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お世話になった人⑯

私が23歳から27歳まで、あるホテルのルームサービスにいた時な話である。今までは、1人ずつ紹介してしたが、今回は複数人をまとめてお話する。

よく話しかけてくれる人は、名前を覚えたいと私は思う事が多いのだがホテルで働いていると、それは結構容易である。

ゲストスペース、バックスペースに関わらず、全ての職種の人が名札をつけることになっているので、話している時に、名札を見れば、次第に顔と名前が一致してくる。

私は、場面緘黙でダメ出しをたくさんされたせいで、この飲食の世界に入ったのだが、私の人の名前を覚えようとする力は、少し並外れているらしい。今になって思うのだが、私がその世界で働くことの理由はお金ではなく、性格を変えようと思うところにあって、生活の為だけに仕事をしているような人にとっては、人の名前なんてどうでもいいのかもしれない。

今回、お話するのは、ホテルのメインラウンジのコックさんたちである。全部で10人くらいいたが、約1名を除いて、とても気さくで、よく私に話しかけてくれていたのだった。また、夜勤をやっている時は、客室の稼働率を伝えたり、日替わりのスープを聞いたりする関係で、日頃から何らかのやり取りがあったので、挨拶だけでは終わらない関係を築くことができたんだと思っている。

料理長から、No.2の人や、その他にも、みんなそれぞれに性格が違って楽しかったのを覚えている。先程挙げた約1名というのは、他から異動してきた人で、その前の部署では、料理人魂というか結構怒鳴りやすい人だったので、少し苦手意識があった。だが、メインラウンジは、オープンキッチンになっているので、そういう事は許されないので、その人はラウンジに移ってからは黙々と仕事をしていた印象があった。

ある日、そんな仲の良いコックさんのひとりから、ラウンジで怖いコックさんがいるかと訊かれ、私はその人の名前を挙げたら、みんな大爆笑していた。私はその人が笑っている所を見たことがなかったが、日数が経つにつれ、彼にも笑顔を見せるようになっていったのを覚えている。

私が、このホテルを去った理由は体調不良なのだが、言ってしまえば強いうつ状態である。最後の1年はもう本当に辛くなってしまって、自分から人に話しかける事さえ、かなり体力を要することとなってしまったため、ほとんど誰にも挨拶できないまま、やめてしまったのだった。

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