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歯科インプラントのデメリットと歯科医の本音

第1 はじめに

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  歯科インプラント(以下「インプラント」という。)は歯が抜けた場合の治療法の一つで,骨に穴をあけて人工歯を埋め込む手術である。

 今回は,インプラントの「世間ではあまり知られていないが広く知ってもらうべきこと」を書く。

 私は歯科医ではないが,本稿の内容は主として歯科医が書籍やネット記事で書いていた記述に拠っている(なお,解釈やまとめ方の責任は私にある)。

1 執筆の理由

 私はレーシックやICLなどの視力矯正の安全性問題に関心があり,個人的にレーシック被害(いわゆるレーシック難民の問題)について調べてきた(現在も継続中であり,レーシックは基本的に受けるべきでない手術だと考えている)。
 その中で,レーシックと並んで「実は危険な手術」としてしばしば取り上げられていたのがインプラントだった。

 インプラントについて少し検索すると,インプラントを勧める歯科関連の記事であふれている。
 だが,歯科医は本当に本音からインプラントを勧めているのだろうか?自分の両親や子供が歯を欠損した時にも,同じようにインプラントを勧めるのだろうか?

 インプラントはレーシックと比べ物にならないほど裁判が頻発している。職業柄それは知っていた。
 しかし,実際のところインプラントのデメリットはどういうものなのか,インプラントはどういうリスクがある手術なのか。そこまでは知らなかった。

 ネットで調べてもよく分からなかった。なにせあまりに情報が多すぎる。さらにインプラントを勧めているのがサービスの売り手である歯医者のため,どうしても良い点だけを強調しているように感じてしまう。

 そこでこの度,インプラントの悪い噂は本当なのか,実際のところどういう問題があるのかを本気で調べることにした(なお,私自身がインプラント手術を受けようとしていたわけではない)。

 そしてインプラントについて調べてみると,レーシックと同様に一般にはあまり広まっていないリスクがあると知った。それは「メンテナンスにおけるリスク」である。

 インプラントで後悔する人が一人でも減ってほしいと思い,調べたこと,考えたことをnoteにまとめることにした。

2 調査手法

 インプラントについて調べるにあたり20冊ほどの市販本に目を通した(主な参考文献は末尾に記した)。詳細な引用は省略しているが,本稿の記述は信頼できる文献に拠るようできる限り心がけた。

 また,肯定論,否定論のいずれもできるだけ多く参照し,可能な限り公平な立場で解釈したつもりである。もちろんどの業界とも利害関係はない。

 なお,ネット情報はあまりにカオスだったため,別で出しているICLの記事ほどに口コミ等の詳細な調査は行っていない。

3 本稿の概要

 本稿の概要を書いておく。

【第2】
 インプラントには確かにメリットがある。

【第3】
しかし,インプラントは
①メンテナンスが非常に難しい,
②メンテナンスに失敗すれば骨が溶けるなどの重大な事態が起こりうる,
③元気なときは仮にメンテナンスがうまくいっていても,老後になればメンテナンスが困難になる,
というリスクがある。

【第4】
だから,インプラントを選択するならば,少なくとも,
・メンテナンスの技術を習得し,
・心を入れ替えてメンテナンスを怠らないこと
・老後の対策を考えておくこと
が必要である。

そして,
・歯科医のインプラントへの本音(【第5】),
・インプラント・入れ歯・ブリッジ以外の方法(【第6】)
についても言及した。

 では,早速本論に入りたい。

第2 インプラントのメリット

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 歯が抜けた場合の治療方法は大きく3つある。
 それは,①入れ歯(差し歯),②ブリッジ,③インプラントである(この3つ以外の選択肢については「第5」で後述)。
 ②ブリッジは,抜けた歯の両脇の歯を削り,削った両端の歯を土台にして一体型の被せ物を装着するものである。

 入れ歯・ブリッジと比較して,インプラントの主なメリットは以下である。

1 ほとんど自分の歯と同じように食事することができる。

 入れ歯は噛む力が5分の1から10分の1に落ちると言われるが,インプラントは噛む力が落ちない(むしろ噛む力が高まりすぎるという問題が指摘されるほどである)。
 また,入れ歯は熱を伝えにくかったりするため食べたときの違和感が残るが,インプラントは食べたときの違和感がない。入れ歯は食感や歯ごたえを犠牲にすると言われる。
 さらに,入れ歯の大きさ次第では,入れ歯は口腔内を狭めることになるという話である。

