『1518!』4巻聖地巡礼記in戸田
「荒川」を聖地巡礼する
2019年4月に7巻を刊行して完結した、高校生徒会漫画の傑作『1518!(イチゴーイチハチ)』。その舞台が主に埼玉県川越市であることは、読まれた方はよくご存知でしょう。
実際に『1518!』の聖地巡礼をされている様子は、Twitterやブログでたくさん発信されていて、私も色々拝読し、掲載された写真に登場人物たちを見出すべく、空想を働かせて楽しみました。
いいですね、聖地巡礼。
そうして色々な聖地巡礼を見ているうちに私は、本当にたまたまなのですが、それらの聖地巡礼の記事群に共通する、ある事に気づいてしまったのです。
荒川が出てこない。
公立受験に失敗した「私立松栢学院大付属武蔵第一高校(通称:松武)」の新入生たちが、通学時に電車で渡る、通称「三途の川」。この川は、埼玉県民には割とおなじみの、県の中央を切り裂くように流れる大河・荒川です。
埼玉県民には公立高校信奉が根強く、公立に落ちて併願する私立に行くことを残念がる傾向が、昔からあります。
松武生にとっては屈辱を味わう光景として、象徴的に登場する荒川。渡る場所は、JR川越線の指扇・南古谷間の鉄橋です。
ここについては、場所を指摘している方はおられました。
ですが、実は荒川は作中に、また別の意味合いを与えられて登場する箇所があります。
第4巻の後半、公志朗・幸・宇賀神の三人で、河川敷でキャッチボールをしているところへ現れる、環会長と、弟の大輔。大輔との野球勝負で「技の野球」のかっこよさを教え、会長の野球復帰を祝福した公志朗の名シーン。
あの場面で、幸は公志朗に無理をさせまいと、彼の所持品を手に言います。
「無茶したら荒川にドボンするからね!」
あ、ここも荒川じゃん。
ここで荒川は、過去への執着から自由になり、先へと進もうとする公志朗の再出発の場として、「三途の川」とは真逆の意味を与えられています。
この場面も、先ほどの川越線の鉄橋あたりなのかな……?
作中ではバックネットが描かれていることから、それなりの設備かと思い、鉄橋周辺を調べてみましたが、それらしい施設は見つかりません。
別の場所の可能性を探るうち、私はある場所を指し示す、二つの情報を見つけました。
一つは第6巻p35にある、「川越市舞台地図」。お手元にある方は、この地図の右下を見てください。
「荒川運動公園」(戸田)
とありますよね。
確かに荒川は、戸田を通って東京へ流れてゆきます。
本当に戸田でいいのか……。
これを補強する情報として上げられるのが、環会長のシニア野球チームの名前「戸田荒川」です。会長は戸田で、荒川のグラウンドでプレイしていたのだろうか……。(因みに幸の地元は戸田で、会長と幸は同じ中学)
確かに、戸田の荒川河川敷に野球グラウンドがある、という情報はネット上にかすかにあり、私はこれらの情報を手がかりに、実際に現地に行って、グラウンドを探してみることにしました。県民だしね。
戸田に行くぞ!
