続人が海外在住であるなど実務的に難しい場合は信託銀行などの大きな組織を執行人にする…など。作成費用も馬鹿にならないので、どの程度のものを求めていくのか・求められるのかを検討し、時には複数の専門家を組み合わせて遺言を作り上げていくことになるでしょう。

誰に遺言を書く手伝いをしてもらうのか?

 相談を受けるところが多い中で、誰に相談するのがいいのか?ということについて。相続アドバイザーを名乗っていらっしゃる方も見受けられるのですが、実態が全く分からない為、省きます。すいません。
 遺言の内容については、洗い出された課題に応じて、遺言作成~執行を誰が引き受けるのが相応しいか?ということは明確になっていると思います。
・遺留分を侵害することが明らか ⇒ 訴訟リスクを抱える ⇒ 弁護士
・納税が課題 ⇒ 定期的な相続税の洗い替え&納税の算段が必要 ⇒ 税理士
・物理的な手続きが困難 ⇒ 信託銀行などの大組織
こんな感じで。
 
 遺留分を侵害するほど傾斜をつけた財産分割にせざるを得ないケースがあります。不動産や自社株は適当に分けるわけにはいかず、代替わりと共に分散させないことがセオリーです。かといって大きな不動産を相続しても、相続税を納税できなければ、最悪売却をする必要が出てきてしまいます。これでは何のための財産分割だったのか分からなくなってしまう。こんなケースですね。争いにならぬよう、相続発生前から当家の方針を家族間で共有しておくことが推奨されます(実践されている方は僅かですが)。その上で、何か起こっても弁護士が対応できるようにしておくことが望ましいでしょう。
 
 納税が課題の際は、まずは高い精度ので相続税シミュレーションを行い、足りない相続税をどう工面すのか?何かを売却するのか、それとも延納や銀行借入で対応するのか、こういったことを検討し、準備しておくことが必要になります。税理士の力を必ず借りることになるでしょう。
 ご参考ですが、国税庁の開示データによると、令和3事業年度は相続税申告者が約13.4万人でした。日本税理士会連合会によると、税理士は令和5年3月時点で約8万人ということですから、ちょっと令和3年と令和5年で間隔が空いてますがこの際気にしないことにして。税理士1人あたり約1.7件の相続税申告をしている計算になりますね。ただ、税理士さん全員が毎年1件以上相続税の申告をするのかというと、そんなことは無いですよね。相続税申告の実績が多いところは案件が集まり、そうでないところはやるチャンスは無い。ここの見極めは非常に大事になります。
 付き合いの長い顧問税理士に頼むのが良いでしょう…と言いたいし、相談して「ウチがやります!」という答えが返ってきた場合、任せないわけにもいかなくなってしまうでしょう。実際そのようにされている方もいらっしゃいますが、実績のある事務所に任せたいところではあります。

 また「北海道と沖縄と新潟に相続人が散らばっており、実家が愛知県です」といった時。相続手続き自体が非常に重くなることは覚悟しなければなりません。
 それぞれに家庭を持ち、仕事を持ちながら、協力して相続手続きを進めていくことは大きなストレスがあるはずです。相続人が多ければ、不満を言い出す者が出てくることもしばしばあります。
 難なくまとまるはずだったのに「俺はこれだけしか貰わないって譲歩してるのに」「なぜスケジュールくらい合わせられないんだ」「それだったら俺も言わせてもらう」という形で状況が悪い方へ進んでしまうのは、相手の立場になって考えれば避けられることではありますが、いかなる時も相手の立場になって考えられる素晴らしい人は、そうそういないのではないでしょうか。
 そういう時には信託銀行などの大きな組織に、相続人の間に入ってもらい、また物理的な負担も引き受けてもらう。こういった選択も浮かんでくると思います。お金で兄弟仲は買えません。執行報酬ははっきり言って目玉が飛び出るほど高い場合が多いですが、お金で兄弟仲は買えませんから。
執行報酬を惜しまれる方は、その辺り想像力が足りていないと思います。

 余計なことを言いますが、如何にその時点で完璧な遺言を作ったとしても、資産の状況も家族の状況も時間の経過とともに変わります。それに伴って気持ちも変わってくるでしょう。更には「うちのことは全部分かってるから」と頼んだ弁護士や税理士が思いがけず亡くなってしまうかもしれません。遺言は書いて終わりではなく、関わる人も含めてメンテナンスが必要になるのです。

 金融リテールは、その人その人に相応しい遺言を組み立て、遺言作成後のメンテナンスを行う立場としては、これ以上無い良いポジションであると思われるのですが、自社の遺言信託に当て嵌めることばかり考えてしまっているので、非常に勿体無い感じになっていると思います。
結局無理して作った遺言は大量に解約されているとも聞きます。銀行が出来ない以上、IFAや保険営業がその役目を奪っていくのは、アリなんじゃありませんか?

 ということで、資産承継で悩まれている方も、悩まれている担い手の方も、ご相談お待ちしておりますm(_ _)m

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