2 見た目が良い

 入れ歯は見た目が悪く,また老人のイメージがある(あくまで一般論)が,インプラントは見た目も良く,若々しい見た目を保てる。

3 取り外す必要がない

 入れ歯は洗浄するために取り外す必要があるが,インプラントは取り外す必要がなく,物理的にも精神的にも負担が少ない。

4 両脇の歯を削らない

 ブリッジは両脇の健康な歯を削るが,インプラントは両脇の歯を削らないで済む。
 また,ブリッジは3本分の歯を両脇の二本の歯で支えるため,噛む時に両脇の歯への負担が大きくなるが,インプラントは両脇の歯に負担をかけない。

5 フロスが入る

 ブリッジは歯同士がつながっているため,歯と歯の間にフロスが入らず掃除がしにくいが,インプラントはフロスを使うことができるため掃除がしやすい(もっとも,ブリッジ用のフロスも存在する)。

6 骨吸収を防ぐ

 インプラントは,入れ歯やブリッジと異なり噛む時にアゴの骨に刺激を加えることができ,アゴの骨のやせ細り(骨吸収)を防ぐことができる。

 このように見てくると,インプラントは確かにメリットが多く,入れ歯やブリッジよりも優れているように思える。
 だが,必ずしもそうではない。
 メリットがある一方で,大きなデメリットがあるのだ。

第3 インプラントのデメリット

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 インプラントはメンテナンスが非常に重要だと言われる。このインプラントの「メンテナンスにまつわるリスク」がインプラント最大のデメリットであると私は考えている。

具体的には,

 ①メンテナンスが非常に難しい,
 ②メンテナンスに失敗すれば骨が溶けるなどの重大な事態が起こりうる,
 ③元気なときは仮にメンテナンスがうまくいっていても,老後になればメンテナンスが困難になる,
 というリスクである。

 これら3つについて論じるとともに,最後に④それ以外のリスクについても言及する。

1 ①メンテナンスが非常に難しい

 インプラントのメンテナンスはその構造上非常に難しいものである。また,患者本人のメンテナンス能力の問題もある。
 以下,解説する。

(1) 骨内と外界がつながってしまう

 インプラントは,土台が骨内に埋め込まれる一方で,先端は常に外界に露出されている。つまり,人体の最も深い部分である「骨内」と,菌が多く存在している「外界」とを直でつなぐ仕組みになっているのである(下画像参照)。
 この構造により菌は体内にかなり侵入しやすくなっている。これがインプラント最大のリスクであると考えている。
 同じく人工物を体内に埋め込む心臓のペースメーカーや人工関節は,一度体内に埋め込まれれば外界に触れることはまずないため,細菌感染はあまり問題とならない。
 他方,インプラントは外界に常に露出されるために生体を外界の菌にさらしている状態になっている。その結果細菌感染が起こりやすく,一度内部に感染が起こると細菌を排除することが困難になるため重篤化のリスクも高い。

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https://www.reddroadfamilydental.com/procedures/dental-implants

(2)口内の菌の多さ

 口内には細菌が1000億個から1兆個も存在していると言われ,細菌の多さ(つまりは汚さ)は人体の中でも屈指の箇所である。
 加えて,口は汚れた空気や食事からも多種多様な菌が入ってくる環境であるうえに,皮膚のように石鹸できれいに洗浄することもできない。
 そして,歯磨きではプラークを完全には除去できず,細菌の完全な排除は不可能である。
 つまり,インプラントにより露出された骨内は数多くの細菌にさらされることになる。
 
(3)免疫機能が働かない

 天然歯の場合,仮に歯を支える骨が壊滅的な状態であったとしても,様々な免疫が機能し歯や骨を守ろうとする。しかし,人工物であるインプラントには免疫機能が働かず,守り手が存在しない。

(4)危機感を持ちにくい

 インプラントの歯は天然歯と異なり「痛い」などの自覚症状を発生させないので,感染が進行していても気づくことができずメンテナンスも怠りやすい。(さらに進行すると,今度は骨に激痛が生じて抜去を余儀なくされることもある。)

