人生の棚

きっとこれで正しいんだと
思ってしまって、望んだはずの未来とか、やりたかったこととか、大切にしていたこととか
全部捨ててまで選んでしまった。
一緒に退廃的な毎日を送れば良かったのに、わたしは私がどこまで行っても大事で
捨てられないくせ君と暮らしたかった。

きっとこれで正しいんだ。
それで離してしまった手も、私が選んだことだから。
それでも、知っていてほしかった。
どれだけ君との未来を望んでいたかとか
そんなものは全部消えてしまったとしても
自分勝手に映ってももういいから
知って欲しかった。
君の呆れた顔が頭から離れなかった。

君の姿を見なくなったあの日のうちに
部屋のものを全部捨てた。
買ったばかりの本も、君が触れたもの全て。
君のものは、心が揺らがないうちに全部段ボールに詰めてしまったた。
見た目が味気なくて、小さく納められてしまうところが私たちらしかった。
しばらくガムテープを貼れないまま、ぼーっと部屋を眺めてる。

真っ白いかべ、私だけの小さな部屋。
自分の好きなものだけになった棚を見て思う。
薄情だろうか、本当に好きだった。
嫌いなところばかり似ていた。
君と過ごしていたあの時
ああ、こんな気持ちは邪魔だなって思う瞬間が何度もあった。君の言動に勝手に傷ついた時とか、会いたくなって仕事が手につかなくなる時とか。
でもその時に、君が私の心にいてくれることがわかるでしょう?誰でもよかったのかもしれないけれど、ほんの数秒1人ぼっちじゃない気がして好きだったの。

ずっと言わなかったけれど、本当はね
本当は、嫌だなって思えることが少し嬉しかった。2人が思い通りにいかないことが本当は少し嬉しかった。変だってまた言われそうだから黙っていたの。嫌でも好きでもなんでもよかったけれど、だってそれがいつも君の形を教えてくれていたから。
あなたを知れる手がかりなような気がして嬉しかったことも、最低なのに幸せだったことも、無かったことにしてしまいたいこんな焦燥も、あなたは知らないまま去ってしまうんだね。
同じ気持ちだったらいいのに、とも思う。
だけど振り返らないでとも思う。
私はいつも、ひとつの気持ちになれない。

君はいつも私を笑わせたり泣かせたりしていたけど、本当は私が君を笑わせたり泣かせたりしていたのかもしれない。
君はいつも自分の傷を抉るみたいな話し方をするけれど、そんな話し方をさせていたのは私だね。
青い空だって黒くなったり赤くなったりするでしょう?私は色ばかり見てあなたを見つけてあげられなかった。今になって思うの。
あなたはぶつかって来てくれたけど、私からぶつかったことはあまりなかった。
だから、どうしてもっと早く相談してくれなかったの?とか、約束は?とか、そんなに私が信用ならなかった?とか、あなたを責める資格は私にはない。
だって私がずっとあなたにそうしてきたから。

どうして失ってから気付くのだろう。
わかってあげられなくて本当にごめんね。
謝ったら怒られるからもう言わないけれど、勇気を出せなかったことを後悔してる。
無意識だったけれど、今更が沢山あって
知って欲しいと思う程、知らないでいて欲しいと思った。

思えば、あなたはいつも誇張したがりな私の癖を非難したり、はたまた抱きしめたりしてくれた。
だけど、わたしは傍観者の立場を捨てられなかった

たまに思うの。
私の愛は本当に愛の形をしていたのかな。
もうあのダンボールは消えてしまったけれど
一つくらいあなたの物を棚に残せばよかった。
ひとつくらい、あなたになにか与えられたらよかった。
君みたいに、少しづつ受け入れられたらよかった。誰かから何かをもらったりあげたり
それを許せたらよかった。

完璧になった棚を見ていた。
私の思い通りになった棚。
可愛いお人形や、大好きな本、大好きな順番で、大好きな間を守って、ひっそりと生きてる棚。
私はこうして完璧を目指しては、いつもそれが寂しくて、しょうがなくなる。
君の愛は本当に愛の形をしていた。
それが私のためのものじゃなくても
それはずうっとこのまま線路の上にのって、誰かに届き続けるんだと思う。私はそれがすごくとても悲しくて、でも嬉しい。
私の棚はずっと、きっとこれからも、私にだけ分かる美しさで止まってる。
そんな気がする。それを望んでいるから。
あなたの棚はどう?きっと数年後にあったら
きっとその中身は大きく変わっているのだろうな
それが私の知らないあなたでも、きっとあなたらしいと思う。
願わくば、幸せでその棚が埋まっていますように。

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