2019年9月20日(金)、天候は晴れ。
最寄駅はJR埼京線「戸田公園」駅。周辺は住宅街で、平日にでかい一眼レフをぶら下げていると、不審者と思われるのが怖いので、道中は撮影せずに、現地をまっすぐ目指します。
同じような風景に迷いそうになりながら(帰りは見事に迷いました)、ようやく向こうに荒川の堤防が見えて来ます。駅から堤防まで、男性の足で12、3分くらいです。
堤防のすぐそばには戸田漕艇場。昔のオリンピックでも使われたそうです。
土手に沿って左(下流方向)へ。スロープになっていて、階段より登りやすいかと思ったのですが、ここまで地味に坂道がきつい。
登り切ると、すぐそばを、埼京線と新幹線が。特に鉄道マニアではありませんが、新幹線はワクワクします。
上流へ向かいます。しばらく行くと、右手土手沿いに桜並木。その右は道路を挟んで、戸田漕艇場。ボート競技の練習が見れる、ちょっと珍しい風景。ずっと先へ進めば戸田競艇場に。賭事の方のボートレース場です。
左に木が茂った空間が見えて来ます。ちょっとグラウンドがありそうには見えない。
あれ、でも木の間から、バックネットが見える。
降りて行くとそこは……野球グラウンドじゃん!(グラウンドの手前に側溝があり、こけやすいので注意。というか、こけました)
バックネット確認。さらにマウンドに、ホームベーズに、得点板。マウンドの公志朗視点を楽しむ。
見開きで公志朗がチェンジアップを投げる角度はこんな感じかな……。
川向こうに東京を望む。ドボンするからね!
土手の上からは想像できない広々とした空間。野球少年の血が騒ぐぜ。
実際に地域の野球チームなどが使用されているそうです。ちゃんとしまおうぜ……。
隣には何とラグビーコートが。しかも2面。こちらも実際に地域の子供ラグビーチームが使用しておられるようです。
野球場の外野の向こうも広場になっていて、なぜかこんな感じの、かわいくない動物のオブジェがいっぱいありました。公志朗達も遊んでたりして……。
作中では細かい設備については描かれていませんでしたが、全体の形や背景の雰囲気が作品と通じるものがあり、何と言ってもバックネットの感じから、ここをあのグラウンドと同定していいかな、と思います。
謎は解けた!
実際の使用について問い合わせてみた
こうして場所についてはまあ、確定したとして、そもそも私は、何でこの場所をこんなにも特定したかったのでしょうか。
実は私は、『1518!』とリンクした二次創作、というかメタ創作みたいな小説を書いていました。
その成果は下記のリンクより見ていただきたいのですが……
〈小説〉『1518!』と僕らの九月
https://note.mu/auc_comic5884/m/m034b988b0aef
この小説で登場人物達に、『1518!』の聖地巡礼としてこのグラウンドを訪れさせ、実際に野球をやらせてみたくて、私はこの場所を調べていたのです。
場所は分かったけれど、あとは実際に使用申し込みをして使用できるのか、という点をクリアにしたいところです。
そこで私は、実際に関係各所をあたり、申し込みに関する実際を調査することにしました。
●戸田市役所
まず、戸田にある施設なので、戸田市役所に、誰が管理をしているのかを確認。代表電話から「みどり公園課」に取り次いでいただきました。
あのグラウンドを含めた施設の名称はやはり「荒川運動公園」。管理はみどり公園課で行なっており、営利目的で使用する場合は申し込みの上、指定の料金を支払う必要がある、とのこと。料金がかからない利用法であれば、特にみどり公園課に申請は必要ないそうです。
さて、ここからがちょっとわかりにくいのですが、あのグラウンドを使用するにはもう一箇所、申請が必要です。
グラウンドの使用スケジュールを管理している団体に、スケジュールを押さえてもらうための申請です。バッティングしちゃまずいですもんね。
その管理団体は、「競艇組合」と説明を受けました。
●競艇組合(戸田ボート)
戸田競艇場のボートレースを施行している団体。と簡単に書きますが、今ウィキペディアを見ると、ボートレース戸田の施行団体は二つあり、なんだかよくわからない。ボートレース戸田のHPにも施行団体については全く触れられていないので、実態はちょっと謎。
もし実際に使用を検討される方は、まず戸田市役所みどり公園課に連絡し、事情を話して、市への申請が必要かどうか確認してから、競艇組合への連絡先を伺うのが、手順としては良さそうです。