(5)メンテナンスの習慣や技術が不足

 インプラントを希望する人の大多数は歯周病や虫歯により歯を失った人だという。
 しかし,天然歯のメンテナンスすら十分にできず歯周病や虫歯で歯を失ってきた患者が,心を入れ替えて歯のメンテナンスを十分に行うことが本当にできるのか。


 このように,インプラントのメンテナンスは非常に難しいものであると言える。少なくとも,天然歯のメンテナンスよりもかなりハードルが上がっていることはおわかりいただけると思う。

 なお,「インプラントを入れても普通の歯磨きでOK」だの,「インプラントをすれば歯磨きしなくてもいい」だのといった甘い俗説もあるらしいが,決して鵜呑みにしてはいけない。
 このような俗説は,歯科医院を儲けさせるために,患者にインプラントを何本も受けさせる目的で流布されている(放置されている)のではないかと邪推してしまう。

2 ②メンテナンスに失敗すれば骨が溶けるなどの重大な事態が起こりうる

 日本歯周病学会の調査では,インプラント手術後3年を経過した人の43%が,細菌に感染することであごの骨が溶ける病気や,この病気になる前の段階の炎症(インプラント周囲炎)を起こしているという。(これはNHKを始め多くの媒体で報道されたようである。)
 https://www.sakodental.com/blog/2016/11/post-67.html

 また,インプラント先進国であるスウェーデンでは,インプラント周囲炎の発生率は28%から56%だったというデータもある(日本歯科新聞社「歯科医師100人に聞いた『インプラントのメリット・デメリット』」2014.22)。

 先のリンク先の先生がおっしゃるように,「手術後3年を経過した人の43%」という数字はスウェーデンのデータの平均値(42%)と概ね一致しているといえ信憑性は高い。

 この数字の捉え方は様々あろうが,少なくともメンテナンスを十分に行えなかった人がかなりの割合でいるということは言えよう。
 また,日本よりも歯磨き意識の高いスウェーデンでこのような高い数字であることをみると,やはりインプラントはその構造にやや無理があるのではと思われる(もっとも,スウェーデンの手術レベルや生活環境も関係しているだろうから数値だけで単純に考えることはできない)。

 インプラント周囲炎は,炎症により痛みが出たり,進行すると骨が溶けたり,ひどいときには「自分の顎が消失」することもあるらしい。歳を取れば取るほど骨密度が低下するから顎の崩壊リスクも高まる。

 また,一度骨が溶けてしまったら「インプラントを抜去して普通の義歯を入れる」ということが困難になる場合もあるという。

 このインプラント周囲炎については一度画像検索していただくと良い。ちょっとグロいが,このようなリスクがあるということを知っておくべきである(リンク先画像はグロ注意)。
https://www.google.com/search?q=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E5%91%A8%E5%9B%B2%E7%82%8E&rlz=1C5CHFA_enJP821JP821&sxsrf=ALeKk02K2MxFDS3xwhaDiNhqvNbXZghZ4g:1596045627885&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=2ahUKEwiu0MelhfPqAhVLBKYKHbVwDqYQ_AUoAXoECA8QAw&biw=1893&bih=979

 加えて,メンテナンスに失敗すると敗血症などの全身に関わる重大なリスクや口臭発生のリスクなど様々なリスクがあるという。

(参考)
破滅的トラブルは5年後に襲ってくる!「インプラント手術」にご用心(週刊現代)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50356

(ついでに,その他の週刊現代の記事)
歯医者を疑え!簡単なQ&Aで彼らのウソを見抜く方法
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55911?_gl=1*1d8p0cc*_ga*bXRXY1BTQV85X3pLemt3TEdtUGdaaVVXeWNUcHMwcFZ6WC1YQk5KamlRNUhDbnJGRTdlamZXcl9YR1VPWjZ1ZQ

過当競争で「悪徳歯科医」が急増中!金儲けのために歯を削る医者
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50126?_gl=1*sm9zc1*_ga*bXRXY1BTQV85X3pLemt3TEdtUGdaaVVXeWNUcHMwcFZ6WC1YQk5KamlRNUhDbnJGRTdlamZXcl9YR1VPWjZ1ZQ

3 ③元気なときは仮にメンテナンスがうまくいっていても,老後になればメンテナンスが困難になる

 ある程度若い段階では,歯のメンテナンスをしっかり行い上記のインプラント周囲炎を防止することが可能なのかも知れない。

 しかし,老後になり体が思うように動かなくなってしまったり,入院したり,さらには寝たきりになったり認知症になったりして介護される必要性が生じた段階ではどうだろうか。
 その状態で歯のメンテナンスが十分にできるであろうか。
 介護してくれる人に入念な歯磨きの介護までお願いすることが現実的に可能であろうか。

 老後の十分なメンテナンスは,多くの場合やはり困難であろうと思う。

 そして,入念な歯磨きの介護がお願いできなかった時,その先に待っているのは顎の骨が溶けたり,顎まわりが崩壊したり,ひどい口臭を周囲に撒き散らすことになる晩年である。

 現実的には,寝たきりになったり認知症になったりすればインプラントを抜去する必要が出てくることも多いと思う。

 ただ,インプラントは顎の骨と完全に一体化するため,いったん固定したあとに外すとなれば,周囲の骨を削らなければならず大掛かりな手術を覚悟しなければならない。
 そして骨を大きく削る結果,その後に入れ歯等を入れることも困難になることもある。

 また,インプラントの抜去はその製造元ごとに異なる器具が必要らしく,インプラントの製造元を把握しておかなければ抜去しようとしてもできないということがあるらしい。
 さらには,インプラントの製造会社が廃業してしまえば抜去の器具を入手すること自体が困難ということも起こるらしい。

 このように,インプラントには老後の問題も数多くある。

 老後の対策を予め考えておかないと,安心してインプラント手術を受けることはできないだろう。

4 ④その他のリスク

 箇条書きになるが,その他で気になったリスクを書いておく。

・歯には咀嚼(そしゃく)時に顎への負担を和らげるクッション(歯根膜)があるが,インプラントにはこのクッションがない。
 そのため,良く言えば「硬いものを噛める」,悪く言えば「顎への負担を省みず硬いものでも噛めてしまう」。
 その結果,顎骨に負担をかけたり,対合する健康な歯の破損・根の破折を招くリスクがある。

・睡眠中の食いしばりにより,硬いインプラントにより他の歯が負けてぼろぼろになるリスクがある。
 強すぎるインプラントは「歯ではなく牙(きば)だと感じる」という歯科医師もいる。

・生体に金属を埋め込むことから,金属アレルギー等のリスクがある。


第4 インプラントを選択する人に伝えたいこと

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1 私の考え

 以上のようにインプラントには大きなリスクがあり,歯周病や虫歯で歯を失った人のインプラントは基本的には慎重になったほうが良いと私は考えている。
 もっとも,私個人としては必ずしもインプラントに全面的に反対というわけではない。

 患者さんは,「年をとっても若々しく,人生を楽しみたい」と前向きに考えてインプラントを選択する。
 希望を持って生きるためにインプラントが必要ならば,インプラントを否定することはその人の人生を奪うことになる。
 これは私の主治医(インプラントは行っていない)に言われた言葉であり,私も共感を覚えたことである。

 また,男である私には十分には理解できないが,いつまでも美や若さを保ちたいという女性の本能的な希求もあるのかもしれない。

 さらに,インプラントは先で書いたように多くのメリットもあり,人生の質(QOL)を高めてくれることも事実である。
 実際,インプラントの満足度は入れ歯・ブリッジに比べて高いという話もある。

 そして,先に書いたようなメンテナンスのリスクがある一方で,メンテナンスに成功し,20年以上インプラントを維持できている人がいるのもまた事実である。
 つまり,構造上は感染リスクがあるとは言え,皆が感染しているわけではない。
 そうであれば,インプラントによる骨内と外界との交通は致命的な問題とまではいえず,メンテナンスは困難とはいえ不可能とまでは言い切れないのだろう。