私はみどり公園課の方に教わった電話番号に、電話してみました。
電話では「戸田ボートです」と名乗られたので、一瞬えっ、と思いましたが、怯まずに用件を伝えます。
そこで競艇組合の担当の方から、以下のような説明を受けました。
・申し込みは利用日の5日前まで受付
・土日祝は既に押さえられているので、平日のみ
・直接競艇組合に赴き、その場で書類を記入・印鑑捺印
・書類を書けば、その場ですぐに利用許可を出せる
恐らく事前に電話で、日程の空きを確認しておくと、無駄足を踏まなくて済むのかな、と思います。
ちょっと気をつけた方がいいのは、許可を得るまでにかかる時間です。
今回、対応してくださった方と2回、やりとりした後、一旦連絡が途切れます。
次に先方の、別の方から連絡をいただいたのは、4日後でした。
何らかの理由でこのグラウンド担当の方が、時間を取れていないのだと思いますが(ボートレースの方が全然忙しいですもんね)、こればかりは先方の都合で仕方ないことですので、余裕を持ったスケジュールで申し込みを行った方がよいと思います。
あとがき1
ここまで、実際の聖地巡礼記と、聖地を借りるための手続きなど、取材で得た知見を皆様に披露してまいりました。
突っ込みが足りない点も多々ありますが、あまり突っ込んで各所にご迷惑をかけるのも何なので、こんな感じでご容赦ください。
これからだんだん冬になっていきますが、この取材をしたのは9月、いい陽気で、ワクワクしながら土手を歩いたのを覚えています。
楽しかったのですが、いい季節の土手を歩くのは、気をつけた方がいいですね。
何しろ日差しを遮るものがない。
お昼ご飯を買っていっても、日差しが熱すぎて座って食べていられない。あのグラウンドに行けば多少は木陰もありますが、そこまで行くのに距離がありましたので、取材後半で熱中症と脱水が怖くなりました。
あと、直射日光で直火焼きになりました。私は数週間、日焼けで腕の皮がむけ続ける目に逢いました。
どうぞ水分と日焼け対策を、お忘れなく。
あとがき2
とここまで書いてきましたが、河川敷の話をするのに、先日の台風19号に触れないわけにはいきません。
戸田ではいくつかの河川が一時越水、マンホールから水が吹き出る等あり、床上浸水、停電等の被害があったようです。
被害に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げます。
荒川が氾濫せず、大水害に至らなかったのは不幸中の幸いでしたが、他の大河川で広大な河川敷に備えてあった設備や、駐めていた車が失われたのを報道で見ると、やはり河川敷のスペースは増水した時のための遊水地でしかないのだ、という思いを強くします。
戸田の荒川河川敷のあのグラウンドも、恐らく荒れ、設備もダメージを受け、先ほどの写真の光景は失われてしまったかもしれません。
なので今、2019年10月26日の時点では、現地を見に行くことは危険があるかもしれないので、あまりおすすめしません。
グラウンドを利用する方はおられるので、近々回復するとは思いますが、今はまだちょっと、早い気がします。
そして頃合いを見計らって見学に行かれる際も、どうぞ足元にはお気をつけください。怪我も、そこから病気になるのも怖いですからね。(特に土手下の道路とグラウンドの間にある側溝には、お気をつけください)
(追記)やはり、荒川河川敷のダメージは大きいようです。同じ戸田市の荒川の上流、彩湖の施設で、ダメージが大きいと報道がありました。
https://www.asahi.com/sp/articles/ASMC13H17MC1UTNB005.html
紹介したグラウンドはすぐ下流の施設ですので、しばらく復旧は見込めなさそうです。
謝辞
グラウンドの使用許可について、電話で丁寧にご対応くださった、戸田市役所みどり公園課様、競艇組合(戸田ボート)様に、深く感謝申し上げます。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
この取材を元に、高校生たちに「1518!の聖地で野球をやらせてみた」小説を書きました。こちらもぜひ、ご一読ください。
〈小説〉『1518!』と僕らの九月
https://note.mu/auc_comic5884/m/m034b988b0aef
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