 だから,もし入れ歯・ブリッジ・その他の手段(後述)で代替できないというのならば,インプラントという選択肢を否定することはできない。

 後で少し触れるが,インプラントに基本的には反対する歯科医でも,事故等で歯を失った(つまり虫歯や歯周病が原因ではないということ)若い人に関しては,インプラントは有力な選択肢になると考えている人は複数いた。いかなるケースでも例外なく反対するという歯科医はあまりいない印象である。

2 インプラントを選択するならば覚悟が必要

 ただし,上述のようにリスクは高く,インプラントを選択するのであれば相応の覚悟が必要である。
 
 具体的には,インプラントを選択するならば,少なくとも,
・メンテナンスの技術を習得し,
・心を入れ替えてメンテナンスを怠らないこと
・老後の対策を考えておくこと
 が必要であると考えている。

(1) メンテナンス技術の習得

 以下,(1)(2)では,いくつかの本に書いてあったことや私が主治医から聞いた話などを総合しまとめたものを書いておく。

 ①歯科医院で教わった正しい歯磨きを励行する。

 ②インプラントでもっとも汚れがつきやすく,弱点となるのがインプラント体(歯根部)とアバットメント(支台)の境目の部分である。時間がないときは,まずその部分を磨く。タフトブラシを使うと良い。

 ③歯間ブラシ,デンタルフロス(糸ようじ),薬用デンタルリンスを併用すると効果的である。

 ④定期的な通院(少なくとも3ヶ月から6ヶ月ごと)で,歯石の除去やPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning専門家による機械的歯面清掃),フッ素塗布などを行ってもらう。

歯ブラシだけでは頑張ってもプラークの58%しか取れない。一方,フロスを併用すればプラークの88%まで取れるという。
https://www.youtube.com/watch?v=q9wtLEuxe_s
特にインプラントをした方は,是非ともフロスを併用すべきである。
(参考)
基本的な歯磨きの仕方(あくまで一例である)
・歯と歯肉の境目は,毛先を直角に当て,あまり力を入れず小刻みに動かす。
・前歯の内側は,歯ブラシを立てて先端の方を使って一本ずつ磨く。
・奥歯の内側は,毛先を奥の内側に入れて,歯と歯肉の境目に当て,前後に細かく動かす。
・歯の高さが異なる部分は,歯ブラシを斜めに入れて毛先を小刻みに動かし,一本ずつ磨く。
・歯並びが凸凹している部分は,歯ブラシの先端,ワキ,カカトなどの部分をうまく使って磨く。
・歯と歯の間は,歯間ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)で両面とも汚れを落とす。
(萩原芳幸・葉山めぐみ「50歳からインプラント」2005.104頁)

(2) 心の入れ替え

 ①間食を見直す。
 間食が頻繁であれば口内が常に酸性状態(菌に有利)となり,口内が中性(菌に不利)となる時間や歯が再石灰化する時間を十分に確保できない。
 甘いものを食べるのであれば「食後すぐ」が望ましい。
 短時間の間隔しか空けない頻回の間食は避けるべきである。

 ②細菌の繁殖を防ぐために偏食をなくし,栄養バランスのよい食事をとるよう心がける。

 ③過労,ストレス,睡眠不足を極力避ける。
 免疫力の低下を防ぎ,感染を予防するためである。

 ④規則正しい生活(食事,睡眠など生活リズムの遵守)を行うことにより,口内環境を良好に保つ。

 ⑤定期的な検査に行く。歯に汚れがついていないか,歯磨きが正しくできているか,歯周病やインプラント周囲炎を起こしていないか(進行させていないか),かみ合わせはあっているか等を確認してもらう。
 問題があれば,それぞれに対して具体的対策をとる。

 ⑥禁煙する。

 ⑦糖尿病のリスクがある人は,糖尿病にならないよう食事・運動に気をつける。

 ⑧鼻呼吸を心がける。
 口呼吸は唾液の乾燥等で菌の繁殖に有利となるからである。

(3) 老後の対策

 

 ①最近は,老後に介護を受けることも考慮した抜去しやすいタイプのインプラントもあるようである。
https://www.nakayama-implant.com/old-age

 ②また,抜去が必要となったときのために,できれば自分が入れているインプラントのメーカーを把握し,家族や介護してくれる人に伝えておくべきかも知れない。
 それができなくても,インプラント手術を受けた歯科医院の名前ぐらいは伝えておきたい(カルテ等を調べることができるように)。

 なお,仮に抜去するとしても,例えば認知症になったあとで抜去となれば,「代わりに入れ歯を入れる」ということ自体が難しくなるという。
 というのも,認知症になる前に入れ歯を入れる習慣を身に着けていなかったために,入れ歯を「異物」と認識し,吐き出してしまうことが多いからだそうだ。

 ③また,抜去せずに老後を過ごすのであれば,歯磨きに力を入れている介護者を探すことが必要になるが,それはある程度高額な介護になるのかもしれない。
 今後はインプラントを入れている要介護者も増えてくるであろうから,そういったサービスを行う施設も増えてくることだろう。
 インプラントを考慮した老後の施設選びが必要になるかも知れない。

第5 歯科医の本音

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 世間では歯科医によるインプラント礼賛の記事が溢れているので,「インプラント反対派の歯科医の本音」も載せておく。

 もちろん,自身も歯科インプラントをしたいと思って患者にインプラントを勧めている歯科医もいることであろう。
 だが,私が調べたところの印象では,「自分や自分の身内にはインプラントをしたくない」というのが多くの歯科医の本音だと思う。

 これはレーシックでも同じであった。「レーシック医がメガネを掛けている」という笑い話があるが,これはただの冗談ではなく現実にそのとおりなのである。
 レーシック手術を受けた(あるいは今後受けたい)眼科医はかなり少ないといって良い(データを含め,詳細はICLの記事で論じている)。

ある歯科医のブログ
「私も開業してから多くの歯科医療関係者(歯科医師・歯科技工士・歯科衛生士・歯科助手・歯科関係メーカー等)の治療も手掛けてきました。全ての方に言えることですが、歯科医療業界に携わっているだけあって皆さん自分の歯をできる限り保存したいという希望です。そして欠損補綴にインプラント治療を希望される方はいらっしゃいませんでした。むしろ実際にインプラント治療を行なったり・見てきた方は「なるべくなら避けたい」「絶対に嫌だ」というのが本音でした。これが現場に携わった方の正直な意見と言えるでしょう。」
http://www.funasaka-dc.jp/shikou/shikou.cgi?vol=59
私は自分の歯をインプラントにしている歯科医を知りません。彼らは口を揃えて「入れ歯で十分」だと言います。インプラントが自分の歯のように噛める夢のような技術なら,なぜ自分もしないのでしょう?」
(サイトウ歯科医院院長 斎藤正人「やってはいけない歯の治療」2017.13頁)
 私(本稿の筆者)が通う歯科の先生(インプラント手術は行っていない)も,インプラントのせいで老後に酷い口内環境になっている患者さんを何人か見てきたと言う。インプラントを抜去しようとしてもインプラントの製造元がわからず,抜去できなかったという話も聞いた。
 このような状況を見てきたからか,40代から60代の人たち(歯科インプラントのメインターゲットとされるらしい)には基本的には勧められないと言っていた。
 ただ,「事故で前歯を失った20代の人(虫歯や歯周病なし)が歯科インプラントを希望するならば,両手を挙げて賛成する」とも言っていた。理由は二点で,ひとつは,これまで十分なメンテナンスができてきたことから,今後のメンテナンスも十分行えると考えられること。もうひとつは,20代という若さから,インプラントよるメリットを享受できる期間が長いからということだった。(もちろん,顎の骨がしっかりしていること等の一般的条件を備えていることが前提)。
アメリカの状況でも一流の歯科医はインプラントなど行わないそうです。優れた方法があるということです。
この先生曰く,「インプラントという治療は、ハイリスクノーリターンの典型的な治療であるため良識ある一般開業医の歯科医師は行わない治療方法」ということです。
https://www.gvbdo.jp/soireba/implant/





第6 入れ歯・ブリッジ・インプラント以外の方法

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 入れ歯・ブリッジ・インプラント以外の方法も色々開発されている(もっとも,厳密にはどれもこの3つに分類されるのかも知れない)。
 その一部を紹介する。

 適応対象が限定されていたり,強度に問題があったりするものもあるようであるが,あくまで参考までに,詳細は各自でお調べいただきたい。

 念の為書くが,どこの歯科医院にも報酬などもらっておらず,利害関係はない。

 また,私が調べきれていない,さらに良質なものもあることだろう。良さそうな手法をご存知の方は,コメント欄から教えていただけるとありがたい。

 なお,虫歯の場合,もしもその歯がいまだ抜けていないならば,たとえぼろぼろだったとしても,神経に痛みがあるとしても,極力抜かずに根管治療を試みるのが最良だと思う。

 歯科医の谷口清先生は,「痛みを止め,歯を残すウデを持つ根管治療医をさがすこと。歯は抜くな!抜かずに治せる歯医者は,必ずいる。」とおっしゃっている(谷口清「『ダメな歯医者』の見分け方」2007.98頁)。

 私もそう思う。
 天然の歯に勝るものは今の所存在しないであろう。
 天然の歯を残せるのならば,あえてリスクを取って異物を骨内に埋め込む必要はない。虫歯だけでなく歯周病の場合も,可能な限り存続させる方針が望ましいように思う。
 安易に抜歯を勧めてくる歯医者には注意を要する。

ヒューマンブリッジ
https://www.abe-shikaiin.net/pages/humanbridge.html

ファイバー固定ブリッジ
https://amanodental.com/nondrill-bridge.htm

ウェルデンツ
https://amanodental.com/weldenz.htm

バネのない入れ歯
https://www.shinseikai.jp/department/dental/denture/sawayaka.html

ソケット
https://www.bitecglobal.com/product/socket/

人工歯根
http://nishihara-world.jp/2015wp/work/work04/
→これは情報があまりなく,その良し悪しはよくわからないのでご注意願いたい。
上記のものと異なり,インプラントと同様に人工物を埋め込む手術なので,インプラントと類似したリスクがあると考えられる。
 これは「怖いインプラント」(船瀬俊介著・2018年)で紹介されていた。
 インプラントと同じような術式だが,インプラントのようなボルト・ナットを使わず,人間の歯根のような丸みを帯びた形状のものを埋め込むというものらしい。
 興味のある方は,各自で良く良くお調べの上判断していただきたい。

第7 さいごに

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 できる限り簡潔に書こうと心がけたのだが,今回もまた長文になってしまった。
 どこか一つでも参考になれば嬉しく思う。
 
 歯科医院はコンビニの1.7倍もあり,歯科医師過剰問題はずいぶん前から叫ばれている。
 20冊ほどの市販本を読んだが,そのほとんどに,「金儲け主義のインプラント歯科医」の話が取り上げられていた。
 NHKの番組に出演した医師は,「インプラントは歯科医師の救世主。やればやるほど歯科医院はうるおいます」(「怖いインプラント」(2018年)57頁・船瀬俊介著)と言っていたそうだ。

 一部の歯科医院がインプラント患者を「食い物にしている」という話は迷信ではない。
 倫理観のない歯科医に勧められ,覚悟もないまま,安易にインプラントを受けてほしくない。
 そういう思いから本稿を書くことにした。

 先にも書いたが,私はインプラントを全否定するつもりはない。
 ただ,インプラントを仮に受けるとしても相応の覚悟を持っていただきたい。
 そして,歯科医院選びにはどうか慎重になってほしい。

 皆さんの幸運を祈っています。

参考文献(一部)
※順不同

萩原芳幸・葉山めぐみ「50歳からインプラント」2005
中島和敏「新・インプラントで復活!食べる幸せ」2016
高田徹「インプラントで食事を喜びに」2019
谷口清「『ダメな歯医者』の見分け方」2007
A歯科タニグチ会「抜かれる前に読め あなたの歯医者は大丈夫?」2009
斎藤正人「やってはいけない歯の治療」2017
岩田有弘「歯は抜くな インプラントの落とし穴」2007
岩田有弘「歯は残せ 知らないと怖いインプラント」2009
岩田有弘「歯は抜くな 抜くと言われた歯を守る」2018
梅田和徳「インプラント治療のすべて」2010
抜井規泰「知らないと怖いインプラント治療」2009
日本歯科新聞社「歯科医師100人に聞いた『インプラントのメリット・デメリット』」2014
船瀬俊介「怖いインプラント」2018


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